戦国炎伝記
此の度は、戦国物語。
一年前に信松国の王位に即位した物語の主役、榎原秀琰、二十五歳。
一度は各地で激しく争っていたが、然し、此処、十数年、争いが行われず静まり返っていた。
この静まり返った世を。
紅(炎) 蒼(水) 翠(木) 茶(土) の属性を有する駒人を付け。
今年、再び、乱世へと。
ーーー“炎の宴”開幕!ーーー
今宵、炎の宴「開幕」
桜が咲き誇る中庭の景色を城の中で椅子に座り、優雅に見物して居た青年に、老人が言う。
「榎原秀琰殿、王位即位為されて、早一年。そろそろ駒人を仕えさせて頂かなければ為りませぬ」
老人の居る方へ振り向いて、青年は言ノ葉を返す。
「安心してくれ、既にめぼしい者はおる」
老人は呆れた表情を浮かべた。
「前回、伺った時もそう仰っていたのに未だ…」
「そう言うではない。彼奴とは未だに交渉中なんだ」
青年は苦笑いを浮かべる。
「ならば、お早めに。そろそろ動きがあるのです」
と言い残すと老人は去って行く。
「去っていったんだ。早く出てこい、其処に居るのだろ?」
青年は上で隠れているだろう相手を呼んだ。
「分かりましたよ」
榎原より少し若い青年が顔を出す。
「此で何度目だろうな、しつこいと謂われても仕方がないと思っている」
榎原は立ち上がり、彼の方へと歩む。
「ならば、諦めて下され。父上にも反対されて居ります故」
彼は上から降りて、言ノ葉を返した。
「確かに、御主の父、東城康光は我の右腕とも言え、素晴らしい軍師、尊敬するのは判る。とは言えど、御主の意思は何処にある?」
「父上御誉め頂き、感謝致します。某の意思は父上の意思で御座います」
榎原は呆れた表情を浮かべる。
「其れほど愛しているのであれば、婚儀を致せ」
榎原が言ノ葉を発した時、先程の老人が現れた。
「其れは、殿の御命令だとしても御免蒙ります」
「父上!」
彼は老人の登場に驚く。
榎原は笑った。
「だろうな。ところで、康光、聞いておったのか?」
老人は頷く。
「はい。少々」
真剣な表情になり、榎原は口許を動かした。
「ならば、話が早かろう。話に決着をつけるか」
老人、康光は頷いた後に言う。
「そうした方が良さそうですな。御前も其方が良かろう、貴光よ」
康光の息子、貴光も溜め息を溢しつつ頷く。
「そうですね」
榎原は貴光の背後に周り、彼の両肩に手を乗せて話を進める。
「では、我の考えから話そう。良いか?」
康光、貴光ともに頷いた。
「何故、貴光に駒人にしようとしたか。其れは、我が国で最も優れた武士、康光の嫡男と言う事が一つ」
榎原は指で数字を表しながら話した。
「御誉めの言葉、光栄であり、感謝致します。ですが、私め如きが最も優れているのならば、此の国は御仕舞いで御座います故」
康光は一度頭を下げ、数十秒後に頭を上げた。
「事実を述べただけだろう、謙遜するな」
何時もと付け加えて笑みを溢す。
「其の様な事は御座いません」
「康光よ、その頭の固さを治せ」
呆れたのだろうか溜め息を吐く。
「此の固さで、様々な意味で幾多の者を泣かして来たのです。今更、治せられぬかと」
「もう良い、進めるぞ」
と言い放し、話を続ける。
「二つ目は、我好みの紅の属性の持ち主。紅の属性を上手く操り、一度に何千兵をも倒せる技術、強さを持っておる」
「その事でしたら存じておりますが…」
何かを言いかけるものの、続く言葉が出ぬ老人。
「康光よ、何故、其れ程に拒むのだ」
榎原は真剣な眼差しで、老人を見た。
「武士と言う者は常に上を狙う事が良いことでしょう…しかし、貴光には未だに属性を制御出来る精神力など持ち合わせておりませぬ」
老人は窓辺に行き、空を観ながら話を続ける。
「其れは今は亡き女房、春も同じく」
老人と貴光の眼から水滴が一滴流れ落ちた。
「すまない…そう言うことがあった事を」
榎原は床に膝をつけ頭を下げた。
「其の様な格好は御辞め下さいませ」
老人は榎原に手を差し伸べる。
「しかし」
榎原は申し訳ない表情を浮かべて言いかけるも、老人は続きを言わせぬ様に続けた。
「私は私情を挟み過ぎました、倅の道は倅と榎原国王が決める事故」
戦国炎伝記