アスノセカイ

「デスペレイション 1」

高校デビュー
中学までの自らのイメージ・歴史をリセットし、新たな生活を始めること。なんかそんな感じ。
だがしかし、高校デビューっていうのはほとんどの場合失敗に終わる。
入学早々、教室の扉を勢いよく開けて元気よくかつ、さわやかに挨拶をする。しらける。
自己紹介。名前とともに、なにか一言。少し捻ってみた。
すべった。
無口、無表情、クールで物静かな雰囲気をかもしだす。「あの子かっこよくない?」なんて影でモテだしたり。
......することなく、誰からも話しかけられず、むしろ自分自身が影のような存在になってしまう。
そんなことになったらもうおしまいだ。
もうおしまいだ。もうおしまいだ。もうおしまいだ....

潮河カイト、高校1年 春。
孤立した。

「ボクはコドク 1」

お昼休みって結構長いな...。
ため息混じりに小さく呟く。
時計の針はちょうど1時を指しており、5時間目まであと20分ほどであった。
ここまで自分がどんな行動をしていたか振り返る。

4時間目終了後、教室を出る。
孤立した僕は、当然お昼を一緒に過ごすあてもない。
高校といえば学食、この学校の学食はレベルが高くこの辺りの県立高校の中では、1.2を争うほどのおいしさらしい。
食堂を目指して1人廊下を歩く。
学食って何があるんだろう?日替わり定食とか?丼ぶり系?ここのラーメンって名店といい勝負なんて噂をどこかで聞いたなぁ。
なんて考えてたら食堂が見えてきた。よし、今日はラーメンにしよう!ああーお腹空いてきたぁー......あ?え?
唖然。文字通りぽかん、と口を開けて突っ立ってしまった。
人、人、人。食堂はもう大混雑!これが食堂というものなのか?食べる余裕もない感じ、食堂っていうより人堂だよこれ。...人堂ってなんだろう。
お一人様の僕のヒットポイントが半分近くまで削られる。
そしてもう一つ不可解なことに気付く。1年生どころか2年生らしき姿さえないのである。
なぜそんなことが分かったのかは今考えると不思議だけど、自分より一回りも大きい背丈、明らかに高校生なりたての1年とは違う大人のような顔立ち、もう僕はビビリまくってたんだと思う。

ドンっ
吹っ飛んだ。一瞬何が起こったのかわからなかったけど、宙を舞うようなそんな感覚になった。
「あ、わりぃ。突き飛ばしちまった。大丈夫か?」
あぁ、そうか。入り口の前にずっと立ちっぱなしだったんだっけ。
「立てるか?」
「あ、あの、その...す、す、しゅみません!!」
しゅみませんって言っちゃったよ。大急ぎで食堂を後にする。あぁ、あの人「大丈夫?」って声かけてくれたのに。手をさしのべてくれたのに。僕はなんてことを...。


自分の行いを罵倒しながら、突き飛ばされた人の顔を思い出していた。
そういえばあの人も3年生なのかな?
ニット帽をかぶった少しイケメンな人だったなぁ。



あれから、食堂を後にしてから、売店行ってパンと飲み物買って。
で、今に至るわけか。
高校生活はじまって以来のなかなか濃い時間だったけど、時間に換算するとそうでもないんだね。
はぁ...
どうしてこう、ため息ばかりでるのかな。
一人でいる方が好きだし、気が楽でいいけど、やっぱり話をする相手がいないとなんか寂しいなぁ。
友達...。
友達ってどうやってつくってたっけ?
ボクはなにも友達がまったくいないわけではないのだ。
中学生の頃はそれなりに友達はいたし、何人かは同じ
高校に通ってる。
だけど、クラスも違うし教室の場所も違う、学校の中で会うことが滅多にないんだ。
ほとんど一人に近い状態。
うーん...。
考えれば考えるほど、一人がどんどん悲しくなってきた。
友達かぁ、どうだったかなぁ..。
やっぱり年頃になると、そういうの考え込んじゃって逆に友達ができづらいのかも。
小さい頃なんかは、遊んでるうちに友達になったような。あんまり覚えてないな。

