澄み渡る空~第二節~
これまた昨日と同じように凛と澄み渡った空から降り注ぐは照りつける太陽の光、じわじわと俺の肌を焼いていく。
「そういえば今日だったな」
「ん? どうしたの?」
いつも通りのメンバーを連れて俺は学校を目指す。
「いや、帝王のお嬢さんが転校して来るのって今日だったなって言いたかったんだ」
「おぉ! そうだったね、すっかり忘れてたよ!」
「如月、お前はいつもそうだな、すぐ大事なことを忘れる」
こいつの忘れっぽい所には散々苦労してきた、遊びに行く約束をしていても忘れていたなんてザラにある。それだけじゃない…他にも色々とあった…思い出したくないが…
「まぁそんな事はどうでもいい」
「ひどい! そう言うむーちゃんも相変わらずじゃん!」
「…なんだ…その、むーちゃんってのは…」
「睦月のむーだよ? かわいいでしょ!」
盛大に溜息をつく俺、朝っぱらからめんどくせぇ…ってかうぜぇ…
「二度とその変な名前で呼ぶな」
「なんで? かわいいからいいじゃん、むーちゃんって呼ぶ以外になんて呼べばいいの?」
「いつも通りに呼べばいいじゃねぇか!」
「おぉ~、その手があったかぁ」
この日、二度目の盛大な溜息をつく、こいつはいつも俺を馬鹿にしているとしか思えない。そうじゃないとしたら一体何の恨みがあって俺を朝からこんなに疲れさせる…
「ふふっ相変わらず睦月達は仲がいいね」
にこやかな笑みを浮かべてんじゃねぇよ長月。
「ふふっ…」
「神無月までもか…くそっ…さっさと学校いくぞ!お前らにいちいち付き合ってられん」
俺は学校に向かう足を速くする…教室に入ってしまえば何とかなるだろうと甘い期待を抱いて…
教室の前に着いた俺はまずある違和感に気が付いた。教室に男子が一人もいない、いるのは今さっき教室に着いた俺と長月だけだ…おかしい、いつもならウザいぐらい揃っているのに何故今日に限って誰一人としていない。
「なにが起きたんだ?」
ひとまず席にカバンを置く為自分の席に近づいた俺は自分の席に見知った姿が座っていた。
「…会長、何してるんですか?」
さもそこが自分の席だと言わんばかりの顔で会長が座っていた。
「ああ、おはよう時雨、思っていたより遅かったじゃないか」
「おはようございます。で、なぜ俺の席に当然の如く座っているんですか?」
「ん? あぁこれは時雨に用事があってな、正門で待つよりここで待ったほうが確実に来るじゃないか」
「勘弁して下さい…俺に用事ってことはまた何かの面倒事ですか?」
この人もいつもそうだ、いつも俺を振り回す。今までだって何度もあった…こっちも思い出したくない…
「はぁ…いつ私が時雨に面倒事を持ちかけたことがある?」
「どの口が言っているんですか…まったく会長は」
と、それより今この教室の現状が気になる。なぜ一人も男子生徒がいない?
「それはだね時雨、ほとんどの男子生徒が転校生見たさに職員室に押し寄せているからだ」
「会長ってたまに人の心を読んでいるんじゃないかと思いますよ…」
「人の心を読むなんて出来るはずない、時雨は私をなんだと思っているんだ」
「いえ…特には…」
一瞬でありとも、妖怪さとりなんて思っていない! 思っていないぞ!
