生と死のスーヴェニア ~無刻の世界と喪失の少女~

自分と記憶の喪失。
シリアスな話。
起承転結の起の部分でしかないのですが是非読んでください。たいそうな名前つけといて内容少ない。

第1章 始まりの白と夜

気がつけば何もない空間。
白で覆われた否、白だけの場所。
少女は一人そこに浮かんでいた。
少女は自らに問う。
なぜ、私はここにいるのか・・・と。
そして、ここがどこなのか。
少女は何もかも忘れていた。
記憶やここに至る経緯。
笑い方や怒り方、泣き方さえも覚えていなかった。しかし、唯一分かっていたことがあった。それは自らの死。自分が生きておらず死んでいる状態であることだけは分かっていた。なぜか感情という名の衝動は消え去った。あるべきものを失った少女。何も感じない。何も思わない。意識が存在が曖昧な彼女はわずかに残った心で思考を巡らせていた。そして知りたいと思った。失ったモノすべてを。そう少女が感じた瞬間に白の世界は夜空の下の平原へと姿を変えた。
平原の中で道は少女の足元の一本のみ。少女以外は誰もいない。
草木は眠っているかのように動かない。
それでも少女は自分を取り戻すため、道の上を歩き始める。いつか、どこかに辿り着くと信じて。その時、星の瞬く光が彼女を導くように道を照らしていた。

第2章 星の描く空

突如現れた夜は明けず、少女が歩く道にまだ終わりは見えない。景色も変わらぬこの空間に酔いそうに思いながらも懸命に足を動かしていた。疲れという感覚はなかった。果てのない道、先に広がる未知。少女は辺りを見回しながら唯ひたすらに歩いていく。彼女以外の人がいないものかと探してみたが生憎誰もいない。
そもそも、この空間で自分は存在しているのかすら少女には分からなかった。
少女は今度は空を見上げながら歩き始めた。不思議で不気味なことに数多の星は見えているのに、そこに大きく強く美しく輝くはずの月がなかった。プラネタリウムを見ているかのような星空。その夜空に少女は微笑む感覚を行為を思い出し、微笑んだ。あぁ、この黒い空も私と同じ様にあるはずのモノがないのだと。
失った月を嘆く一際青き星々。その星々に同意する様に涙を流す流星。月のない空にある赤き星アンタレスは何に燃えているのだろう。少女はふと思う。自分にはこの星達のように嘆き涙してくれる人がいるのだろうか。居たとしても今となっては意味がないかと思い直し少女は頭を降った。今は前に進むだけで良いのだ。

 私は・・・・・

第3章 刻のない館

赤いレンガと黒い窓枠、青灰色の屋根に同色の扉。少女はいつしかその洋館の前にいた。その洋館の中央の上の方に時計があったのだが、とても奇妙なことに針がなかった。長針も短針も。夜の平原の中に佇む針なき時計のある洋館はたいそう不気味で幻想的であった。足元の道は洋館の扉のところで止まっており、そこから先はなかった。自分の辿り着くべき場所はここだと信じて少女はその扉を開けた。ギィィィとどこかのホラーのお話のように重々しく開いた。しかし、ホラーと違っていたのは中が明るかったことだ。少女は何の躊躇いもなく室内に入る。
「珍しい、お客さんかい?」
どこからともなく聞こえてきた優しげな男の声。少女が声の主を必死に探しているとその相手は普通に奥から来た。ただたんに屋敷中に響いていただけだった。
「さっきの問いかけの返事は?」
少女は一瞬何の事か分からなかった。しかし、すぐに察して応答した。
「分かりません。私は私を求めてこの館に入りました。ですから、ここに私の答えがあれば私はお客であるし、なければお客ではありません。」
「ふむ。君はここがどういう場所なのか分からずに来たのだね。当たり前のことだが。まぁ、いい。君は僕のお客らしい。まず、お茶でもどうだい?このエントランスでボッーと立ってないで。奥へどうぞ。」
そういえば、ここは玄関にあたる場所であり話すのに向いている所ではない。優しげで怪しげな彼に導かれるままに少女はその歩みを進めた。

第四章 日記の住まう場所

「さぁ、どうぞ」
もわもわと白い湯気が立ち込めるティーカップ。香ばしい茶葉の香りと共に出されたミルクの匂いは混ざり合って上品な香りを醸し出していた。
「あの、ここに"私"はあるんですか?」
少女はミルクティーを一口啜ると彼に質問した。
「あるとも、そこの本棚をよく見てご覧」
そう言われ、少女は近くにあった本棚を見た。普通の本にしては、外装が色とりどりで柄が派手だ。
「あの、ここの本は・・・・」
「気づいただろう。そう、ここの本達は全て誰かの日記だ」
日記・・・・。それは色んな人が一度は書いたことのある物だ。少女も書いていたのだろうか。ミルクティーを置き、自分が生前に日記を書いてなかったとしたら・・・と不安に駆られて俯く少女。
そうか、これが不安っていう気持ち。
下の床を見つめながら、少女は次第に感情を思い出し、痛感していく。
「大丈夫、君の日記はここにある。君の日記は存在しているよ」
ビクッと体を震わせ、彼の顔を凝視する。
「その日記はどこに? 読みたいです」
「残念ながら、何処にあるかは分からない。しかし、分かるのは君の日記はこの館の四十五階の本棚にある」
今から四十五階に上がり、片っ端から読んで探していくしかないようだ。少女はその量に圧倒され、深い溜め息をついた。
「まぁまぁ、そう焦らないで。そもそも君には自分の日記以外の人の日記も読まなくてはならないからね」
自分が書いた日記以外の他人の日記を読むなんてなんと奇妙なことだろう。
少女が首を傾げていると彼は苦笑いをしながら、ここの決まりだからと言った。

少女が四十五階に上がり、一階からはその姿が見えなくなっていた。
「ここは全ての人の日記が集う場所。使われなくなった、忘れ去られた日記。使い終わって役目を果たした日記。持ち主の想いの全てを知り、影響されて日記自身がより想いを鮮明に文章を書き換える日記達の館」
彼はそう呟いて、穏やかな笑みを浮かべ続けていた。

生と死のスーヴェニア ~無刻の世界と喪失の少女~

読んでくださってありがとうございます。

生と死のスーヴェニア ~無刻の世界と喪失の少女~

これから始まる物語。 始まりは白い色をしていてー。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-29

Copyrighted
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  1. 第1章 始まりの白と夜
  2. 第2章 星の描く空
  3. 第3章 刻のない館
  4. 第四章 日記の住まう場所