報復授業

俺は教師。
新しく就任したのは、かつて自分が通っていた中学校。
そこで彼は嵐を巻き起こす……

ショートストーリー

国公立の教育大学を卒業した俺は、地元中学の先生になった。教育実習でも世話になった学校だが、別に思い出がある訳でもなく、たまたま家から近い場所にあるからという理由で決めた事だった。
元々OBであり、この学校には知っている先生もまだちらほら残っている。俺を見て、先生達が俺にかけた言葉は皆が同じだった。
「へぇ、お前が先生になるとはね」
これには理由があるし、俺もまさか自分から先生になることを選んだなんて呆れて笑えてくる。ただ、俺にはやらねばならない事があった。

新しく就任した先生の紹介を校長がしている中、体育館に集まった生徒達が興味なさげにあくびをしている様子が壇上から見えた。俺が受け持つ事となったのは2年生。1年生とは違い、もうすっかり中学生として成長した彼らを受け持つのは難しいだろう。思春期やら反抗期やら、厄介な奴らが生意気言ってくるはずだ。しかし俺にとって好都合だ。
「こんにちは」
集会が終わり、早速教室に入った。生徒の視線が俺に刺さってくる。
「はじめまして、新しく受け持つ事となった中西です。クラス担任になったので、学校行事とか授業とか一緒に頑張っていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」
堅苦しい挨拶を言ったあと、気だるげなため息が後ろの席から聞こえた。
「何か質問はありますか?」
とりあえず聞いてみる。すると早速、ふざけた質問が飛んできた。
「せんせーい、彼女居るんですかー?」
「何歳なんですかー? 初体験はいつですかー?」
「女子中学生相手に興奮しないんですかー?」
答えるのも面倒だ。ただ、第一印象は大事だろうし、いきなり反抗されるのも癪に障る。
「可愛い子もいるけど、僕は中学生は対象にならないんで」
当たり障りのない答えを返したつもりだが、クラス内は一向に落ち着かない。
「今日はとりあえず入学式だけだから、これで終わりです。さようなら」
名簿を片脇に抱えて、教室を出た。ざわつくクラスに、これから始まる生活を考えると楽しみでしょうがなかった。
そして就任して1週間後。
「さあ、授業を始めましょう」
教壇に立ち、生徒を見渡す。机にうつ伏せになって寝ている奴、顔は上げていても目も合わない奴。どいつもこいつも俺の方を見ようともしない。まあ、いいだろう。
「特別授業の時間です。いじめ教育について考えてみましょうか」
すると、何人かがこちらに顔を向けた。
「今までに、いじめについて講義を受けた人もいるかもしれませんが、もう一度考えてみて欲しいと思います」
一部の気弱そうな男女が明らかに顔を伏せた。
やはりな。いじめは存在しているのだ。
「これから行う授業は、だらだらと話すでもなく、映像を見るでもない、実践です」
「はあ?何言ってんすか、先生」
さっきまでずっと机の下で携帯を弄っていた男子が反応した。
「いじめを実際にやるんですよ。話を聞くでもなく、映像を見るでもない、実際にやってみるんです。そうしないと、何もわからないだろうし、わかろうともしないだろうと思いまして」
「アホじゃねーの。そんなのPTAとか止めねーのかよ」
「僕が説明したら納得されましたので、その点は大丈夫です」
ざわめき始めるクラス。
「では、遠山君。まずこの紙を開かずに持っていてください。他のみんなに決して見せてはいけませんよ」
「なんで俺なんだよ」
「君が一番発言力があると判断したからです」
有無を言わさぬように、間髪入れずに答えを返した。
紙を持った彼は、すぐ開いて見せびらかすと思っていたのだが、思っていたよりも気が弱かったようで、それを手に握り込んでいる。
「では皆さん、今から箱を回します。その中に入っている紙を1枚だけ取って回してください。それはいつ開いても構いません。ただ、遠山君には見せないようにしてください」
そう言うと、早速箱を一番手前の生徒に手渡した。少し顔が強ばっているが、俺は笑顔を見せてやった。中央の席まで箱が回った辺りで、俺は教室を鍵を閉めた。前も後ろも、窓も全て。
「え、何すんの」
さすがの遠山もそろそろ不安な声色になっている。滑稽だ。皆も落ち着かないようで、紙を開いて顔を青ざめさせたり、友達通しで口々に喋ったりと煩かった。
「全員回ったようですね。では、紙を開いて、その指示に従って動いて下さい。先生はここで何もせずにいますので。質問に来ても答えませんし、全て自分が解釈したように動いてもらって構いません。ただし、物理的なやり方で身体に跡が残るような事はしないでくださいね。では、始めてください」
満面の笑みを見せつけると、生徒達はしーんと声を発さなくなった。

さあ、やってみろ。これが俺の報復だ。知ればいい。どいつもこいつも人を馬鹿にして。偉そうな口を聞けるのも、もう終わりだ。

生徒達は動かなかった。というよりも、動けなかった。
力なく開いた手のひらから、配られた紙がぱらぱらと床に落ちる。


『あなたの好きな方法で、好きなように、思う存分いじめましょう』

さあ皆さん、始めてください。

報復授業

続きが気になる!
と思わせられたら、な。

報復授業

一体彼は何をしでかすつもりなのか。 教師である男が、新しく就任した先で企むこととは-。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-28

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