practice(186)



 バス停を通り過ぎて,向こう町まで歩いて行く途中にあの子がアイスを食べたいというものだから,横断歩道を見つけて,反対側に渡って,お店がある先まで道を戻った。一本おごってくれるというお詫びの形に,納得するのも安い感じがしたけれど,風も気持ち良く吹く日でもあるし,帰りの午後はまだまだ長いし。二人分の百円玉をポケットから出して,カバンの中に収まってる財布の色を目にして,あの子の早い足音に,顔を上げて,日差しをまともに目にしちゃったら,瞬きしてもなんかしかめっ面。カワイクナイ,みたいなことをあの子に言われても,ショウガナイジャンに近い言葉が遊んで逃げてく。うん,やっぱしょうがないじゃん。頬にかかる髪をどかして,追いかける地面に返事をして。
 アタリつきだよ。間違えないで。
 見慣れた店内をから出てきて,庇で暗い入り口から大っきなトラックを次々と通してく二車線の片側の,もっと先の景色に冷たくて甘い味を齧る。夢中で無言の二人の間には,おまけの菓子を持って来てくれたおばあちゃん。アリガトに,どこに行くの?という見上げる会話は,テンポよくはいかないもので,あの子と一緒に付き合ってる。さっきのバス停を覆い隠して,出発前のバスの窓側の席から手をふる小さい子に,どちらも手を振り返して,曇りっぽい天気がさっさと出かけていった。シャクシャクいってる。名前がありそうな雑草の頭がこっちに揺れて,戻って。
「ねえ,なに買う予定だっけ?」
「え?うーん,服とか?」
「帽子は?」
「うん。いんじゃない。」
「だって。あ,アタリ。」
 息を吸い込んじゃって,排気ガスまじりのフルーツな感じ。裏も表もない素直なカタカナ。悔しいけど,どうせ食べ終われないって分かってるから。
「ごちそうさま。」
「お待たせ。」
 ビニールを破って,白い湯気が上る。もっと先の景色に予感めいたものはないけど,印字がある時刻表の並びは山になったり,谷になったり。
「よく見えるね。」
「どっちかって言うと,覚えてる。」
 丸い形をした指のまま。高い所を見上げて,見てた。
「溶けちゃうよ?」
「まだ。」
 それを口にして,齧った。




 
 

practice(186)

practice(186)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted