宗教上の理由・さんねんめ 第三話
まえがきにかえた作品紹介
この作品は儀間ユミヒロ『宗教上の理由』シリーズの一つ。物語の舞台である木花村は、個性的な歴史を持つ。避暑地を求めていた外国人によって見出されたこの村にはやがて多くの西洋人が居を求めるようになる。一方で彼らが来る前から木花村は信仰の村であり、その中心にあったのが文字通り狼を神と崇める天狼神社だった。西洋の習慣と日本の習慣はやがて交じり合い、独特の文化をもたらした。
そしてもうひとつ、この村は奇妙な慣習を持つ。天狼神社の神である真神はその「娘」を地上に遣わすとされ、それは「神使」として天狼神社を代々守る嬬恋家の血を引く者のなかに現れる。そして村ぐるみでその「神使」となった人間の子どもを大事に育てる。普通神使といえば神に遣わされた動物を指し、人間がそれを務めるのは極めて異例といえる。しかも現在天狼神社において神使を務める嬬恋真耶は、どこからどう見ても可憐な少女なのだが、実は…。
(この物語はフィクションです。また作中での行為には危険なものもあるので真似しないで下さい)
主な登場人物
嬬恋真耶…天狼神社に住まう、神様のお遣い=神使。清楚で可憐、おしゃれと料理が大好きな女の子に見えるが、実はその身体には大きな秘密が…。なおフランス人の血が入っているので金髪碧眼。勉強は得意だが運動は大の苦手。家庭科部所属。
嬬恋花耶…真耶の妹。頭脳明晰スポーツ万能の美少女という、すべてのものを天から与えられた存在。真耶のことを「お姉ちゃん」と呼んで慕っている。
御代田苗…真耶の親友で同級生。スポーツが得意で活発な少女だが部活は真耶と同じ家庭科部で、クラスも真耶たちと同じ。猫にちなんだあだ名を付けられることが多く、「ミィちゃん」と呼ばれることもある。
霧積優香…同じく真耶と苗の親友で同級生。ニックネームは「ゆゆちゃん」。ふんわりヘアーのメガネっ娘。農園の娘。部活も真耶や苗と同じ家庭科部。
プファイフェンベルガー・ハンナ…真耶と苗と優香の親友で同級生。教会の娘でドイツ系イギリス人の子孫だが、日本の習慣に合わせて苗字を先に名乗っている。真耶たちの昔からの友人だが布教のため世界を旅しており、大道芸が得意で道化師の格好で宣教していた。部活はフェンシング部。
嬬恋希和子…若くして天狼神社の宮司を務める。真耶と花耶は姪にあたり、神使とその守り人であるために親元を離れて天狼神社で育つしきたりを持つふたりの保護者でもある。
1
「ええー、こんなショボいとこなの?」
「パワースポットだっていうから来たのにー、ちょっと興ざめー」
「つまんなーい。こんなとこお祈りしてもイミ無いよ。行こ行こ」
神社の境内が急に賑やかになったと思ったらあっと言う間にけたたましい空気に包まれた。その喧騒を作り出していた彼女たちはまさに招かれざる客と言わざるを得なかった。
天狼神社にやってきたうら若き母娘たちは、パワースポットなるものを巡っているらしかった。まあいまどきの若々しい母親なので聞きかじったブームに乗ったのだろう。しかし、雑誌のモデルのような可愛らしくきらびやかな外見と裏腹に、その言葉は余りにトゲのある、礼儀を知らないものだった。
「うわ、草ぼうぼう。虫とかいそうでなんかキモい」
「そうね、商売としてなってないわね。お客様は神様って言葉知らないのかしら」
その三人はひとしきり好き勝手なことを吐き出した挙げ句、嵐のように行ってしまった。神社を守るオオカミの石像の上に、飲み残しのジュースと空になったお菓子の袋を残して。
こんな様子、関係者が見聞きしたら傷つくだろうけど…、
「別に商売とかのつもりでやってないんだけどな」
石像の影から、ホウキとチリトリを持った女性が、つぶやきながら現れた。
聞かれていたようだ。こともあろうにこの神社の宮司に。
宗教的な空間を十把一からげに「パワースポット」などと呼ぶようになったのはいつからだろう。ここ天狼神社も、どこぞのホームページにそんな紹介をされていたらしく、時々それを見た観光客がやってくる。
でも天狼神社は小さな神社。家族で切り盛りしているので普段は無人だし、お守りやおみくじを授ける売店もない。あるのは朱色がくすんだ鳥居に、簡素で古びた社殿。はるか昔境内にまかれた玉砂利は土に埋もれ、さらにそれらを雑草が覆い隠している。
一言で言って、華やかさがない。寂れている。古い。ぼろい。汚い。こんな所で祀られては、神様も悲しかろうと、思う人もいるはずである。
だがそんな感想も、人間の勝手な言い分でしかないだろう。天狼神社はその名のとおり、狼を神として祀っている。だから人間からすれば贅沢なものでも神様にとっては有難いものとは限らない。むしろ境内の地面などは土のほうが狼である神様の脚に優しいだろうし、土のままにしてあれば当然雑草が生える。でも必要以上に除草をしないのは無駄に生き物のいのちを奪いたくないから。むしろ雑草という呼び方ですらここにはふさわしくなく、人間の都合で生き物に勝手な序列をつけるべきではないとすら考えられている。
