並行世界
始まり
蝉の鳴き声があちこちから響き渡る。
8月の太陽に照りつけられたコンクリートの道。
どこまでも続くかのようにただ淡々と伸びる道。
いや、実際にどこまでも続いているのだろう。
この道を辿れば例え遠く離れた遠方の地であろうとも右へ左へと曲がって行けばどれだけ時間が掛かろうともいつかどこかに辿り着くのだ。
しかしこんなにも容赦ないお天道様の下を練り歩くほど俺はマゾヒストではない。
しかしならばなぜ家で腐るような生活を送っていないのか。
自分でも思い出せそうにない。
いや、頭の片隅にちゃんとあるにはある。ただ引っ張り出そうとする気すら起きないほどにやたらと夏という季節は暑いのだ。
しかし自分にでも語らねばこの状況に納得していられるわけがない。
まず何故外に出ているか。
あれは夏休みの始まりの日。
学生ならば誰しもが一度は経験するであろう、謎のやる気だ。
高校二年生の夏休み初日。
あの頃の俺は何を思ったのか夏休みの課題を計画的に終わらせるなどと愚かながらに考え、学習計画表と称したプリントを自作したのだ。
夏休み開始から15日間で全科目が終了する予定を立てた。
1日目に指定した量をこなそう、と思い立ち早速着手しようとする。
だがしかし『今日は計画表を作って疲れてしまった』と自分に言い訳をするようにベッドにダイブしてすぐ寝る—訳も無く、端末のRPGのダンジョン攻略に勤しんだ。
そして2日目。
染み付いた体の習慣とはなんとも不思議なもので、午前6時を指した時計を目に止めると、早くおき過ぎてしまったかなどと思い二度寝しようとする。
が、宿題をせねばという使命感に駆られ朝の6時から夏休みの課題に取り組んだ。
しかし開始30分程度で今日という日は始まったばかりなのだとつい考えてしまうと、めっきりやる気は失せてしまい、前日にこなしきれなかった数のクエストを立て続けにクリアした。
3日目、4日目、5日目、6日目…
とうとうやる気を完全消失し、また明日があると言った終わりない休みの大きな誘惑に負けてしまったのだった。
そして久しぶりに日にちという概念を思い出し、確認する。
しかし、いや当然とも言えるのだろうが無駄に時間を浪費した自分を殴りたくなる。
端末に表示された今日は、8月23日。
つまり夏休みの約一週間前ということだ。
「…これは…はぁ…当然かぁ…」
存分に余りある肺の中の酸素をため息として交えながら自己嫌悪に陥る。
ここで長らく使われていない頭をフル稼働させる。
31日までは今日を含めて8日間…
つまり1日にこれだけやっていけば…
と、1日分の量に分けて行く。
…
……
「って1日分多っ!!終わるわけねーじゃん!
うおおおおお俺の馬鹿野郎!!」
焦燥感と、自己嫌悪の嵐に取り込まれ、精神陥落寸前まで陥った。
そして、愚かな俺はここでまたミスをする。
「!!」
天才的な思考により演算された行動を実行する。
しかし、あとあとになれば愚者の幼稚な行動だと今になって痛感する。
ただこの時の俺はそんなことも考えず、変態的な四つん這いから進化して行く人間の姿を早送りにするように2本足で部屋を出ると、体にブレーキをかけその勢いを活かしたまま軸だけを移動し、カーブしながら隣の部屋に駆け込みまたもその勢いを活かしたまま、
土下座をしながら入り込む
「頼む!俺の宿題を手伝ってくれ!教えるんじゃなくて、やってくれ!」
そういって土下座したまま相手の方を見据えると、驚きの表情から
みるみるゴミを見るような目に変わっていく。
「私だってちゃんと図書館とか行って勉強したんだよ!?
