或る喫茶店にて
※縦書き推奨
緑の林檎がしゃくりと鳴った
傍らの猫がみにゃあと鳴くと
定刻を報らす鐘がからんと鳴る
逢魔が刻の朱い濃紺が射した
黒い影が歪に真直ぐ伸びる
思っておりました、ちょうど。
想って寄りました、ちょっと。
かたりかたりと風に揺られ蝶番
語り語りと喋々喃々
もう宵でしょうか。
もう良いでしょうね。
くゆらせた煙草の煙り三日月へ抜けゆく
洋灯ちりちり蛾呼ぶ
今宵も散り散り黒い濃紺
それでは、また。
それでも、まだ…。
どうなさいましたか?
月草の花飾ふるると揺れた
左様なら。
さようなら。
独りぽっちに綺羅また舞い更けてゆく
―或る喫茶店にて
或る喫茶店にて
2012年10月20日 他サイトにて公開。