狼の神様にとっては御殿のような建物よりも草むらや洞穴のほうが過ごしやすいだろう。だから神社の本殿を立派にする必要もない。信心深い人々の多く住む村であるから寄進や賽銭もけっして少なくはないのだが、自分たちの神社を綺麗にするくらいなら、災害などで壊れた神社の再建のために使ってもらったほうが優しい性格の神様もお喜びになると考えられている。だから人々の浄財はさまざまな寄付金や義援金に変わっていく。それが氏子たちの統一した望みでもあるし、そうすることがご利益を約束するのだという人もいる。文字通り、情けは人のためならずとばかりに。
そもそも控えめで目立つことを嫌うとされる神様である。派手な装飾の場所では居心地が悪いに違いない。
大きな神社には大きな神社の役割がある。天狼神社は村のちっぽけな神社としての役割を果たす。それが神の思し召しであると知っている村人たちは、この粗末な社こそを誇りに思っている。
よその行きずりの観光客がどう思おうと知ったことではないのだ。
2
さて。
その天狼神社の神使という役目を仰せつかっている我らがヒロイン嬬恋真耶であるが。彼女は同じ頃、同級生から熱心なお願いを受け困っていた。
「ごめんね、あたしそれは出来ないの。その代わり応援に行くから。ホントにごめんね、あたしに力がなくって」
時は少し戻っている。真耶はこの時まだ中二。だからお願いをしている彼女もまだ部活の第一線にいる。彼女はフェンシング部で、同じ部のハンナたちと団体戦の試合を控えていた。
真耶が仰せつかっている神使という役目は単なる飾りではない。この世に遣わされるさいに神様が持つべき力を授かっているとされている。例えば彼女が念を込めて書いた文字にはお守りと同じ力があるとされる。だから村の子どもたちは何か願い事があると真耶のもとにやって来て自分が普段身につけているものを差し出し、一筆をと願い出る。これは村人達に代々伝わってきたおまじない。もちろん無料だ。
ほとんどの場合真耶はそれを喜んで受け入れるのだが、例外もある。そのとき同級生が持ち込んだお願いがまさにそれだった。
「あ…真耶ちゃんごめんなさい。わたし自分の力で頑張る。頑張って勝ってくる」
そのことに気づいた彼女は、手に握ったフェンシングの剣をぐっと握った。
天狼神社でも、叶えられない願いが二つあるという。
一つはスポーツの必勝祈願。日本において狼を祀ったり神使にしている神社はいくつかあるが、天狼神社に祀られている真神はそれらと由来が違うと言われている。穏やかな性格で、争いを好まない。だから勝負ごとに関係した祈りは叶えられないのだという。そして神使である真耶もまたその性格を受け継いでいる上に、現に筋金入りの運動音痴である。もし天狼神社の真神にスポーツ運を授ける力があれば真っ先にそれを真耶に授けているはずだ。そしてそれを裏付けるように、天狼神社に狛犬がわりに鎮座しているニホンオオカミの像は可愛らしく、子犬のようにも見える。
そして、もう一つ。
縁結びが成就しないという噂。
3
希和子は時々、となり町のホテルの神前結婚式で神主を務める。本来そういう営利がらみの仕事はしない神社なのだが、世の神官というのもなかなか忙しいもので、婚礼の集中する大安吉日など、人出不足を助けてほしいと言われれば断れない。でもそのたびに言われるのだ、新郎新婦やその家族から。
「神主さんが女の人なんて珍しいわね。旦那さんも神主さんなんですか?」
神官は男、そういう固定観念から生まれた好奇心なのだろう。そこに悪気は感じられない。だが希和子はそう問われるたびに苦笑しながら答える。まだ独身です、と。すると、
「あらそう、こんないい感じの方なのに残念ねえ、旦那さんがいらっしゃればわざわざあなたがお仕事しなくても済むでしょうに」
大体このような答えが返ってくる。おそらく言っている本人は悪気どころか、良かれと思って言っている。こんな器量の良いお嬢さんがお一人だなんて勿体無い、結婚すれば旦那さんにお仕事は任せて家や子どものことに専念できるのに、と。それが女にとっての幸せなのに、と。
「別に嫌々やってるってわけじゃないのに」
控え室に戻ってきた希和子はむくれていた。
希和子の兄で真耶の父である真人は神社を継がず、東京の大学を出てそのまま公務員になった。その妹で希和子の姉に当たる麻里子もまた、嫁に行くという形で神社を離れた。残るは末っ子の希和子だけ。思わぬ形で宮司職が回って来たことに最初は戸惑ったように見えた。しかし本人への負担を考えてかけられた、無理に継がなくとも良い、宮司は親戚から選ぶからという家族からの助言を断って、希和子はこの道を選んだ。
「えーなに、希和子さんまた何か言われたの?」