手伝うわけないじゃん!ずぅぅぅっとゲームしてたあんたを私が手伝う義理なんかないじゃん!!土下座なんてしてないで早く図書館なり頭のいい友達に教えてもらうなりしてなんとかしてよ!さっさと出てってよ!」
反抗期の妹の部屋に突撃するなんてバカすぎる。とこの時初めて気づいたのだった。
こんな喧騒が約10分前。
よって、こんなクソ暑い日に歩いているのだった。
待ってろよ!図書館!のクーラー!と情けなく心の中で叫び、付け加えると
深く考えずに走り出す。
この先の車道を横切って曲がる道を通るのだが、滅多にこの車道は車が走らない。
故の油断。
次の瞬間、目に止まった錆びてもはや誰の目にもつかないような看板の
『飛び出し注意!!』の看板がふと目に入ると、次の瞬間。
全身を満遍なく打ち付ける激しい衝撃。
勢い良くバウンドするボールのように体を何度も地面に擦り付けるように打ち付けた。
最後に車からおりてくる人の姿と、自分の横たわっている血の海を最後に、意識は消え去った。
転移
暗闇—
ただどこまでも広がる暗闇。
水の中にいるのだろうか、はたまた火炙りの最中にあるのだろうか。
優しい水のような感触。肌を焼け焦がすような猛烈な熱さ。
いや、もしかしたらもう感覚なんで物はないのかもしれない。
「あ…れ、これって死んだってことなのかな…?」
車に轢かれたに事は確かな事実。
しかし痛みはしない。体に傷があるのかどうか。
自分の手で触って見ても分からない。
目を開けばただ暗いだけ。
「…はぁ、俺なにやってんだろ」
軽い後悔と自責の念を込め、呟く。
その時…
カツーンと人の歩く音が聞こえてくる。
徐々にその足音は近づいてくる。
ゆっくりと、しっかりとした一定のリズムを刻んで。
そして急に頬を撫でるような感触に思わずびくっと身震いをしてしまう。
「驚いたなぁ、ただの人間がこんな場所に来れるなんて」
蔑むようにそういった謎の足音の主。
「目を開けよ、人間」
その声は確かに軽蔑の意思を汲み取れるが、その声自体は明らかに女性のものだ。
——そんなことしたって意味ないのに、目を開いたってどうせこの世界は暗い。何も見えないじゃないか
ふと心の中で思念する。
「そんなことはどうでもいいから、早く目を開け。」
苛立ちを隠す様子もなく、明らかなる敵意を持って命令してくる。
「…っ」
仕方なく目を開く相変わらずの暗闇。静寂。
パチンッと指を鳴らす音。
次の瞬間。無限の暗闇の中に一筋の光が差し込んだかと思いきや、その光は明るさを増して行く。やがて世界自体が変遷したかのように視界がクリアになる。
目の前にいたのは思っていたよりも小さい中学生くらいの体。
頭の後ろで一本に束ねられた長髪は、地面に突き刺さるのではという錯覚を起こすほどに、まっすぐに束ねられた場所から腰あたりまで伸びていた。
先ほどの暗闇を思い起こさせるような黒髪とは対照的に服装は煌びやかな装飾類で輝いており、眩しかった。
「これが目を開けるということだ。人間」
不敵に微笑むその顔はただ胸中に芽吹いた不安を一掃と成長させて行く。
「あ、あの、ここはどこですか?」
縋るように問い詰める。
するとジャラという鉄の鎖の音が耳に入ってくる。
両手を見ると、今初めて気づいたが硬い金属の輪っかに手を通しており、どこについているのかもわからないほど高い所から、鉄の鎖がその輪っかを通して自分を吊るし上げていた。
「お前は死んだのだよ」
冷酷極まりない宣言に鎖によって縛られているということすら忘れる程に驚いた。
が特にパニックを起こすこともなく、ああ、やっぱりか。と謎の安堵すら覚えた。
「しかし、ここに来たからにはもう一度立ち上がってもらうのだがな。」
そういってその少女はまたも指を鳴らす。
すると錠が外れ俺の手を離し、上へと戻っていく。
膝立ちのままその少女を見上げると
「君のもう一つの可能性、見せてあげるよ!」
そういって今までとは打って変わって、人懐っこい笑みを浮かべる。
そしてまた指を鳴らす。
明るいこの世界がさらに眩く書き換わり…
俺はまた、あの道を歩んでいた。
'異'点回帰
何かを確かめるように自分の手を握っては開く。
自分の肩にかけていたバッグの中身を確認する。
あの時のままのバッグの中身。しかしあの時ほどの重量を感じない。なんとも言えないのだが確かに軽い。
そのまま、また坂を下る。
今度は夏の暑さも感じないほどにドロっとした嫌な冷気に体をまとわりつかれた様な感触。
そして轢かれた場所の前に来た。
今度は歩いていた為に、目の前を黒い車が通り過ぎた。