「と、話が逸れてしまったな。」
「そうですね、あまり時間もないですし手短にお願いします」
「なに、少し手伝ってほしい事があるだけだよ」
また面倒なことになってしまいそうだ…今までだってそうだ、いい思い出がない…
「分かりました」
「ふむ? いつもより理解が早くて助かる」
「会長の頼みなら断れないですから」
ここでいくら断っても必ず手伝わされてしまうので無駄な抵抗はしない。
「で、それはいつから手伝えばいいですか?」
「別に急ぎというわけでは無いからね、昼休みに生徒会室を訪ねてきてくれ。詳しくはそこで話させてもらうよ」
「分かりました、では昼休みに行きます」
「よろしく頼む。では私は教室に戻らせてもらう」
そう言って会長は教室を後にする。相変わらずクールだ…
ふと気付くと長月を始めほとんどの連中が俺を見て驚いている。
「な、なんだよ? そのあり得ないものを見たって顔は」
「い、いや…少し驚いただけだよ…睦月じゃない睦月を見た気がする…」
「なんだ俺じゃない俺って、意味わかんねぇよ長月…まさか、俺が敬語使ってんのがそんなにおかしいか?」
「確かにそれもあるけど…あの睦月が時雨って呼ばれて怒らないなんて」
「あの人は何回言っても直してくれねぇからな諦めてるよってか長月テメェはそんなに俺が無礼な奴に見えるか? 流石に目上の人には敬語ぐらい使うわ!」
「それなら僕たちも時雨って…」
「駄目だ!」
長月がすべて言い終わる前に言葉をさえぎる。こいつが言いたいことなんてお見通しだ!
「別にいいじゃないか睦月」
「ふざけんじゃねぇぞ。会長は…まぁ仕方がない…だがお前らは駄目だ、理由はこれと言ってないが駄目なものは駄目だ」
そこまで俺が言うと俺たちの間に沈黙が訪れる。
「とにかくお前たちはいつも通りに呼べばいいだけなんだ、はいこの話終了!」
「分かったよ…そこまで言うのなら僕たちも引いておこう」
今は、ってのが付きそうな感じだな…ったくなんで俺の親はこんな名前を考えて付けたんだ?
そんなことを考えていると教室にいなかった男どもが戻ってくる。やけににやついた顔をしている奴が多い。なんだか腹が立つ
教室中に春色の雰囲気が漂う中ほどなくして担任の姿が見える。
「あー…睦月、ちょっと来い」
「はい?」
担任に連れられ廊下に出る。正直あまりこの担任と二人で話したことがないし何より見た目が恐ろしい…だが俺は何も悪い事はしていない、ゆえに呼び出される理由が分からない。
「………」
担任が何か言いたそうに俺の顔を見ている。
「どうしたんですか? 何か俺に用があって呼び出したんでしょう」
「いや、まぁ、なんだ、そのだな…」
不気味なほど歯切れが悪い、一体何が言いたいんだ?
「正直、俺には頑張れ、としか言いようがない。まぁしかし、短い学園生活だ、しっかり励めよ」
そう言って担任が俺の肩をポンと叩く。
「はぁ?」
俺にはそんな間抜けな声しか出せなかった。一体この担任は何が言いたかったんだ?
「睦月、教室に入れ、HRを始める」
「分かりました…」
担任に促され教室に入る、一体何だったんだ?