希和子が先の言葉をつぶやきながら控え室のドアを開いたとき、すでにそこには先客がいて、そこにある姿見を磨く仕事をしていた。
彼女の名は屋代杏。真耶たちの二年先輩にあたり、中学校時代は生徒会長を務めていた。家は代々村一番の大会社を経営するという、絵に描いたようなお金持ちの令嬢。天狼神社の宮司が普段は行わない神前式の進行を引き受けているのは、このホテルもまた杏の父親が社長を務める屋代観光の経営であるからに他ならない。真耶と杏は幼い頃からよく知り合った仲。子どもの保護者が仲良しの子どもの家の困り事を救ってあげたくなるのは人情だ。
杏はそんな村一番の財産家の娘でありながら偉ぶったところは全然無く、ホテルで人出が足りないと聞けば進んで手伝いをする。その上しっかり者ときているし、賢くて気が回るし、勘も良い。だからこそ希和子の憂鬱の原因もすぐ察したし、以前からそういう声があることを周囲から聞いて気にかけていた。別にこんにち、希和子の年齢で独身でも珍しくない。真耶たちの担任で希和子とも仲の良い渡辺だって未婚だ。だが希和子や希和子と近しい人々がよくても、世間がそうとは限らない。木花村はそんなことないが、他の地域や他の神社との交流もあるし、そういうときに気後れしてしまうことは否めない。
「無理、しなくてもいいのに…」
杏が言う。天狼神社は勿論、村にあるあらゆる宗教機関はあくまで村人にとっての信仰の場所。信仰を求めて来るものは拒まないが、興味本位の人間は来なくて良い、そしていくらその人間が金を持っていようとそこで商売はしない。そういう矜持を持って希和子をはじめとする村の宗教人は生きている。
それが分かっているからこそ、杏は希和子のことが心配でならない。いまある形の神前結婚式というのがもともと神道には無かったものだし、いわばポリシーを曲げてまで自分の家を手伝いに来てくれていることへの申し訳無さもあるが、それ以上に「未婚女性の神主」ということへの好奇の目に晒される希和子を心配せずにはおれない。かと言って困っている人を放っておけない希和子の、いや嬬恋家の人々の性格も杏は知っている。元をたどれば杏の父親が一度だけと言って頼んだのがずっと続いているだけの話なのだが、一度足を突っ込んだら最後まで面倒を見たいという人の良さも、それを無理にやめさせることで希和子が逆に気にすることも杏は知っている。
だからこそ、心配だし、申し訳なさも感じる。自分たちが仕事を依頼することで、希和子に嫌な思いをさせていることは間違いない。かと言って、今更断るのもヤブヘビになってしまうし、希和子は人に余計な気を揉ませるのを嫌がるあたり、真耶とそっくりなことを知っているから。
4
だが。
「最近希和子さん、ヘンじゃない?」
数日後の嬬恋家。この日の花耶の一言は的を射ていた。いくら天狼神社が世俗的な行事を避ける傾向にあるとはいえ、葬儀や法事の依頼は普通に受ける。もちろんそれ以外にも大人なのだから夜に出かけることは普通にある。
この日も希和子は出かけていて、帰りは遅くなると言い残していた。残された真耶と花耶は自分たちで料理をして夜の食卓を囲んでいる。家庭科部所属の真耶にとって料理はお手のもの。希和子がいないからといって別段困るわけではない。
だが花耶曰く、希和子が以前に比べて帰ってくる時間が遅いし出かける回数も多いというのだ。微妙な行動パターンの変化に、花耶は気付いていた。
「そうかなあ、あたし今までと変わんないと思うけど」
「お姉ちゃんはニブいんだよ、そういうのに。観察してれば分かるよ」
呆れた口調で花耶が言う。そこに悪意は無いし、真耶のほうもムッとすることもなく、ああ、あたしそうなのかなあといった風で首をかしげている。花耶は構わず続ける。
「こないだの寄り合いのときも、希和子さん遅かったでしょ。いつも外で飲んだりしないのに、ああいうとこにずっといるなんておかしいよ」
集落の会合というのは大人が飲む口実には丁度良い。だが普段の希和子は生真面目な性格も手伝って、酒に溺れることなく粛々と話し合いに参加する。そしてそれが終わると宴会に突入した人々を尻目に、さっさと帰宅するのが常だった。
「でも希和子さんだって、色々あるんじゃない? 話し合いが長引いてるとか、さ」
「ううん、そんなことない。だってさ」
花耶が、携帯の画面を指し示す。そこには集落には数少ない女の子で、花耶の幼なじみからのメールがあった。
「うちのパパはもう帰ってきてるよ」
希和子の行動を怪しんだ花耶は、用意周到なことに寄り合いが何時に終わるかを確認していたのだった。
と、いうわけで。
「やめようよ、こういうの」
夜の木花村。花の季節を終えたレンゲツツジに折からの雨が滴り落ちる。そしてその植え込みの奥に、三つの影が動いた。
「こそこそするの良くないよ。それに雨だし」
「雨だからいいんだよ。あっちもゆだんするから」
