猫と狸

猫と狸

猫はとてもみんながうらやましいのです。
みんなは神様から特別な力を与えられているからです。
うさぎがうらやましいのです。相手の心の中を聞いて知ることのできる、聞き耳を持っているからです。
鳥がうらやましいのです。きれいな歌声を持ち、自由に空を飛ぶことができるからです。
羊がうらやましいのです。鮮やかで美しい世界を夢見ることができるからです。
「うらやましいなぁ」
猫が言うと、近くにいた狸が声をかけてきました。
「試練に耐えれば、神様から特別な力がもらえるよ。試練の穴に来ないか?」
猫はみんなのような特別な力がもらえると思うともう嬉しくて、喜んで狸の穴までついていきました。
狸の穴に入ると、多くの狸に取り囲まれました。
猫がこれまで生きてきて愛したものと憎んだものに狸たちは化けると、そのものたちにそっくりな声で猫を責めはじめました。
「しめしめ。猫が悲しくなって『苦しい。死んでしまいたい』と言い出したら、ごはんにして食ってやる」
狸は猫をだまして、食ってしまおうとしていたのでした。
その猫のことが大好きな女の子の猫は、深い穴の中で猫が死ぬほどいじめられているのを見てショックを受けました。そして神様のところに行って猫を助けて欲しいとお願いしました。神様は
「あの猫は特別な力が欲しいと欲張ったから罠にはまってしまったんだよ。欲に目がくらんだ彼がいけなかったんだ」
と、はじめは取り合いませんでしたが、女の子の猫が涙を流しながら、どんなにあの猫が善い猫か、世界に一匹だけのとても大切な存在なのかということを必死に神様に伝えましたので、神様はその女の子の猫をあわれみました。そこで彼女の愛情を光輝く糸にして、穴ぐらへと垂らし、猫を糸で釣り上げました。猫は狸たちから食い殺されそうなところを糸に引き上げられて救われました。
猫は自分のことが好きな女の子の愛情の絆に命を助けられたのです。

猫と狸

猫と狸

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-01

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