坂道 他詩編
今日まで長くこの坂を
見ては登ってきたけれど
あの日見てきた思い出に
もうさよならは言えないよ
ああ、あの遠いあの日、夏の暑さ
広がっていたあの青空、白い雲
もうあと少しであれらに
再び会える日が来る
夏の暑い日には
白い雲が似合う
それらを思いながら
僕らはまたあの坂を登ろう
もう一度あの坂を
白い雲を見ながら登ろう
かつてはここに白樺の木があった
そうして昔の恋人達が
その木の下で逢引きをした
その木もなくなった今
恋人達もここに来ない
ここに来るのは一人の孤独な青年だけ
ここに来て、彼は何をしているのか?
昔の思い出に耽るのか?
過去を探そうというのか?
それとも憧れやまぬあの少女に
会うことを夢見ているのか?
彼には過去がない
みんなのように楽しく過ごした記憶がない
彼の運命は砂漠のような世の中を
一人で生きていくことだけ
やがてそれを思い彼は涙す
たった一人でこの地で涙す
やがて墓に入っても
訪れる者は誰もいない
誰も知らぬ孤独な墓石がただそこにあるだけだ
坂道 他詩編