遺言屋5

当主、行成。

「失礼します…ご当主様、今大丈夫でしょうか?」

「…入れ。」

障子を開ける。

「失礼します…如月君、澪ちゃん、入って。」

「失礼します!今日から使用人として働くことになりました、如月莉旺です。こっちは妹の澪です。」

「ああ…しっかりやれ。」

…ご当主様は新聞から顔を上げない。

気難しい人なのだろうか。

澪が、ぎゅっと手を握ってくる。


「ご当主……無理ですよ、すぐバレますって。」

「な…何がっ…!!」

「いや新聞上下逆さまですし。」

「ーーーッ!!!」

ご当主様の顔が、耳まで真っ赤に染まる。

ミケさんはすっごく楽しそうだった。

ミケさん…使用人、だよな。

上下関係どうなってるんだろう…。



「さて、見苦しいところをお見せして申し訳ない。
私が東郷家18代目当主、東郷行成だ。
…最初くらい威厳を…と思ったんだが、
無駄だったな……。」

「ご当主にはそういうの似合いませんよ、
自覚してくださいな。」

ミケさんが苦笑いする。

どうやらこの人…怖い人じゃ無いらしい。

澪も安心したようだ。


「よろしくお願いします、行成様。」

「よろしくおねがいします。」

いつものように澪が僕に続く。

すると突然、行成の顔が険しく固まった。

「……その子は…莉旺くん、君の妹…?」

「?…はい、澪です。どうかしましたか?」

「……いや、気にしないでくれ…」

まさか、な。と呟くのが聞こえた。


「それじゃあそろそろ行きましょうか。
如月君たちは先に外で待っててください!」

「はい、分かりました。行くよ、澪。」

「うん…。」

澪がなにかもの言いたげだったが、

僕はそれよりもミケさんの表情の方が気になった。

いつも通り笑ってた、

ように見えたけどあれはどう見ても…


まあ、部外者がそんなに立ち入るもんじゃない。

とりあえず外に出なきゃ…。


「で、ご当主?どうしたんです。」

「すまんなミケさん…助かったよ。
いやな、前に話しただろう?春瀬家の…」

「あぁ、あの幼馴染の……?」

「そう。その子によく似ている…
顔だけでなく、中身、醸し出す雰囲気まで。」

「…探ってみますか?」

「いや、いいよ。ごめんな、忘れてくれ。」

「でもその子はご当主様が
ずっと探してた子なんじゃ……!!」

「だとしても澪ちゃんがあの子なはずはない。
もう何十年も昔のことなんだ。
……いいんだよ。
いつまでも執着すべきではない。」

ご当主は笑う。でも、どこか悲しげだった。

「…わかり、ました。」

腑に落ちぬままに返事をする。

その気持ちは伝わってしまったようだった。


「…いつもすまないね。感謝してるよ。」

「いいえ。私は東郷家のモノなんですから、
感謝の言葉なんか要りません!」

そう言って満面の笑みを浮かべて見せた。


ドスドス…と大きな足音が響く。

「兄さん!入るぞ!!」

入ってきたのはご当主の弟、次男の冬夜様だった。

「ちゃんと考えてみた?あのこと…」

「まだそんなことを言っているのか…
もう決まっていると言ってるだろう。
後継は誓だ。それ以外考えられん。」

「だから…この大きな家をあのお嬢様が一人で
抱えられるとでも思っているのか?!
うちの征一郎を…」

「いつまでも煩いぞ、冬夜。
私が決めることだ。
お前は黙って見ていなさい。
それに後継なんてまだ先のことだー…」

「…」

不服そうな顔で、冬夜は自身の兄を睨む。

「…また来るよ。もう一度、考えてくれ。兄さん。」


パタン……


「まったく、嫌になるな。
願望剥き出しの弟なぞ…見たくないのに。」

「ご当主は優しいですねえ…」

「色々あったものの…誓の腕は一流だ。
私は何があろうとこの座を誓に譲りたい…」

「何があろうと、なんて不吉なこと言わないでくださいな…私が全部守って見せますから。」

「……頼もしいなあ、君は…」

ご当主は苦笑する。


「じゃ、そろそろ行きます。
あ、紫貴が帰ってきたんで今日はご馳走ですよ!
楽しみにしててください♪」

「分かった、楽しみにしておこう。」

そう会話を交わし、部屋を後にしたーーー

遺言屋5

読んでくださりありがとうございます。
遺言屋4の続きです。
次から少し動くかな…?

遺言屋5

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-23

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