不安を訴えたのは真耶。その懸念を一蹴したのは花耶。さらに横から、
「つか雨関係なくね? 向こうもこんな時間にウチらがいるなんて思わないっしょ」
と言ったのは苗。嬬恋家の問題に御代田家の娘がなぜ混じっているのかといえば、学校で真耶が苗とおしゃべりをしている時にたまたまその話になり、
「…だから、花耶ちゃんは怪しいっていうんだけど、あたしはそう思わないの。苗ちゃんもそう思うでしょ?」
と、同意を求めたはずが、
「面白そうじゃん」
と一言つぶやいた苗は、早速花耶に連絡をとって意気投合。結局真耶も巻き込まれ、こっそり希和子を尾行する探偵ごっこが決行されたのだった。物語の中の時間は真耶達が中二だった頃の秋に戻っているから、まだ受験勉強に追われることもなくこうして時間を費やす余裕は十分にある。
「でもこんなカッコで隠れてると、忍者みたいだね」
全員レインスーツを完全装備しているので、頭を覆い隠すフードを頭巾に見立てた苗が言う。
冷たい雨の夜。山奥にある木花村はすでにかなり寒くなっている。さすがにそんな日にここまでしなくてもいいと思うのだが…。
「これは、ひつようなちょうさなの。きょうみほんいとか、ものみゆさんじゃないの。花耶たちいちぞくろうとうのゆくすえをみさだめる、じゅうような、にんむなの」
花耶がその重要性を解くと、苗は強くうなづいた。それと同時に、異変に気づいて暗闇を指し示した。
「ねえ、見て」
指の先には、暗闇の中に見慣れた希和子の顔が浮かんでいる。ただし、一人ではない。
「ふうん、やっぱりそういうことか」
「予想通りだねえ」
一同腑に落ちた表情をした。ただ一人、真耶を除いては。
「…なんのこと?」
5
公務員へのバッシングかまびすしい昨今であるが、木花村の職員は他に類を見ない厚遇だと言われている。ほとんどの職員が正規雇用で、業務を民間に委託することもほとんどない。これは公共の仕事は公共団体が最後まで請け負うのが納税者に対する責任という考えに基いている。「ムダを無くそう」という時流の逆を行く方針に批判の声もあるが、村長はかわしている。
「民間に委託することが、なぜ経費削減になるのか分からない。大抵の事業ではコストの多くは人件費なのだから。人が食べて暮らして家族を養う費用に多いも少ないも無いし、それが公共と民間を置き換えることで増減することなど考えられない」
と。
もちろん村が案外金持ちだというのはある。それもあって村人への福祉も充実している点は大きい。子どもの医療費は無料、高齢者はバスに無料で乗れる。がん検診なども格安だし、経済的弱者への各種手当も手厚い。
だが、村人たちが職員の厚遇を認めているのは他ならない、村の職員がその厚遇に見合う仕事をしているからだ。それは昼夜分かたず寸暇を惜しんで動きまわるとかいう意味ではない。彼らは村人の側を向き、村人が求めることを法で認められた労働条件の範囲内で行っているだけだ。残業もほとんど無いし、年休もすべて消化される。
実は日本中を見ても、暇な公務員などほとんどいなくなっている。だが彼らの業務のほとんどがやる必要の無い無駄な作業に費やされていて、行政サービスが向上したとは言い切れない面もある。そうなってしまうのは彼ら公務員の向いている、いや向かされている先が市民ではないからだ。有り体に言えば、彼らは偉い人のご機嫌を取るために仕事をしている、いや、させられている。その結果一般の市民に割けるリソースは削られ、サービスの利用者から見れば役人は仕事をしていないように思えてしまう。サービスの送り手が自分に何かをしてくれない限り、受け手にとっては何もしていないのと同じだからだ。
だが木花村の職員は誰もが、村のために働くとはすなわち村人のために働くということだと強い信じている。そしてそれを実践するために強い意志を持つ者が揃っている。
木花村の隣の町は明治時代に外国人によって避暑地として見出され、外国人達の別荘が建てられていった。彼らは夏が訪れるたび、東京の酷暑から逃れ優雅な休日を過ごしていた。
やがてそこに留まるのみでは飽き足らない好奇心旺盛な人々は、ある人は馬車を仕立てある人は自ら馬にまたがり、より遠くへと物見遊山に出かけるようになる。その行き先の一つが木花村だった。当時の木花村は天狼神社と照月寺、そしてその門前の十数戸からなる寒村に過ぎなかったが、風光明媚な上に冷涼で、何より日本人の手で開発の始まった町にやがて喧騒がやってくることを予感した、高原の静寂を好む人々に好まれた。やがてこの地にも別荘が建てられ、ついには定住する者も現れた。少なくとも明治末期にはそれら住人の記録が見られるので、木花村が外国人とともに築いてきた歴史は百年を超えることになる。
それら村の歴史を学ぶには、村役場が便利だ。村の庁舎は外国人達が定住を始めてからしばらくして建てられた西洋作りの重厚な建造物で、明治大正のロマンを感じさせるその庁舎は文化財に登録されている。その中の一室が史料室として利用されており、ちょっとしたミュージアムといった風情。当然そこには天狼神社に伝わる史料も展示されている。
だが今日の史料室、ちょっと穏やかではない。
「あなた方のような方はお客様ではございません。お引き取り下さい」
女性職員が史料室の見学者に対してこのような言葉を吐いている。それってどうなのだろう? そしてその言葉を聞いて憤る見学者二人。
「何だその態度は、そしてその言い方は。これだから公務員は!」
そんな険悪な雰囲気に出くわしたのは、これまた真耶達だった。緊迫した空気に全員が肝を冷やしたが、すぐに事態は解決に至った。
「まあまあ」
出てきたのはいかにもな感じのヤサ男。
「お三人共、落ち着いて下さい。まずは両方の言い分をお聞きしましょう」
見学者の男性達は怒り心頭。代わる代わる文句をまくし立てる。一方女性職員のほうはしどろもどろで、何か言う度に男性が、違うだろ! と注文をつける。間に入っていたヤサ男はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「なるほど、お三人の言い分は分かりました。これは明らかにどちらが悪いか決まっていますね」
勝ち誇ったように、男性の見学者は言った。
「ほら見ろ、俺のほうが正しいじゃないか。謝罪したまえ!」
ヤサ男も言う。
「そうですね、謝罪が必要ですね」
女性職員が、目に涙を一杯溜めながら、深々と頭を下げ、はしなかった。ただ直立不動で、無言を貫いている。その表情に急に自信がみなぎってきたのが誰にもわかった。ヤサ男の目配せが彼女にそれを与えたようだった。
「おいどうした、早く謝れ。なんなら土下座でもするか?」
調子に乗る男性達。しかしヤサ男は、冷たく言い放った。
「何か、誤解をされているようですね」
不意に男性の表情が一変した。何を言われたのか理解できず、戸惑っているようでもあった。しかしヤサ男は全く動じず、こう言った。
「謝罪するべきはあなたがたです。資料室で大声で騒ぐような方々はお客様ではありません。それにお酒も飲まれているようですね。資料室は学習するところです。他人に不快感を与えることに快楽を見出すほど酒を召しているような方々には、ここに来る資格がありません」
穏やかな口調で言う彼だったが、不思議なほど自信に満ち溢れていた。正しい信念を持っている者が持ちうる自信。それに臆したか、酔っぱらいの男性たちはブツブツ言いながら、立ち去っていった。
実は、観光集客の面からの課題として、木花村の人々が観光客に厳しいということが時々指摘されていて、それが著名観光地にはなれない一因だとも言われる。実際、例えばマナーの悪い観光客には容赦が無く、騒いでいる子どもがいると地元住民も店員も容赦なく怒鳴りつける。確かにそれは観光客を伸ばせない一因とも思えるが、一部のマナーが悪い者にそういう態度をとることが直接観光客数に響くとも考えにくいし、何よりも村人は皆、万一それで来る人が減っても良いという信念を持っている。
いずれにせよ、今ここで冷徹に退場を命じた青年こそが、苗たちの監視対象だった。一見オドオドしているが心に芯を持っている、好青年であることに間違いはなかった。花耶が小声で、でもしっかりと宣言した。
「合格」
6
かつて、天狼神社に娘を嫁がせることが出来るのは複数の限られた家に限られていた。選ばれる条件は代々小柄で声が高く、体毛が薄いなどのさまざまな身体的条件を満たす遺伝子を持つ家系であること。それはまさに嬬恋家に男の神使が授けられたとなる場合を想定してのもの。女子として育てられても違和感が無いようにとの配慮であった。
嬬恋家に嫁を出せる家はさまざまな特権を得たとも伝えられている。明治維新以降それは公的には無くなったが実際は存在し続けた。その地位は固定化されたものではなく、男性的な身体的特徴が目立つようになった家はその地位を追われる。そのかわり新たに女子らしい子どもを産める家がその地位に迎え入れられることもあるし、また女性的特徴を持つ男性が嬬恋家に婿入りすることや、男女問わず女性的特徴を強く持つ者が家柄に関係なく養子に取られたこともある。
ともかく先に挙げた条件さえ満たせばそれ以外には候補者の資格要件は一切なく、外国人ですら排除されることはなかった。だから真人がフランス人の血を引くいねと結婚する前から、嬬恋家と複数の外国出身者の子孫が血縁を結んでいた。
勿論時代の流れとともにそういったしきたりは弱まり、自由恋愛自由結婚が容認されるようになった。だがその結果自分で配偶者を探した嬬恋真人が選んだのはやはりそれらの条件に結果として当てはまる女性、丸岡いね。その甲斐もあってか、小柄で可愛らしい外見を持った真耶がこの世に生を受けた。
