鬱くしい人達
暗い毎日を過ごす若者達の物語。
思うがまま書きます。宜しくお願い致します。
田宮ソフィ 1
制服を身にまとった少女は夕日に照らされた水の流れを眺めながら河川敷を歩いていた。その流れには散った桜の花びらが散見される。
彼女の名前は田宮ソフィ。都内の公立高校に通っている。名前から分かる通り、生粋の日本人ではない。
父は日本人であり、有名企業でサラリーマンをしている。かなりの高給取りらしく、都内の高級住宅街に一軒家を構え、ソフィに経済的な苦労を覚えさせたことは一度もなかった。
母はアメリカ人であり、父が留学生だった頃に出会い、その後に結婚している。
彼女の両親は異文化に対しても理解の深い教養人であり、彼女が東洋の男性と結婚することに関しても反対することはなかった。
父の留学先であり、母の母校である大学は日本でも名が通るほどの名門で、どちらの家柄も立派、言うことなしのエリート夫婦であった。
そんな両親に育てられたソフィは、客観的に見ればそれはそれは恵まれた人間であった。
東洋と西洋の遺伝子が上手く混ざりあい、お人形のような愛らしいルックスに恵まれた彼女は誰も彼もに褒め称えられた。
優秀な遺伝子と教養ある両親のおかげで、見目だけではなく能力も秀でていた。
裕福で優秀な家庭の子供達が集まる幼稚園においてもその能力は際立っており、礼儀正しく、気品溢れるその素行も相俟って、先生からの評価も非常に高かった。
その幼稚園は大学までエスカレーター式に繋がっており、余程のことがなければ有名大学まで簡単に進学できるのだが、閉鎖的な共同体に収まっていては価値観が片寄ってしまうと考えた両親は、敢えてソフィを公立の小学校に通わせた。
ソフィは嫌な顔1つせず、その指示に従った。
両親は彼女を公立の小学校に通わせるにあたって、彼女がそこに少しでも溶け込めるようにと、高級な召し物は着けさせなかった。
それでも、そのルックス、能力の高さ、お行儀の良さはその存在を周りから際立たせてしまうのだけれど、その個性と集団主義的な文化との折り合いの付け方を学んで貰うことが両親の狙いであった。
それがソフィが自分の軸を持ちながら、世界を広げてゆくのに役立つだろうと両親は考えたからである。
ソフィはそんな両親の意志に応えるかのように問題なく公立の小学校、中学校、高校生活をこなして見せた。
彼女は周囲から秀でた存在でありながら、決してそのことを鼻にかけなかった。周りの人間と価値観や感覚が合わない部分は少なからずあったのだが、自分の価値観を主張せず、周りの人間の価値観を優先した。
思春期を迎えると、色めいてきた男子の話題の中でソフィの話題が上がることは珍しくなかったのだが、実際にソフィに言い寄る男子は多くなかった。
完璧過ぎる彼女は彼らの自尊心を満たすよりも脅かしてしまうことの方が多かったからだ。
彼女に言い寄る男子と言えば、やはり彼女のようにスペックが秀で、自分に自信のある者達である。
彼女に言い寄れば、その気持ちに応えてくれるのだが、その交際が長続きすることはなかった。
彼女に恋をした男子はいたが、彼女と恋をした男子はいなかった。
彼女は誰にも、誰とも恋をしなかった。
そんな彼女ではあるが、表面的な問題は何一つ無いままに高校三年生の春を迎えていた。
鬱くしい人達