ショートストーリー・通り道

いつもの通り道。田舎の道だから、夜空には星が見える。今日もまた空を眺めよう、そう思っていた。しかし、私はある一室が気になり始める。
そこに居たのは--。

いつも通る一本道。他に通れる道はなく、田んぼと家に囲まれた静かな道。大きな店もないから夜は空気が澄んで、星がくっきりと目に映りこむ。
まだ19時と日が落ちて間もない時間。田んぼの側にある家々は部屋や玄関先の明かりを灯している。そんな中、私はある一部屋に目がいった。部屋の電気は付いていないようだが、何やらチカチカと色が変わって光っている。恐らく暗がりでテレビを観ているのだろう。
「目が悪くなるのに……ってか、もうなってるかも」
そう思いながら、ふと目線をその部屋からずらした、その瞬間である。
片目が私の姿を捉え、じっと見つめている。私の周りには誰もいない。身体半分だけが壁に隠れ、片眼で私を見ている。ただじっと。私も目が離せなくなり、互いに目線を交わした。何か口元が動いているような気もしたが、はっきりと読み取れなかった。
だが、少し鳥肌がたち怖くなった私は、足早にその場を立ち去った。目線は私を追っていたのだろうか。

次の日。また同じくらいの時間に私はそこを通ることになった。今日は買い物帰りだった。一週間分の食材を買い込んだので、片手だけでは足りず、両手で荷物を持って歩く。そろそろ手が痺れて来た頃。荷物を持ち直そうと足を止めた先が、ちょうど昨日見られていた場所だった。徐ろに目線を上げた。
見られている。また、見られているのだ。
「誰だろう……」
見覚えのない人物。記憶にない。
ただ、自分より少し下かと思うくらいの年齢で、暗がりではっきり顔のパーツは見えないが、まあまあ顔の整っている肌の白い男性のようである。
ずっとこちらを見つめている。何故だろう。

それから一週間、その道を通ることはなかった。

そして一週間空けた翌日。
私の家に空き巣が入った。金類は盗まれなかったのだが、部屋は荒れていた。
そして無くなった物がある。
私の下着類と、飾ってあった写真。
指紋は拭き取られて無くなっていたそうだ。

2日後。
テレビ画面には見たことのある顔が映っている。
度々視線を交わした相手。名前も知らぬ、はっきりと姿を見せることのなかった男。
もうあの道は通りたくない。
私はそれから五日後に引っ越した。
灯りで星が見えない、車の音で常に騒がしい街へ。

ショートストーリー・通り道

ありきたり展開かもしれないけれど、私の思いついた精一杯の展開です……。

ショートストーリー・通り道

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-07

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