「よし、HRを始める前に今日からこのクラスに転入する、転校生を紹介する。」
そう担任が言った瞬間クラス中の男子(俺と長月を除く)がお祭りかと思ってしまうほど盛り上がる。
「うるせぇぞ! お前ら!」
刹那、教室中がお通夜の如く静まり返る、相変わらずこのクラスときたら…馬鹿ばかりだな。
「よし、入ってこい」
廊下に向かって担任がそう呼びかける。うん? さっきまでは誰もいなかったはずじゃ…
教室のドアが静かにゆっくり開けられる、そこから入ってきたのはあまりにも意外な人物だった。
「はぁ!?」
俺は思わず素っ頓狂な叫び声をあげる。
「うむ、良いクラスだ」
「何してんだよ、このくそ親父!」
教室に入ってきたのは紛れもなく俺の父親だった。余りの展開に教室中がポカンとしてしまっている。むしろ俺が一番意味がわからない。
「時雨、実の父親に向かってなんだその言葉使いは」
「うるせぇよ、なんでここにいるんだよ! 意味わかんねぇよ! なんだ! なんだよ! なんですかぁ!」
余りの展開にテンパってしまって意味が分からない事を言っているのが自分でもわかる。
「落ちつけ時雨、慌てていたら大局を見失うぞ」
「こんのくそ親父、久しぶりに会ったと思ったら相変わらず意味不明な事ばっか言いやがってまずここに来た理由を教えやがれ!」
家の親父は何の仕事をしているか全くの謎なのだが基本的に家を長期間に渡って空けることが多い、母親もそれについて行っているため俺は一人暮らしをしている。実際親父と会うのも半年ぶりぐらいである。
「時雨、今日はお前に大事な話がある」
親父が気味の悪い笑みを浮かべる。気持ち悪い…
「気持ち悪い笑み浮かべてねぇでさっさと大事な話とやらを言いやがれ…そもそもなんで教室に入って来てんだよ」
「これでも忙しい身なんだ、この後もすぐに仕事に向かわなければならんのだ」
「分かった、分かった。どうでもいい事はもうその辺にして真面目に本題に入れ」
「大事な話というのはな、お前に許嫁が出来た」
「…はぁ?」
いいなずけ? 何だそれは? おいしいの?
「そのふぬけた顔はどうにかならんのか」
「うるせぇ、なにいきなり訳の分からんことを抜かしやがる、まったくもって意味が分からん」
「お前はそこまで頭が悪かったのか…」
なん…だと? 他の誰にそれを言われようと親父に言われるのが一番ムカつく…
「まぁいい、話を進めるぞ、今回の件については両者の親…つまり私や帝はもちろん同意の上で話が進んでいるその事をくれぐれも覚えておけ」
ますます話が分からなくなってきやがった…結局親父は何を言いたいんだろうか…
「つまり、どういう事だ?」
「察しが悪すぎるぞ時雨よ…もうよい…そこまで分からんのなら見たほうが早いようだ」
そう言って親父は教室から出る、何を見せられるんだ俺は? そしてこの教室の空気は一体どうしてくれる…転校生が入ってくると思っていたので余計にあのムサイ親父には驚いたな、もちろん俺だけじゃない担任を含めた全員が固まってしまっている…
「…はっ、お前らちょっと待ってろ」
ようやく我に返った担任がその言葉を残して去って行った。
「はぁ…」
これから起こりうる騒動を予感しつつ俺は机に突っ伏した、どうせまたくそ親父が訳の分らん事を言い始めてこの場を混乱させるに違いない。
「睦月、ちょっといいかい?」
「ん~なんだ?」
もはや俺に起き上がる気力もなく机に突っ伏したまま長月に答える。
「いや、許嫁って言葉の意味分かる?」
「知らねぇよそんなもん」
「…」
おい、こら長月、人を残念な人を見るような眼で見るんじゃねぇよ。
「いいかい睦月、許嫁ってのはね親同士が決めた婚約者という意味なんだ」
「婚約者…っておい! まさかあのくそ親父!」
たどり着いた思考に驚きを隠せず思いっきり起き上がる。
「間違いなくそうだろうね、そして更に相手側の親の名前に帝と出た…これがどういう意味か分かってるよね」
つまり、あれか? 俺に婚約者…許嫁が出来てそれがあの有名な帝王のお嬢様ってことか?
俺がその結論にたどり着いた時、教室にいるクラスメイト達も同じ答えにたどり着いたのかさっきの比ではなくざわめきが起きる。そこらかしこから「なんで?」や「ふざけんじゃねぇぞ」など、驚きの声ややけに殺意がこもった怨念が聞こえてくる…一番なんでって言いたいのは間違いなく俺だからな!
「………」
やけに静かだと思っていた如月はなぜか座ったまま失神していた…意味が分からん…
そして少し時間が経ち担任が教室に戻ってくる、その瞬間に静かになる教室、相変わらずよく教育されてやがる…俺もその一人だがな!
