虹のような儚い人生

嗚呼、それはなんて美しいのでしょう。
雨上がりの空を見つめ、貴女がはそう呟いた。
茶色で硝子の様に澄んだ大きな瞳は、空をとらえて離さない。

私が私達が自分らしく居られる場所、特別な時間。

私は、虹が嫌いだ。
無関心な私を見た貴女は、少しだけ頬を膨らませると満足な表情を浮かべ、再び筆を手に取った。

貴女は言った。

「虹は美しいですわね。つい見とれてしまいましたわ。」

私は進む気配のない課題を睨みながら、貴女に言った。

「そう…それより貴女、手を動かしたらどうなの?」

少し言い過ぎてしまっただろうか…。
しかし、こちらの心配は余所に貴女は
「ふふふ、そうですわね。」
と笑みを溢すと筆を進めた。

形はこれでいいだろう。
色を塗ってしまえば課題を提出できる。

海と空の抽象画。私自身かなりの自信作に仕上がった。

貴女の方を見た。
まだ下書きではあるがテーマは虹だった。貴女らしい。

私の方は先に色を塗ってしまおう。
絵の具を探した。
貴女の方に置いてあった。
使っても良いかと聞くと、貴女からの返事がなかった。

耳をすませば、貴女の方から小さな寝息が聞こえた。

嗚呼、またか…。

貴女をベッドへと運び、起こさない様に布団をかける。
とてもか細い寝息が聞こえる。生きている。
それだけで私は心から安堵した。

貴女は、よく虹の様になりたいと言う。
雨上がりの僅かな時間だけ出現する、儚く美しい虹になりたいと。

貴女が憧れる虹が嫌いだ。
貴女は美しい、私の心を離さない。
儚い美しさを求める、そんな貴女は嫌いだ。

どうか、虹にだけはならないで、消えないで。

私は夕日に照らされる部屋の個室で、消えてしまいそうな小さな呼吸を繰り返す姿を見
つめ、ひとつ額にキスを落とした。



貴女は今日も目覚めない。
貴女が目覚めた時、すぐに絵がかける様に道具を置いて、
ただ目覚めを待つ。

儚い貴女が眠りから覚めるまで。

ここは私達の部屋、 私と貴女が自分らしく居られる場所。
貴女を守る場所。

クライン・レビン症候群の少女と、そんな彼女に恋心を抱く少女のお話でした。

儚い貴女と私の話

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-09

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