その日は、友達を作る方法を考えてるうちに、いつの間にか終わっていた。

「デスペレイション 2」

「正義」とはなんだろうか。
困っている人を助けて、名前も告げずに去るのが「正義」なのか。
誰にでも優しくする、みんなを笑顔にできるのが「正義」なのか。
悪と戦うのが「正義」なのか。
僕はこれが「正義」とは思わない。これら全部を兼ね備えた国民的ヒーローさんは「正義」だとしても、僕はどう考えても「正義」だとは思えない、ヒーローだと思えない、彼らだけは……。
彼らは人助けはするし、いくつもの事件を解決した実績もある。実際誰もが彼らに助けられてるし、感謝もしてる。
だが、
誰一人として「ありがとう」とは言わない。なぜなら………………………

バァン!!!!!バン!ガン!ガッシャアン!!!!
そんな…バカな。鍵もかけたし、この倉庫自体そう古くはないはずなのに…!
蹴り飛ばされた扉は倉庫へ逃げこんだ生徒の目の前で大きな音をたてる。
「くそっ!!お前ら、一体なんだって言うんだよ!!!」
少し高いが恐怖を与えるには充分な低さで、それでいて体をなでるような、やさしい声で彼はこう言った。
「はじめまして…悪の生徒会です…。」

「アクのセイトカイ 1」

『犯人たちを捕まえることに成功。確保直前、数名は抵抗を見せ殴りかかる者やナイフを取りだし暴れる者もいた。しかし、すぐに取り押さえられ生徒会の活躍により事件は幕を閉じた。』か…。
「おーい、何してんだよ。」
「あぁ、ごめんすぐ行くよ。」
「何?学園新聞…あーあのガラス破壊事件?一夜にして何十枚もの窓ガラスを割ったという…」
「そういえば知ってるか?暴れだした犯人の一人、生徒会のやつにぶっ飛ばされてまだ病院にいるんだって。」
「えぇーまじかよ!流石『悪』というか…いや、これはただの自業自得か。」
うちの学校では生徒会を「正義」だと思う人はいない。決して仕事をしないとか、誰も助けてくれないわけではない。
むしろやり過ぎなのだ。
冷酷無比、残虐非道というべきか。普段の彼らからはそんな風には見てとれない。というか、常日頃から人を恐怖に陥れるような人が生徒会に入れるわけないし、選ばれもしなかっただろう。
活動中の彼らからは人間味が一切ない。
言動一つ一つに恐怖する、絶望する、死を覚悟する。それが生徒会が正義ではない理由、『悪』と呼ばれる理由……。
僕たち生徒は騙されたのだ、彼らに。
……などとは言うものの実際これは単なる噂である。普通に生活を送っていれば何も起こらない。
どこの学校にでもいるような真面目な生徒会メンバー。
だから…だから怖いのだ。誰も本当の彼らを知らない。嫌われることもないが好かれることもない彼らは、一体何を考えてるのか…。


「ちょっ、おまっ!何考えてんだよ!!」
「何をって言われてもナニとしか言えんなぁ」
「なにそれ、ちょっとキモいわ」
「そのチョコ高かったんだぞ!ひとり3個までって言っただろうがぁぁぁああ」
突然の叫び声で校舎中の時が一瞬止まったことに、彼は気づくことはないだろう。ニット帽をかぶった少年は激怒した。それは、必ず、かの邪智暴虐の王をうんぬんとかではなくただ感情的になっているだけであって、決して妹の結婚式とかセリヌンティウスがどうのなんかも関係ない。
このニット帽少年は政治がわかるが、目の前でヘラヘラしてる、少し茶色のはいった短髪少年の考えてることがわからない。
いや、おそらく何も考えてないのだろう。
本当、こいつら仲悪いなぁ。
まあ、食べ物の恨みは怖いって言うしな。この状況は案外いたって普通なのかもな。
ニット帽の少年の名は火ノ宮 悠介
茶色の短髪少年の名は斬原 和哉
オレたちは生徒会の一員である。

アスノセカイ

アスノセカイ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-29

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 「デスペレイション 1」
  2. 「ボクはコドク 1」
  3. 「デスペレイション 2」
  4. 「アクのセイトカイ 1」