調査隊
私は調査隊の隊長であり、宇宙探査船ソレア号の艦長である。
私たち調査隊の任務は銀河を渡り歩き、様々な惑星を調査すること。そこでもし友好的な宇宙人と出会ったら、仲良くなって貿易協定を結んだりするのも任務のひとつである。
今回もまた我々は長い船旅の末、生き物が存在する見込みのある惑星へとたどり着いた。観測室から無線が入る。
「隊長、スペクトル分析の結果、あの星には酸素や水もあるようです」
「おお、そうか。では生物がいる可能性が高いというわけだな」
乗組員たちは歓喜の声を上げた。ようやくこの狭い船内から解放され、運良く友好的な宇宙人と出会えたら、しばらく休息させてもらえるかもしれないからだ。
「隊長、早速着陸しましょう」
部下の一人が言ったが私は首を横に振った。
「それはいかん。まだあの惑星が安全と決まったわけではない。前々回訪れたギダ星を思い出してみろ。着陸しようとした途端、住民にレーザー光線を発射され、あやうく船もろともやられてしまうところだった。そういう好戦的な宇宙人だっているんだ」
乗組員たちは顔を青くした。
「まずは、私と数名が小型シャトルであの惑星に着陸する。そこである程度調査し、安全だと分かったら船を着陸させよう」
私の意見に部下はみな賛成してくれた。
とういうわけで早速、私と四人の部下はソレア号に搭載されている小型シャトルに乗り込み出発の準備を整えた。その時、観測室から再び無線が入った。
「隊長、これから向かう惑星に関して新たな発見が」
「なにが分かったんだ?」
「どうやらこの星は放射能の数値が高いのです。危険ですので、ヘルメットは装着しておいて下さい」
「そうか、分かった。あやうく被爆してしまうところだったな。全員、ヘルメットをするんだ。放射能対策だ」
私は部下たちにそう言い、シャトルのエンジンを点火させた。
「発進」
私が命令すると、部下がシャトルを発進させた。ソレア号から発射したシャトルはあっという間に惑星へたどり着いた。
しかし、シャトルの窓から惑星の様子を眺め、我々はぎょっとした。大陸にはいくつもの高度な文明が建てたとみられる都市のようなものが見えたが、
どこも散々に破壊しつくされていたのである。
「一体、何があったんでしょう?」
部下の一人が尋ねた。
「分からん。だが、もしや我々が来る前に凶暴な宇宙人が襲来し、攻撃を受けたのかもしれん」
私は警戒した。
「とにかく、気をつけよう。ひょっとすると凶悪な宇宙人がまだ潜んでいるかもしれんからな。くれぐれも、着陸は慎重にするように」
「分かりました」
部下が返事をした。
我々は、都市から少し離れた丘の上に着陸することにした。
「都市までは歩こう。みな、念のため光線銃を装備しておくんだ。絶対、移動中は気を抜くな」
私は言った。
「はい」
部下たちは光線銃を手に私のあとに続いた。
惑星は破壊しつくされていたが、破壊される以前はかなり美しい星だったということが分かった。分析してみると植物もあったみたいだし、綺麗な水もあったようだった。移動中、その痕跡をいく度となく発見した。
「植物に綺麗な水や空気もあったようだ。これだけ条件の揃った惑星は奇跡に近い。なのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう?」
私は疑問がつのるばかりであった。
「隊長、果たして、この惑星に住民は残っているでしょうか?」
部下が質問した。
「都市に着けば分かることだ。だが残っていたとしても、この惑星はこんなに汚染されているのだから、きっとかなり弱っていることだろう。住人を見つけたら、保護してあげるんだ」
かくして、調査をしながら移動し、ようやく我々は都市へたどり着いたのだった。都市はひどい有様で、もはや生存者がいるとは到底考えられなかった。
「これはひどい」
