出席番号六番、坂元くんの大誤算
ショートショートです。
初稿は、投稿時のもの。
改稿は、それを元に書き直したものです。
改悪になってるかもしれません。
初稿
一年三組、出席番号六番、坂元くんには秘密の能力があった。
空中に、文字が書ける。
それも他人には見えない。
それは書くのも自由なら、消すのも自由だった。
彼はこの能力を、さしあたって次の中間テストに活かそうと思った。
ただ、この能力には二つ欠点がある。
たとえば今、空中に『人』と言う字を書いたとする。
坂元くんには、空中に『人』と言う字がちゃんと浮かんで見える。
けれどこれを書いた反対側から見ると、『入』と――文字が反転して見えてしまい、これが側面からだと全く『l』にしか見えないのだ。
判読不能。
つまり空中に書いた文字は、そのまま空中に固定され、一方方向からしか読めないのだ。
更にもう一つの問題点。
この空中に書いた文字は、坂元くんにとって、普通に物を見るのと同じで距離が離れれば離れるほど、ちっちゃく読み辛くなる。
坂元くんは、不幸にして目が悪い。
さて――テスト時の席順は、ご多分漏れず出席番号順。
教壇から見て左から、男女一列五人ずつに配される。
つまり出席番号六番の坂元くんは、ちょうどテストの時、教卓の真ん前の席――生徒たちから最も不人気な席になる。
幸いにして(?)坂元くんは背が低くって、目も悪い。
彼はこれを利用した。
だいたい席替えはどこもくじ引きが一般的だ。
けれど坂元くんが上の事情を主張すれば、くじ引きをせずに教卓の真ん前の席に彼が座る事、これに異論が出ようはずがない。
他の生徒たちは、むしろ喜んで坂元くんにその席を提供してくれる。
これでカンニングノートを書き放題だ。
坂元くんは中間テストに向けて、せっせと空中にカンニングペーパー(エア?)を書き貯めていく。
「なにやってるの?」
ある時、坂元くんはその不自然な行為を、クラスメイトの小林くんに質問されたことがある。
まさか、カンニングペーパーを書いてるとは言えないし、そもそも他人には見えない。
「いや、何て言うのかな。ホラ、算盤を習ってるヤツが暗算する時、エア算盤を弾くだろ。それと似たようなものさ」と、坂元くんは笑って誤魔化した。
準備は着々と進んでいく。
今や坂元くんの座席の回りには、見事なカンニングペーパーが浮かんでいた。
どんと来い、中間テスト!
坂元くんは、完全に余裕ぶっこいていた。
ところが、中間テストを目前としたある日の朝のHR――担任から、悲しいお知らせがもたらされる。
「……突然ですが、小林くんがお父さんの仕事の都合で、転校することになりました」
坂元くんは、目が悪い……。
改稿
一年三組、出席番号六番――中学生の坂元くんには秘密の能力があった。
右人差し指で、空中に文字が書ける。それも他人には見えない。その文字は、まるで白く細い雲のよう。それは書くのも自由なら、消すのも自由だった。ちなみにその字を消すには、左のてのひらで拭き取れば良い。彼はこの能力を、さしあたって次の中間テストに活用しようと考えた。
ただ、この能力には二つの問題点がある。
たとえば、空中に『人』という字を書いたとする。坂元くんには『人』という字が浮かんで見える。けれどこれを反対側から見た場合、『入』と文字が反転してしまい、側面からだと全く『l』にしか見えない。
判読不能。つまり、書いた文字はそのまま空中に固定され、一定の方向からしか読めないのだ。
更にもう一つの問題点。
この空中文字は、坂元くんにとって、普通に物を見るのとおんなじで距離が離れれば離れるほど、ちっちゃく読み辛くなる。坂元くんは、不幸にして目が悪い。特に最近、メガネをしてても乱視がひどい。
さて――テストの時の席順は、ご多分漏れず出席番号順。
教壇から見て左から、男女一列五人ずつに配される。出席番号六番の坂元くんは、ちょうどテストの時、教卓の真ん前の席――つまり生徒たちから最も不人気な席に着く。
坂元くんは、不幸にして目が悪い上、背もちっちゃい。
しかし彼は、これを逆手にとった。
席替えは、くじ引きが一般的だ。けれど坂元くんが前述の事情を主張すれば、くじを引かずとも彼が教卓の真ん前の席に座る事――これに異論が出ようはずがない。事実、他の生徒たちは喜んで彼にその席を提供してくれた。
やったぜ! これでカンニングペーパーは作り放題書き放題。彼は内心ほくそ笑む。と言うわけで、坂元くんは中間テストに向け、授業中、或いは休み時間と、せっせと空中にカンニングペーパーを書き貯めていった。
「なにやってるの?」
ある時、坂元くんはその不自然な行動をクラスメイトの小林くんから質問されたことがある。
まさか、カンニングペーパーを書いているとは言えないし、そもそも他人には見えない。
「ホラ、算盤を習ってるヤツが暗算する時、無意識に指先を、こうパチパチ珠を弾くように動かしてしまうだろう? それとおんなじ、似たようなもの。これは、僕が何かを暗記する時、ついついやってしまう癖なんだ」とかなんとかいって、坂元くんは笑ってその場をごまかした。
準備は、着々と進んでいく。
見よ――と言っても、他人には見えないが、今や坂元くんの座席の回りには、見事なカンニングペーパーが浮かんでいる。
どんと来い、中間テスト!
坂元くんは、完全に余裕ぶっこいていた。
ところが、中間テストを目前としたある日の朝のHR――担任から、悲しいお知らせがもたらされる。
「突然ですが、小林くんがお父さんの仕事の都合で、転校することになりました――」
坂元くんは――。
出席番号六番、坂元くんの大誤算
ショートショートでした。
初稿を読み返して、最後の一文は余計かと思ったので、無しにしようと思ったのですが――折衷案と言うより、妥協案です。