コンビニにご用心

 深夜のコンビニ。
 その出入口から死角になる電柱の陰で、その男は目出し帽を被った。
 コンビニに店員一人しかいないのを確認すると、男はポケットからナイフを取り出し、二三回深呼吸してから、一気に店内に駆け込んだ。
「強盗だ!カネを出せ!」
 そう叫びながら、男は店員にナイフを突きつけた。
 だが、店員は至って平静な態度で、男に笑顔すら見せた。
「きみ、よした方がいいよ」
「ど、どうして、そんなに落ち着いてやがるんだ。このナイフはオモチャじゃねえぞ」
「そのようだね。まあ、ちょっと落ち着きなよ」
「うるせえ!ケガしたって知らねえぞ!」
「その言葉、そっくりお返しするよ。手を切ったりしないよう、気を付けた方がいい」
 そう言いながら、店員は胸に挿していたボールペンを手に取った。
「おい!動くんじゃねえ!」
「まあ、見てて」
 店員はペン先を上向きにしてボールペンを握ると、軸の横に出ているノックボタンを押した。すると、ブーンという音とともにペン先からビームのようなものが出た。不思議なことに、そのビームは50センチぐらいの長さで止まっている。
「な、何だ、それは」
「ぼくも詳しいことはわからないけど、金属だけをカットするビームらしい。こんな風にね」
 店員がそのビームで男のナイフに触れると、スパッとナイフの刃が切れて床に落ちた。
「わあっ、何しやがる。危ねえじゃねえか!」
「いや、全然危なくないんだ。ほら、見てごらん」
 店員はビームを自分の左手に当てた。
「よせ!やめろ!」
「大丈夫だよ。ね、このとおり、何ともない。このビームは人間を傷付けないんだ」
「なるほど。それじゃ、おれも安全ってことだな。あばよ!」
 男が逃げようとした、その時、店員はノックボタンを押してビームを引っ込めると、ペン先を男に向け、そのままボタンをスライドさせた。
 ポーンという音がすると、ペン先からクモの糸のように細い網が飛び出し、男を捕獲した。
「言い忘れたけど、こういう機能もあるんだ。ついでに教えておくと、ビームが出るのと同時に警察に通報が入っているから、もうすぐお巡りさんが来るよ」

 翌日。
 そのコンビニに、白髪で白衣の老人が来店した。
「昨日、強盗に入られたそうじゃが、大丈夫じゃったかね」
「ああ、古井戸博士、いつもありがとうございます。ナイフを持った強盗でしたが、博士から試供品としていただいた、防犯用多機能ボールペンが役に立ちました」
「ほお、それは良かった。うむ、これぞまさしく『ペンは剣より強し』じゃな。ほーほっほっほ」
(作者註:博士、それは違うと思いますよ)
(おわり)

コンビニにご用心

コンビニにご用心

深夜のコンビニ。その出入口から死角になる電柱の陰で、その男は目出し帽を被った。 コンビニに店員一人しかいないのを確認すると、男はポケットからナイフを取り出し、二三回深呼吸してから、一気に店内に駆け込んだ。「強盗だ!カネを出せ!」…

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-08

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