少女物語
私は今、イジメを受けている。
「消えろよ!」
「ちょ~うざいんですけどぉ~」
今まで一緒に笑ってきた友達でさえも。
「うっわ、気持ち悪りぃな」
「こっち見ないで」
どうして。そう言いたいのに殴られた痛みで声が出せない。
先生は助けてくれない。信じてくれる友達もいない。家族にはこんな事は言えない。
ヒューヒューと声にならない自分の息と罵声だけが聞こえた。
暴力を振るったり暴言を吐く人の中で、一番幸せそうに笑っている人がいた。
あいつさえいなければ・・・・
心がドス黒い闇に侵されていく感触を感じた───
-翌日-
「おはよう、凛李」
「おはよう、お母さん」
家族には心配をかけたくないからイジメの事は秘密にしている。
不幸中の幸いと言うものなのか、顔などの目につきやすい場所は殴られていない。
「はい、今日のお弁当よ」
「ありがとう、行ってきます」
「気を付けるんだぞ」
「うん、お父さん」
私の両親は優しい。すごく愛されている事が、言葉に出してなくても分かる。
だから、心配をかけたくないんだ。
だから、行きたくない学校にもまだ少し頑張って行けるんだ。
「お弁当、どうしようかな・・・」
大好きなお母さんが毎日作ってくれるお弁当。
あいつらはそれを捨てようとする。
どうにか隠して一人で食べているが、やはり見つかってしまう時は床に投げつけられてしまう。
「はぁ・・・・」
風にさらわれて消えてしまう小さなため息。
重い足取りで大嫌いな学校へと向かう。
-教室-
ガラガラッ
「・・・・・・」
「うっわ、あいつ来たよ」
「あいつよく来るよな。ドMなんじゃねーの?ww」
ヒソヒソ話すわけでもなく、わざと聞こえるように話している。
別にいつもの事だ。
気にしない、気にしない。
席に座ると机は油性ペンで悪口が書かれた。
席があるだけマシだと思う。
気にしない、気にしない。
キーンコーンカーンコーン
チャイムと同時に先生が入って来た。
「今日は、転校生がいる」
先生がそう告げると、歓喜の声が教室を埋め尽くした。
ああ、自分の右隣が開いてるのはそう言う事か。
私の席は窓側の一番後ろ。
ちなみに自分で決めたわけではない。
「入っていいぞー」
ガラガラッ
「おお、女子だ!!」
「可愛い~!」
「羨ましー!」
「はいはいお前ら静かにしろー」
一瞬で教室が静まり返った。
「初めまして。春川 千里と申します。宜しくお願いします」
礼儀正しく微笑む彼女の笑顔は、向日葵のようだった。
きっと彼女も、みんなと同じになってしまうんだろうな・・・
そう考えると、ちょっとだけ寂しい気分になった。
「春川の席は、アイツの隣だ。あの席が嫌だったらすぐに言ってくれよな?」
『アイツ』ねぇ・・・
もう名前すら呼んでもらえないんだ。
彼女は先生に対して少し困惑した表情を見せたが、私と目が合うと彼女は微笑んでくれた。
やめて、期待させないで。どうせあなたも裏切るんだから───
教壇から降りてきた彼女は静かに席に座った。
「初めまして、あなたのお名前は?」
「・・・神崎 凛李・・・・」
「あら、いいお名前ですね」
「それはどうも・・・」
二人の会話を嫌そうに見てくる奴がいる事に、私は気づいている。
イジメの主犯、鑑 麗子。
「これでHRは終わりだ。解散」
先生はまた、チャイムと同時に部屋を出て行った。
それと同時に奴が近づいてきた。
「ちょっと神崎さん?春川さんと会話しないでくれる?」
「・・・・・・」
「あ、あの・・・」
「千里ちゃんどうかした?」
『千里ちゃん』なんて、私の前で嫌味でも言ってるみたいだ。
「えーと・・・もしかして、凛李さんに対してイジメをなさっているんですか?」
ざわっ──
クラスが一瞬で冷たくなった気がした。
「それは、どういう事かな?」
笑顔だけど声が冷たい。
「さっきも思ってたんですけど、担任の先生が神崎さんに対して冷たい発言をしてたり、先生だけでなくクラスの皆さんの視線。それに神崎さんの机、色々書かれてるみたいですが」
「あぁ、それね」
鑑は問題ないと言う顔をした。
「千里ちゃんは今日来たばかりだから知らないけど、私こいつにイジメを受けていたの。それもすごく酷い。だからイジメられて当然なの」
「ふーん・・・そうなんですか」
「そうなの。だから千里ちゃんもこいつの事イジメていいんだよ?」
鑑の言葉にクラスのみんなが頷いている。
「そう言う事だから、春川さんも私に近づかなくて───」
「分かりません」
「えっ?」
クラス全員が固まった。
「私には分かりません」
「何が分からないって言うの?」
「だって、イジメられたからってイジメた人を全員で、しかも先生まで仕返しするっておかしくないですか?それにみなさんイジメた現場を見たんですか?鑑さんを見た感じ、特に酷い事をされたって怪我はないですけど」
「そ、それはもう前の事だしっ」
「神崎さんの方がもっと酷いイジメを受けているように見えるのは私だけなんでしょうか?」
「っ・・・もういい、あんたも神崎と一緒にイジメてあげる。覚悟してな!」
そう言った鑑はものすごい形相で教室を出て行ってしまった。
私は驚きで何も言葉が出てこなかった。
「ふぅ・・・神崎さん、一緒にその机の文字を消しましょ?」
「な・・・なんで・・・?」
精一杯頑張って、やっと出た言葉だった。
「何で、と言われましても・・・神崎さんを見た時、私、お友達になりたいと思ったんです」
「それ・・・だけ・・?」
「はい。他に理由が必要でしょうか?」
私は何も言えなかった。
涙が自然と出てきてしまっていた。
クラスのみんなが見てると分かっていても、涙は止まらなかった。
私はきっと、誰か助けてくれる人が欲しかったのかもしれない─────
-続く-
少女物語
こんにちは、天川宗汰です。
この作品は、パッと思いついた作品です。
イジメの多い世の中、なくなる事を願います。
『小説家になろう!』と重複投稿しています。