「あーなんだ…なんて言ったらいいのか…ここらで気を取り直して話を進めるぞ」
実に珍しくあの担任がうろたえている、思わず写真を撮りたくなるほどに。
「じゃあ、よし入ってこい」
教室のドアが開かれる、そして姿を現したのは…
何ともいえぬ高貴なオーラを纏った美少女だった。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
教室が震えた、俺と長月を除く男子が腹の底から魂の咆哮を上げたからだ。
「うるせぇぞ! 貴様ら!」
その咆哮を上回るほどの担任の怒声が轟いた、例の如く静まり返る教室。
「よし、騒がしくて済まん、では自己紹介をしてくれ」
美少女は担任に「お気になさらずに」と言い一歩前に出る。うーむ…身のこなしに一般人との差がはっきり出ている…やっぱり金持ちは違うな。
「皆様はじめまして、私、卯月響と申します、以後お見知りおきを」
そして深くお辞儀をする。
「よし、席は…睦月の隣があいているからそこでいいな」
教室中の視線が突き刺さる、痛い…こちらを向いている卯月と目が合う…こちらをじっと見つめているようなので俺も負けじと見つめなおす…駄目だ…恥ずかしくて目を逸らしてしまった。
「解りました」
そして空いている席に向かい歩を進める、なんだかじっと見つめられている気がするんだが気のせいですよね?
ちょっと待て、親父達の言葉を思い出せ…俺に許嫁が出来たと言っていたが長月が言うには転校生がその許嫁だと…そしてその転校生はこの卯月響という名前の美少女…俺は、会ったこともないこの美少女と結婚するのか?
…くだらない事を考えてもしょうがないか、こうなったら流れに身を任せてやる!
「お久しぶりです、時雨様」
気が付いたら俺のすぐ近くまでやって来ていた卯月は微笑みながらそう言った。
「…は?」
お久しぶり? という事は以前会ったことがあるのか? 俺には記憶が無いが…
「お忘れしていても不思議ではありません、もう何年も前の話になるのですから」
少し悲しそうな顔をする卯月。うーむ…少し記憶を探ってみたがまったく心当たりがない。こんな美少女一度見たら忘れそうにないんだがな。
「いずれ思い出して頂けるものと信じでいます、これから時間はたっぷりあるのですから」
そう言って席に座る。時間はたっぷりある? 確かにその通りだがなにか引っかかる…
「一ついいか? 俺を時雨と呼ぶな、嫌いなんだその名前」
しれっと卯月は俺の名前を呼びやがった、どんな美少女だろうと俺を時雨と呼ぶことは許さん。
「あら? こんなにもいいお名前なのに…」
誰にどう思われようと俺はこの名前が嫌いだ!
「よし、転校生の紹介に時間を取られてしまってそろそろ授業が始まってしまうな。連絡事項は特になし、以上だ」
さっさと担任は教室から出て行ってしまった。なんだか後が怖いような気がするが今は気にしないようにしておこう…
「やっと昼休みになったか…」
あれからというもの卯月はクラスの大人数しまいには他クラスの人間からの質問攻め、そしてその卯月本人は俺をずっと見つめているのか知らないが男どもは残らず俺に殺意のこもった視線が突き刺さっていた…他のところに行ってもそれは一緒だった、俺の心の休まる場所がなくなってしまったのか…いや、元から無かった気が…
「2年C組睦月時雨、今すぐ生徒会室に来なさい、来ないと…わかってるね」
会長…なんでわざわざ校内放送を使って呼び出すんですか、それと呼び出し方にちょっと色々とおかしいところがあるんだが…
っと、こんなことしてる場合じゃなかったな早く行かないと何をされるか分かったもんじゃない。
「入りますよ~会長」
なぜこの時、俺はノックをせずに扉を開いてしまったのか、何秒間か前の自分をぶん殴ってやりたい。
「はぁ!?」
「ん?」
会長は今まさにチャイナ服に着替えている最中だった。
うーん…ナイスチャイナ…じゃなくて!
