遺言屋6
ひさかたの
「まず妖怪退治に必要な武器をゲットしてもらいますよ!この御神木に自分の名前を刻んでください。」
そう言ってミケさんは小さな木の札を僕に渡した。
「素質のある人ならきちんとたどり着けますから!モノは試し!レッツゴー♪」
「えっ?!ど…どうなるんですか?!」
「さあー、とりあえず如月君には精神世界に行ってもらいます。そこで試験があるんですけど、試験形態は人によって違うんです。
さ、早く早く!」
とりあえず、渡されたナイフで自分の名前を刻む。
如月 莉旺
世界が暗転する。
遠くで、行ってらっしゃーいという
ミケさんの呑気な声が聞こえた。
ここは……どこだ?
真っ暗だ…
ふと、向こう側に人影が見えた。
……近づいてくる。
…?
……そんな、まさか…
「母、さん…?」
母さんだ。
そんなはずないと、心では分かっていても
近寄って行ってしまう。
「莉旺。」
「母さん……!!」
「ごめんね、ずっと留守にしてて…
もう仕事も片付いたから、また一緒に暮らせるよ。
父さんももうすぐ帰ってくるから。」
パッと、景色が変わる。
家だ。
母さんと、父さんと、澪と
一緒に暮らした少しボロい我が家。
「本当に母さんなの……?!」
涙が溢れる。
「なに変なこと言ってるの!
さ、夕飯の支度しましょ。
手伝ってくれるよね?」
「うん、もちろん……!」
「じゃあお野菜切ってくれる?」
「分かったよ、母さんは包丁使うの苦手だもんね。」
そしてキュウリに手を伸ばす。
瑞々しい野菜たちを、リズミカルに切っていく。
「痛ッ……!」
指を切ってしまった。
調子に乗りすぎたー……
「大丈夫……?!莉旺、切ったの?!
見せてごらん、あぁ、こんなに深く…
早く手当てしよう。こっちおいで。」
「……?」
「ほらはやく!
あんたに何かあったら、私……」
「やっぱり、母さんじゃないんだね…」
涙がまた、頬を伝う。
「……なんで?どうしたの、莉旺。
あ、澪の帰り遅いねぇ。迎えに行こうか。」
「母さんは、指を少し切ったくらいで
動揺したりしない。」
「……」
しっかりした人だった。
活発で、子供みたいで前向きで、
でも大人びていて。
「……君の心の中のお母さんを、
望んでいたように演じたんだけどなあ。」
母さんの姿をした人が、つぶやく。
「…誰?」
「…君の心に潜む鬼さ。」
鬼……?
またパッと暗くなった。
「ねぇ莉旺……置いていかないで……
母さんを、こんな暗いところに一人にしないで、お願い、莉旺……!」
「母さん……」
「無理だよ。君は僕の母さんじゃない。
僕らの母さんは、そんなつまらないこと言わないよ。」
僕は笑顔を作って見せた。
にっこり。
「……莉旺は強いねえ。
ごめんね、置いて行って本当にごめん。
…でもあんたならなんでも出来る!
莉旺はお父さん似だけど
あの人も、ヘタレだけど芯はとっても強かったのよ。だから大丈夫。
澪と、あの人の大切な子を、
あんたの手で守ってね。
強く生きろ、莉旺!!」
「……母さん?!」
消えていく。
「待って、待って母さん……!」
紛れも無い、今のは…!
ひらりと、なにかが降ってきた。
桜だー…
ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ
母さんの好きだった和歌。
『死ぬときは地味に死ぬんじゃないよ!
轢かれるなら派手に。散るときは桜みたいに気高く散るの。分かった?』
さよなら、母さん。
頑張るよ。
そこでスッと目が覚めた。
「あ、戻ってきた!
どうです、ここがどこか分かりますか?
具合は悪くなってませんか?」
「……大丈夫です。」
夢……だったのかな。
お腹のあたりに重みを感じる。
……剣?
日本刀みたいな形をしている。
「さっすが如月君!
やってくれると思ってましたよ!
…立派な武器ですね。
御神木は貴方を認めたようです。
これで如月君も家族同然ー…
きっとその刀で、東郷家を、
もちろん貴方自身の身も守ってくださいね。」
「僕の、武器…。」
「刀のどこかに、文字がありませんか?」
探してみる。カチャカチャと音がなった。
……あった!
柄の部分に〈鬼〉と刺繍されている。
「鬼、って書いてあります。」
ミケさんの目が開く。
そして、苦笑した。
「…やっぱりそうなんですねぇ……」
何か考え事をしているみたいだった。
「とりあえず、誓様のところに行きましょう。立てますか?」
言われるままに、誓の部屋へと向かったー…
遺言屋6
遺言屋5の続きです。
あんまり動かなかったっていう……
申し訳ありません;;