「やはり悪い宇宙人の侵略だ。そうに違いない」
部下たちは次々と驚き嘆いた。
「とにかく、一通り調査しよう。この惑星が誰に破壊されたのか、突き止めるんだ。破壊した宇宙人が特定できれば、銀河警察が指名手配してくれるかもしれん」
私は部下を引き連れ街の中を探索した。しかし、建物は焼き尽くされ、どこも見るも無残な姿になっていた。いうまでもなく、生存者は一人もいなかった。
「隊長、これを」
そんな中、ひとりの部下が図書館だったと思われる建物から、かろうじて残っているこの惑星に関する記録を持ってきた。資料はこの惑星の言葉で書かれているため、当然、我々は読むことができない。
「おお、でかしたぞ。船に戻ったら、この資料に書かれている内容を翻訳してみよう」
我々は引き続き何時間も調査をしたが、何も発見できなかった上、どうしてこの惑星がめちゃめちゃに破壊されてしまったのか、原因すらも特定できなかった。唯一の収穫は部下がもってきたわずかな資料のみ。仕方がないので、我々はシャトルでソレア号へ戻り、その資料を翻訳してみることにした。
「急いでこれを翻訳してくれ。この星を侵略した宇宙人がわかるかもしれん」
船に戻るなり、私は情報室の部下に資料を渡した。
「いいですとも」
部下はそれを宇宙で使われている何万語という言葉が記憶されている超高性能翻訳機にかけた。数秒足らずで資料は我々の言語に訳された。私はそれに目を通した。
「なんと…」
私はこれまで、数えきれない惑星の歴史を目の当たりにしてきたが、こんな惑星もあるのかと驚いた。
「隊長、その資料にはなんと書いてあったのです?」
「一体どんな宇宙人がこの星を侵略したのですか?」
私はあいた口がふさがらなかった。
「この惑星の出来事が記録されているのだが……どうやらここの惑星の住民はお互いがお互いを滅ぼし合い、絶滅したようだ」
「えっ?」
部下たちは思わず声を上げた
後に知ったことなのだが、この惑星は「地球」と呼ばれる惑星で、人間という高度な文明を持った住民がいたらしい。しかし、同族での争いの絶えない種族だったらしく、とうとう核戦争が勃発し、消滅してしまったというのだ。戦争は銀河系でもしばしば起こることだが、それはあくまで惑星と惑星の間で起こることであり、同類で戦争をして、しかも核までをも使ってしまったとは、我々にとってはにわかに信じられなかった。
「隊長、なぜこの惑星の住民はお互いを傷付け合い、挙句の果てに滅んでしまったのでしょう?なぜ彼らは和解できず、核を使ってしまったのでしょう?」
「分からん…」
私は答えられなかった。
「これだけ美しい惑星に住んでおきながら、地球人はなぜ戦争などしてしまったのだ……。これだけ高度な文明を持っていたのなら、きっと私たち銀河連邦の仲間入りができたはずなのに……。地球人は、宇宙に目を向けることなく、お互いを睨み合ってしまったようだ。しかし、起きてしまったことはもう変えられない。このことは銀河連合に報告しよう。こんな悲しいことが他の惑星でも起こらないように、地球を銀河遺産に登録して保存するのだ。幹部たちには、私が交渉してみる」
あまりにショッキングな事実に、部下たちは同様を隠せないでいた。
「みんな、しっかりしろ。我々の調査はまだ終わっていない。気を取り直して、次の惑星へ行こう」
もちろん私も悲しかったが、きびきびと言った。
私たちはレノ星人。
レノ星を故郷に持ち、銀河連合の惑星調査隊に所属している。
私は調査隊「レノ星第一調査団」の隊長であり、宇宙探査船ソレア号の艦長である。
私たち調査隊の任務は銀河を渡り歩き、様々な惑星を調査すること。
現在、地球は銀河連合の保護のもと、負の銀河遺産に登録されている。
決して互いに戦争することのないよう、地球人のようにならないよう、忘れてはならない記憶として。
調査隊