天使と夢

瓶ちゃん

真夜中、少年は公園に向かってがむしゃらに走った。厳しい両親の目を盗んで家を抜け出すのも、もう四回目になる。僕には会いたい人がいるのだ。真夜中にしか会えないあの人に。

「沙月さん!」
ベンチに腰掛ける彼女に叫ぶと、彼女は振り返って人差し指を口に当てた。
「真夜中よ。」
少年はわざとらしく口を噤んでみせ、彼女の隣に腰掛ける。そしてぬるい夜風を頬に感じながら、会えなかった時間を埋めるように近況を報告し合った。

彼女は美しい。
星に照らされる彼女はまるで天使のようで、会う度に少年の心を魅了した。少年は意を決して今日の午後三時にオープンするアイスクリーム屋さんに彼女を誘った。しかし彼女は諦めたような苦い笑顔で、少年を見つめるだけだった。

しばらく沈黙の時間が続いた後、彼女はいつものように突然立ち上がり聞きたくない台詞を吐いた。
「また夜に会いましょう。」
白く、柔らかい手が少年の手を包む。その手の温もりは今日も次の約束を曖昧なものにした。彼女は綺麗に微笑むと、少年の返事を待たないまま緩やかに立ち去った。たった二時間の逢瀬、思い出すのは彼女の苦い笑顔だけだった。不甲斐ない自分の精一杯の強がりが、弱々しい形で彼女に伝わっていたのかもしれない。
僕はもうとっくに気付いてるのに。


風がカーテンを揺らした。彼がいる世界を教えてくれないこの布が、私は好きではない。
「日に当たらないようにね。」
心配する母に沙月は分かってるよ、と明るく応えてみせた。少し息苦しい。病気のせいだろうか。いや、これはきっとあの少年への恋煩いだ。青い空の下で愛しい彼の隣を歩く自分を想像しながら沙月は今日もカーテンの外を見つめる。
「アイスクリーム食べたいなあ。」

天使と夢

天使と夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-30

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