「す、すみません会長! そ、その! 覗くつもりはこれっぽっちも無かったんですが! あの! その~…」
本日2度目の本気の焦り…上手く言葉が出ない。
「時雨か思ったより早かったじゃないか。今着替えているので少し待っててくれ。あぁすまないが早く扉を閉めてくれないか、外の熱気が部屋に入って来てしまう」
「す、すみません」
言われるがまま扉を閉める。はっ!? 何故俺は部屋に入ったままなんだ? 普通ここは出ていく出来じゃないか!
「時雨、いくらこの私でもそこまで見つめられると恥ずかしいのだが…」
知らず知らずのうちに俺は会長を凝視してしまっていたらしい…
「ご、ごめんなさ~い!」
逃げるように部屋を出る俺。実際逃げてるんだけどな…
そして数分後…
「すみませんでした!」
生徒会室には地面に頭を全力でつけている、つまり土下座をする俺の姿があった。
「顔を上げてくれ時雨、別に私は気にしていない」
「俺が気にするんです!」
「だがしかし…まぁいい…これで借り一つだ、これでよいだろう?」
「でも…」
「でももヘチマもあるか、この話題はこれで終わりだ」
うっ…ちょっと怒っていらっしゃる…
「わ、わかりました」
おそるおそる顔を上げて見つめる先にはチャイナ服の短いスカートから覗かせる普段は絶対に見えてはいけないものが見えてしまった…
勢いよく立ちあがる。見なかったことにしよう、幸い会長は気づいていないようだ。
「どうした顔が真っ赤だぞ」
「いえ! なんでもありません!」
やけにいい返事をしてしまった。絶対に怪しまれる…
内心ハラハラドキドキの俺をよそに会長はいつものクールに戻っていた。
「呼び出した用件なのだが…」
「はい! 何でしょうか!」
「時雨…いつも通りにしてくれ、私までおかしくなりそうだ」
ひとまず会長には許してもらえたのかな? ただ不問にされるのは俺の気が済まないというか申し訳ないという罪悪感が残ってしまうのだが…口に出さないほうがいいか。
「すみません…」
「さっきから謝っていてばかりだな…まぁいい、用件のいうのはちょっと書類が溜まってしまってね、それを処理するのに少しばかり手を貸して欲しいだけなんだ」
「それくらいならお安いご用ですよ」
会長からのこういったお願いはいままで散々とやってきた、もちろん手伝う気がある時も他に用事があって忙しい時もいつもだ。
「では、始めるとしよう」
「了解しました」
作業を始めてから10分ぐらい経っただろうか、不意に俺の腹の虫がなる。
「なんだ、昼食を摂って来てなかったのか?」
「すみません、なにせ忙しかったものですから」
「ふむ…それでは昼食にしよう、今飲茶を入れてくるから少し待っててくれ」
会長は短いスカートを翻して部屋の奥へと歩いて行った、また見えてはいけないものが見えてしまったが気にしたら負けかな?