そして、言うまでもなく役場で毅然とした態度を見せた男性こそ、真耶達があの夜希和子と会っていたのを目撃したその人。勿論それを妨げるものは今や何もない。繰り返すが、いまの嬬恋家は自由恋愛自由結婚を旨としている。希和子とこの男性が合意したものであれば、いくらでもお付き合いして構わない。誰も止められない。
だが。
子どもたちにとって、身近に知らない大人が来るということは心理にそれなりの影響をおよぼす。その大人は自分たちにとっていい大人か、悪い大人か。自分の家族同然となる男性は、自分達に取って好ましいものであるのが望ましい。
花耶がつぶやいた「合格」とは、そういうことだ。この人なら、一緒に天狼神社に住んでも、安心できる。日々が楽しくなる。そういう確信が持てた。
そうと決まれば話が早い彼女たち。早速次の作戦に出た。
「ベタすぎじゃないの?」
「王道って言ってほしいな、これくらい分かりやすいほうがいいんだよ」
黒革のジャンパースカート。黒のブーツは金具のついたゴツゴツしたもの。トゲのついた首輪と立てた髪。そんなものものしく、威圧感のある服装に身を包む彼女たちはそれと裏腹に、まだあどけない表情をしている。
「二人が金髪と茶髪でちょうど良かったよ。カラースプレーが節約できて」
そういった彼女はキラキラとした黒髪を輝かせている。ひときわ攻撃的なファッションをしながら、その瞳は鋭い反面そこはかとない愛嬌を見せる。まるで猫のような。
そう、彼女は猫っぽい名前と外見を持つ、御代田苗その人。そして同じく過激なパンクファッションに身を包んでいるのは、真耶・優香・ハンナ。いつもの仲良し四人組だ。苗はもともとロック系のファッションを好み、真耶もその影響を受けていてタータンチェックのミニスカートを持っていたりもするのだが、今日のファッションは特別なもので、自腹の服以外に多くを杏の会社にある貸し衣装部門から仮装用の服を借りてきている。
「これだけ濃くメイクすればわかんないっしょ」
そして全員の顔には、いつもはしないほど過激な化粧。ただ確かに一瞬は誰が誰か分からないが、くりっとした瞳やふわっとした肌は隠せず、幼さを見せてはいて心理的歯止めはあったと思われる。もっとも幸いなことに今は夜。しかも月齢が若いのであたりは暗く、細かい顔かたちはわかりにくく変装としては成功だという判断だ。そして空が暗い分、星が降るように天空を飾っている。
その星を見るため、公園に希和子はいた。当然、一人では、ない。
希和子の行動パターンは大体分かってきていた。夜に出かけると大抵この公園に来る。星を観るという名目だが、もともと希和子にその趣味は無い。その道の先達がいるわけで、
「あ、おいでなすった」
やってきたのは、そう。村役場の史料室を取り仕切るあのヤサ男。手には青い板状のプラスチック。いわゆる星座早見だ。彼が希和子に星の見方を教えていたのだ。
「ま、星だけが目的じゃ無いのはバレバレじゃんね」
苗のそのセリフが理解できる程度に、真耶も状況を把握していた。だが、この作戦にはまだ抵抗があった。
「いいのかなあ、こそこそと、こんなことやって。やっぱ二人の意志が大事なんじゃ…」
「甘いなあ。誰かが背中押してやんないとあの二人永遠にあのままだよ。これでもしカレシのほうが立ち向かってくれば脈アリってこと」
「そうだよ。希和子さんどう考えても、おくて、だもん」
要は、一向に進まない奥手同士の恋路を後押ししようと、彼女たちは考えているのだが。その方法はあまりにも古典的なものだった。
「ようよう姉ちゃん達、見せつけてくれるじゃんよ」
すっかりいいムードになっていた二人のもとに、黒ずくめの四人組が現れた。この先希和子の腕をひっつかみ、いいコトしようぜとでも言ってどこかに連れ去るという茶番劇が展開されるかとも思われたが、そんな使い古されたパターンが通用するわけもなく、あっさり幕が切れた。
「あなた達、何やってるの?」
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「あのねえ、余計なお世話って言葉があるでしょ?」
半ば呆れた口調で希和子が言った。公園はちょっとした高台にある。眼下に拡がる夜景を見ながら帰路につきつつのお説教。男性の方はただただ気まずそうに苦笑している。
「それは違うよ。ときにはけつだんしゅぎや、まきゃべりずむに身をゆだねなければいけないきょくめんもあるんだよ」
この作戦の実行部隊には入っていないが、せっかくだからとパンクファッションで決めてくっついてきていた花耶が言った。手段はどうでもいい、とにかく二人をくっつけるために何かしよう、そう考えた彼女たちは、不良を装い二人に絡んだ。だが改めて街灯の下に立った彼女たちは、不良の男に化けたつもりがまるでなっておらず、あどけない表情のままだった。
しかも、誰もが大きな作戦上のミスをしていた。それを希和子が指摘した。
