短編小説
翼は一人、海に来ていた。海外出張の多い彼の両親は、この夏も翼を置いて
それぞれの国に旅立っていった。幼い頃は毎日来ていたからか飽きていたこの海も、
今となってはいい思い出になっている。あの頃に戻れたらいいのに。翼はいつもそう思うようになっていた。
その時だった。
「ぶぉぉぉぉぉぉ…」
とてつもなく大きな音を立て、黒い船が四隻、水平線の向こうから
翼の元にやってきた。船から金髪の男が堂々と降りてくる。れっきとしたペリーだった。
「アナタ、悩ンデルヨウナノデ、来テヤリマシタ。私ノ話、聞キナサイ」
変に命令口調ということが気になったが、翼はこくりと頷いた。
「私ハ、過去ノ人間デス。ダカラ、アナタニ物申スコトハ中々難シイ。
ケドナ、過去ニトラワレルナ。今ヲ生キロ。コレカラノアナタノ未来ハ、
アナタ自身ガ作ルノダカラ。」
……過去ニトラワレルナ。今ヲ生キロ、か。
今まで自分は、どれだけ過去という重い荷物を背負っていたのだろう。
いつの間にか消えているペリーらしき男を思い出しながら、翼は自分を振り返る。
翼は大きく息を吸って、その勢いで海に飛び込んだ。
そして、これからのことを考える。きらきらと明るい、海の中で。
短編小説