「ふぅ…やっと一息つけるな…」
そういえば今卯月は何をやっているのだろうか、まぁおそらくさっきまでと大して変わらないだろう。本当にご苦労なこった。
しかし、俺はこれからどうなってしまうのだろうか…俺が望む平穏な生活は手に入らないのだろうか…うーん、出来るだけ静かに生きて行きたいのだが。
「どうした、いつになく真剣な顔をして、なにかまた悪い事を考えているんじゃないだろうね」
「悪い事って…俺がそんなことする人間に見えますか?」
気が付くと会長がそばに立っていた。そんなに真剣な顔をしてしまっていたのだろうか、いつになく会長は真面目な目で見つめてくる。
「いや、朝からバタバタしていましてちょっと考えたい事があったものですから…まぁ考えても仕方ない事なんですけどね、真面目に考えるのって性に合わないですし」
「あの転校生の事か…私も役職柄この学園の事ならなんでも報告として上がってくる、もちろん時雨の事も例外ではないよ。で実際に会ったあの転校生は、時雨、君の眼にはどう映った?」
恐ろしや我が生徒会長…分からない事が無いんじゃないのか? まぁそれはいいとして会長らしからぬこちらに踏み込んできた質問だな…ここはやはり本当の事を言ったほうがよいだろう。
「正直に言ってめちゃくちゃかわいいと思いますよ、ただ親父が言うには俺の許嫁って事らしいですけど…そういった目で映るかって言われると微妙ですね。実際に卯月がどういった性格をしているのかってのも分かりませんし、そもそも俺は女性と付き合うって事もいまいちピンときませんし、まぁそれについてはおいおいゆっくりのんびり考えていきますよ」
「ふむ…実に睦月らしい回答だ、安心したよ。おっと会話に時間を取られてしまったな、運がいい事にここに私のサンドイッチがある、これなら昼食を摂りながらでも仕事が出来る」
会長はいつでも仕事メインか…もう少しゆっくりしてもいいだろうに…
「それにしても会長…何故にチャイナ服なんですか?」
正直目のやり場に困る、ただでさえスタイルのいい会長…それが身体のラインがしっかりはっきり出てしまうチャイナ服は眼福…じゃなくて青少年には目に毒だ。
「うん? 似合わないか? 前に時雨が別の衣装も見てみたいと言っていたので来てみたのだが」
「めちゃくちゃ似合ってます! ただその…なんというか…」
「どうした、言いたいことがあるならはっきり言った方がいいぞ」
「あの…すごく言いづらい事なんですが…目のやり場に困ってまして…」
何故かものすごく恥ずかしい! だが基本的に会長には嘘を付けないので、はっきりいってしまった方がいいのだが…自分でも顔が真っ赤になってしまってるのが分かる…
「そ、そうか…それはすまない…」
「い、いえ…」
会長を見てみると少し頬を赤く染めていた。その瞬間俺の胸が高まる、普段との会長とのギャップがあまりにもありすぎる!
「やはり時雨にもそういった事に興味があるのか…ただそういった目で見られていると分かるとなかなかに恥ずかしいものだな…」
二人の間が微妙な雰囲気が漂う…これは…チャンス! じゃねぇよ! ただこのままいたら俺がおかしくなってしまいそうだ…誰か…助けてくれないかなぁ…
「おじゃましま~す!」
俺の願いが天に通じたのか、生徒会室の扉が勢いよく開かれる。
「やっぱりここにいた! ねえ、一緒にご飯食べよ!」
この時ばかりは如月に感謝した、助かった…こいつの空気読めなささは世界トップクラスだろう。しかし、この生徒会室にまったくおとろえずに平然と入ってくる如月の神経を疑う。
「うるせぇよ、今忙しいんだ、また今度な」
「そんなこと言わないで一緒に食べようよ~」
如月は俺の袖を取ってブンブンと振る。おい…ものすごく痛いぞ。
「行ってあげたらどうだい、幸い残ってる書類も時雨のおかげで減ったからね、後は私一人で大丈夫だよ。サンドイッチはどうやら必要なかったようだね」
「いえいえ、おいしかったです。では会長すみませんが失礼しますね」
「ああ、また色々と頼むかもしれないがよろしく頼む」
「はい、分かりました…って如月! 俺を引きずるんじゃねぇよ! まだ会長と話してんだろうが! 痛い痛い! 無理に引っ張んなよ!」
そして俺は如月に引きずられ生徒会室を後にした。
澄み渡る空~第二節~
一話に引き続き二話を投稿させていただきました。
一話、二話は書き溜めていた分なので三話以降は多少投稿スピードが落ちてしまいますがそこはご容赦ください。
ではでは、ご意見・ご感想をお待ちしております。