「普通こういうのって、男の人と話し合ってやるものでしょ。私がこんなこと言うのもおかしいけど」
作戦の被害を受けた側が作戦の不備を言うのも確かにおかしな話だが、言わずにはいられなかった。普通この手の茶番劇は、最初に男と相談し、我々がここで因縁つけるからそしたら反撃してくれ、わざとやられるから、という具合に進めるもの。
「いや…この人絶対希和子さんを守るために立ち上がってくれると信じてた、から…」
とハンナが言い訳したが、明らかにしどろもどろ。功を焦った彼女たちはそもそもの手順をすっかり勘違いしていたようだ。そして、希和子が図星を突いた。
「要はやりたかったんでしょ?」
色々と作戦を考えているうちに、作戦と称してコスプレをやることのほうがいつの間にかメインになっていたのは否めない。だが、それでも。
「希和子さんに幸せになってほしいと思ったのはホントだよ」
両手をぐっと握って真耶が言う。この子に限ってその言葉に嘘はないし、それは他の子も変わらないはずだ。しかし、
「余計なおせっかいなんだってば。もう、恥ずかしいなあ」
赤らめた希和子の顔が、街灯に照らしだされていた。
が。
「嬬恋さん、やめましょう」
初めて男性が口を開いた。
「いえミヤザキさん、あまり甘やかさないでください、こういうことはちゃんと叱っておかないと」
「この子たちだって、良かれと思ってやったのだから。許してあげましょう」
珍しく怒った表情の希和子に対し、ミヤザキと呼ばれた男の顔は穏やかだった。それは慈愛に満ちた笑顔と言ってもいいと、少なくともこの作戦に乗り気であり、やんちゃをしてお説教を食らう機会が真耶よりちょっとだけ多い花耶にはそう映った。
「でも、あまり甘やかすと、この子たち…」
「僕達に、何の不利益も無いじゃないですか」
「いえ、わたしたちだけの問題じゃなです。私は、人影でコソコソやるってことは良くないということを…」
それは正論だし、希和子に限っては自分たちの問題だけで怒っているわけでないのは確かだった。身内とはいえ実の両親から預かっている子どもたちだ。悪い子に育ててしまっては申し訳ないしそうはするものかという自負もある。
「いい子たちじゃないですか。結果が良くなかったとしても、その動機が良ければ責めるわけにはいきませんよ。それに、わかっていたんじゃないですか? これは良くないことだった、って。それに少なくとも僕は、いやな思いをしなかった」
良かれと思ってやったことでも、結果が悪ければ褒められるものではなくなる。それは絶対的に正しい。だが良いことをしよう、そして良い結果を出そう、善意の評価に結果が付き物であることを知る、彼女たちはその意味で賢い子どもだ。
「あなたが育てた子どもたちと、そのお友達なのだから」
一同がホッとした顔をした。呆れた顔をして希和子が言った。
「しょうがないなあ」
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またしても、あっさりとした幕切れだった。希和子たちの仲はトントン拍子に進み、冬が明けるのを待って式が執り行われた。
会場はもちろん天狼神社。斎主は隠居した希和子の祖父、つまり真耶の曽祖父が務める。現在のような神前式のスタイルが確立したのは明治以降、西洋の影響を受けたものだとも言われている。だからそれよりも古い伝統と格式のある天狼神社でそれをやる必要もないというのが今ここで婚礼を行わない理由のひとつでもあった。もとより初詣も無い神社だ。そのように元来の宗教的なものに忠実なのは村人共通。信仰深く西洋の習慣をそのまま受け入れるこの村の人々は、バレンタインデーには男女関係なくプレゼントを贈り合い、もとよりホワイトデーなど存在しない。クリスマスは家族で祝いつつ恵まれない人々に思いを馳せ施しを授ける。ハロウィンは子供が妖怪の扮装をしてお菓子をねだる昔ながらのスタイルだし、まだ日本には定着しないイースターやセントパトリックデーも普通に行う。
「でも昔はみんなここで式を挙げたものだよ。私もねえ」
参列した年配の女性が、うっとりした表情で言った。伝統は伝統として、宗教機関で婚礼を行うという世間の流れに合わせて、ここ天狼神社で村人の多くが挙式した時期もあった。だが今それが行われないのもまたひとえに時代の流れだった。
「よその町の人と結婚することも増えたでしょう。村の外の人は嫌がるんだねえ、ここでやるのは」
木花村の人にとってかけがえのない神社でも、よその人にその価値がわからないのは無理は無い。今は挙式から披露宴はもちろんのこと、婚礼に関するもろもろを一つのパッケージでホテルや式場で済ませることが主流。宴を開ける会館を持った神社も普通にあるし、そのほうが予算はかさむが便利だし、世間的にも見てくれが良い。質素でもいい、天狼神社で式を挙げることに意味があるのだ、二人とその家が主役である挙式を派手に披露する必要など無いじゃないか。そういう村人の思いはよその人にはなかなか通じないものではある。大抵の村人は、見栄っ張りと言いたいのをこらえて派手な結婚式に臨む。
