その日も、僕はいつものように帰り道をたどり家に着いた。そうして玄関を開け、家に入ると、牛乳を飲んだ。牛乳を飲むのが僕は好きだった。家に帰ってまず、それを飲むのが僕の日課みたいなものだった。そうして家(うち)にはたいてい牛乳のパックが二本も三本もあった。
「おかえり」と僕に向かって妹の文香が言った。僕は十八才で妹の文香は十六才だった。僕達はまあまあ仲のいい兄弟と言って良かった。小さいころにはよく一緒に遊んだ。僕と文香とそうしてもう亡くなっている僕達の父、その三人でよく旅行に行ったり、サッカーをして遊んだものだ。けれど父はもう居なくて、母と僕と文香だけが居る。そんな日々がもう十年近く続いているのだった。


 「ただいま」と僕は文香に返事を返した。すると、
「兄貴ってさ、デートしたことある?」
「はい?」僕は虚を突かれて思わずそんな返答しかできなかった。文香はわりと美人の方だ。だから今まで声を掛けてくる男も居たはずだ。そう思い、
「僕は無いけど、お前はあるだろ?」
「いや、そうなんだけどさ、今度のデートは絶対にしくじれないの。憧れてた先輩に私から声を掛けたんだから。だから男の人がどうすれば喜んでくれるのか知りたいんだ」そう文香は返した。そう言われて僕は少し考えた。
「プレゼントとかは?」
「うん。でもどういうものをプレゼントすればいいかな?」
「そうか。その先輩の趣味とか特徴とかあるのか?」
「趣味はゲームって聞いたな。あとバスケ部に入っている。そうだ」と言い文香は言葉を切った。
「今度、一緒に買い物に行ってよ。先輩が喜びそうなものを一緒に選んでよ」
「そうかあ、そんなにその先輩のことが好きなのか」そう言って僕は少し複雑な気持ちになった。文香は勿論、僕の妹だ。でも僕も文香のことは可愛がっているし、男と付き合うと聞いたらいい顔はしたくない。でも反面、可愛がっているから幸せになってほしい。そんな気持ちで僕は少し悩んだ。けれど
「わかった。今度の日曜にでも一緒に買い物に行こう」そう思わず言っていた。



 そうしてその日曜がやって来た。僕と文香は例の先輩へのプレゼントを買いに新宿にやって来た。
「何にしようかなあ?」
「まず百貨店にでも行ってみるか」
そう言って僕達はとある百貨店に足を向けた。
「ハンカチなんてどうだ?誰でも使えるし、余っても困らないだろ」
「うーん。そうだね。でももうちょっと他も見てから」女の買い物は長い。そう分かっていても僕は付き合うのに骨が折れた。
 結局、文香はその先輩に服をプレゼントすることに決まった。新宿の某店で服を選び買うと、僕達はすぐに家に帰ることになった。ところがその帰り道のことだ。電車に乗ろうとした文香はある一点を見つめて動かなくなった。「先輩」と文香は言った。僕もそっちの方を見た。すると割と大柄でハンサムな男が可愛い女の子を連れて駅から出てくるところだった。その例の先輩とやららしい。僕は思わずため息を付いた。そうしてそのまま僕達は帰った。文香はひどくショックを受けたみたいだった。
「元気だせよ。他にもいい男は居るさ」そう僕は言い、文香を励ました。けれど文香はあきらめなかった。すぐにその先輩に連絡を取った。結果は無残だった。
「君とは最初から遊びのつもりだったんだ。俺には彼女が居る」そんな内容の話をされたらしい。文香はショックを受け、次の日学校を休んだ。


 さてこの話は大体終わりだけど、最後に後日談がある。文香は学校に復帰した次の日、文香はまたかっこいい男を見つけ告白した。そうして今度は上手くいった。例の服は文香の部屋に置きっぱなしになっている。そうして文香は新しい男と新しい付き合いを始めたのだった。これでこの話はおしまいだ。次があればいいと、僕は思っている。でも残念ながら僕の出番はこれまでのようだ。君たちも新しい生活や冒険をしてみるといい。失敗することもあるだろう。傷つくこともあるだろう。でも人生チャレンジが大事だ。そんなわけでこの辺で。

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更新日
登録日
2015-04-23

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