でもだからこそ、ここで希和子が式を挙げることには大きな意味がある。泣く泣くほかで式を挙げた村人たちの願いを、彼女が叶えてくれた。
新郎の苗字は、宮嵜と書いてミヤザキと読む。華奢な身体も紋付袴を着るとなかなかサマになる。希和子の花嫁衣装も質素ながら美しく見える。
二人の満足気な表情。あの笑顔は、神社にはもってこいだ。
「やっぱり、パワースポットなんじゃないの? ここ」
もちろん真耶の友人たちも参列していた。その中の一人である杏が、同級生で副会長をしていた岡部幹人ことミッキーに話しかける。理論派で、パワースポットとか何とかいうものが嫌いな幹人はいつもそういう風潮を愚痴っていた。
「んなわけねーだろ。本人たちの努力と周囲のサポート。それに尽きる」
杏もうなずいた。もとより幹人の意見に異論などないのだ。
「それにしても、早い準備だったね」
そのとなりでは、かつて天狼神社に居候していた真耶のいとこの真奈美が、希和子の姉であるところの母、麻里子に言っていた。
「そうね」
妹の幸せを見守る麻里子の表情は終始和やかだったが、この時だけは影がさしたように見えた。
「残された時間は、少ないからね」
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後日。
フェンシング部の女子が、はちきれんばかりの笑顔で真耶のクラスにやってきた。
「勝ったよ!」
神頼みをせず、自分の力で頑張ろうと決心した彼女は、自分の手で良い結果を得た。しかしその勇気をもらえた彼女は、神様の御利益に預かれたと言えるだろう。
さらに後日。
深夜の木花村が騒然となった。建設現場で、打ちたてのコンクリートに人が転落、そのまま脱出できなくなっているところを発見されたのだった。
事故の被害者は事情聴取によれば、トイレを探し相当切迫詰まっていたときに、工事現場の奥にある仮設トイレが目に入ったのだという。安全な回り道はあった。なのにそれをしなかったのは、他ならぬ近道をしようと思ったからで、立ち入り禁止のバリアの向こうにトイレの表示が見えたのでそれを破って侵入したのだ。人が誤って転落しないよう厳重なガードがしてあったのにそれを一部破壊してまで強行突破するあたりに、被害者の非常識ぶりが見て取れる。
工事現場の中では、打ち立てのコンクリートがプールを作っていた。転落した彼女たちはいったんは頭の先まで潜ったものの、何とか顔だけ浮上できた。しかし脱出しようともがけばもがくほど岸から遠ざかってしまい、同時にコンクリートが固まってきてどんどん身動きが取れなくなる。
結局彼女たちは数時間後、あわやコンクリート詰めになるかというところで、巡回に来た工事業者によって発見された。被害者は成人女性一名と女児二名。以前この村に来たことがあり、車で別の所に行ったついでに通過するだけのつもりだったが、近隣の村で、
「パワースポットとかよくわからないけど、天狼神社は本当にご利益あるのよ?」
と教えられたので、それならば半信半疑だけど、と向かう途中だった。
「うえ~ん、やっぱりパワースポットとかウソだったよ~」
コンクリートまみれで、全身ねずみ色になっている姉のほうが泣きながら言ったが、妹の方は少しだけ賢明だったようだ。しょんぼりした顔でこう言った。
「神社のことバカにしたから、バチがあたったのかなあ…」
もっとも、心優しい天狼神社の真神が天罰を与えるなんて話聞いたことがない。いや、ありえない。
むしろ、慈悲の心で守ってくれたのかもしれない。 だって、三人ともトイレに行きたかったわけだが、コンクリートの中でもがいているうちにその必要がなくなったからだ。
宗教上の理由・さんねんめ 第三話
随分永らく放置してしまいました…。私的なところで随分と色々なことがあり、いつの間にかプーになっているという衝撃の事実。でも暇があるから書ける、ってものでもないってことがよくわかりました。
希和子の独身ネタは何度かイジって来ているのですが、作者は「女性は家に入ってなんぼ」とかいう類の保守的な価値観が本来嫌いなはずなのに話の流れ上ウケを取るには彼女をネタにせざるを得ない点にジレンマを感じてもいました。だからここはなんとしても決着を付けておきたかった。
あと最後のオチ、ちょっとひどいかなと思いつつも宗教的伝統をないがしろにする人や、マナーの悪い親子が嫌いなんですねこれが。まあ天罰というのは本文中で否定しましたけど。あ、パワースポットうんちゃらって傾向も嫌いです。本当の信心とかいうのとズレてる気がするんですよね。
しかし恋バナは難しいですね。すごく苦手です。