車に轢かれたのは夏が見せた幻だったのだろうか。
いや、それにしてはあの痛みは生々しい。
「俺、どうしたんだろ」
無闇に歩き回るのは賢いとは言えないだろう。
一旦家に引き返そう、そう思い立ち後ろを向く。
今まで下ってきた坂が自分の前に長々と連なる。
駆け上がろうかと思ったがあんな事があった後だ。
走ると言う行為が怖くないと言ったら嘘だ。
トボトボと道を歩いて行く。
暫くして家に着く。
「た、ただいま…」
追い出されたのにこんな短時間で帰ったらあいつになんて言われるだろうか。
それは罵詈雑言、嫌味、愚痴の嵐だろう。
しかし静まり返る家の中。
「あ、あれ?誰もいないのかー?」
家の中全体に語りかける。
すると、リビングから何か話し声が聞こえてくる。
誰かいるのかと思いリビングへの扉を開く。
すると、そこにいたのは賑やかなバラエティ番組を放送しているテレビであった。
「全く…誰だ?テレビ付けっぱなしなやつは…」
そういってテレビの電源を切ろうとする。
しかし、テレビの電源ボタンに触れようとした瞬間。
プツッと画面が真っ暗になる。
壊れたのかと思い、電源ボタンを連打する。
しかし変わらない真っ暗なテレビ画面。
暫くその場で立ち尽くしていると、『SOUND ONLY』
の文字が浮かび上がり、何処かで聞いた女の子の声が響く。
「アーアーテステス。聞こえてるかね?人間諸君」
はっと思い出す。
暗闇で聞いた少女の声だった。
「今なんらかの聴覚媒体を介して君たちに話しかけているよ。」
な、なんだこれは…
今置かれている状況があまりにも非常識すぎて困惑する。
しかし、そんな戸惑いも恐怖も無視するように、ただその声は流れ続けた。
「人間諸君、君たちは死にました。」
!!
唐突な宣言に嫌な汗がどっと流れ出た。
思わず崩れ落ちる。
そんな反応もまた無視され、話は進む。
しかし今度は声の主が変わる。
感情のこもってない、涼しさすら感じうる声が話を引き継ぐ。
「しかし、君たちは幸運です。あなた方には生き返りのチャンスを」
そしてまた声の主が切り替わる。
夏の太陽の様な明るさを感じさせる声。
「ルールは簡単!今から説明するね!」
わけのわからないまま話が進む。
「1つ!ルールは…」
嫌がらせのように溜める。
突如聴覚を痺れさせるほどの大声が響き渡る。
「あっりませ〜ん!!!!!」
大気を振動させるその声に思わず耳を塞ぐ。
ただ慌ただしいモーションを起こしながらも冷静に頭の中で情報が処理されて行く。
結果として出た結論が口から零れる。
「い、今は…何のルールを説明していたんだ…?」
ナクシタ記憶
先ほどの中継が終了後程なくして異変に気づく。
自身を含め、今現在軽量化されているのだ。
ものも軽く投げれば重力の力は受けながらもある程度は抗い続け、比較的ゆっくりと落ちてくる。
とりあえず今は情報が必要だと思い、またあの日射の中を歩く。
程なくして、無意識のうちに学校についていた。
もしかしたら誰かいるかもしれない、などと考え校舎に入って行く。
下駄箱に自分の靴を入れると上靴が無いので、仕方なく来賓用のスリッパを使わせてもらった。
自分の教室に入ってみる。
しんと静まり返った教室。意味もなく机の淵をなぞって歩く。
「本当に誰もいない…」
そう言って近くの椅子に腰掛ける。
全くどうしたものか、と天井を仰いでいると教室の前の出入り口の扉が開く音。
誰か来たと思い勢い良く立ち上がりそちらの方を見ると、立っていたのだ。あの少女が。
「元気にやっているかい?人間。」
まるで夏休み明けにあった友人の様な気軽さで聞いてくる。
「あ、あの…あなたは何なんですか?」
一番気になっていたことを聞いてみる。
「私?私かい?人に名前を訊く時は自分から名乗るべきじゃないかい?
無論覚えているならだけどね。」
あざ笑うかの様に口に手を当て不敵に微笑む。
「…俺の名前は」
不機嫌に自分の名前を告げようとする。
「お、俺の…名前…は…」
思い出せない。今までの一挙手一投足、自身の家、家族の名前を覚えているのに自分の名前のみを忘れるなんて事があるはずない。
「ちょ、ちょっと待て」
慌てて掲示してある座席表に目を通し、自分の名を見ようとする。
しかし、まるでモザイクのように自分の視界にボヤがかかり、自分の名前を知ることは叶わなかった。
「知らなくっていいんだよ?」
不思議なことを口に出す謎の少女。
「どういうことだ?俺はこれからどうしたらいいんだよ?」
「教えたはずだよ?人間。君は死んだんだよ」
けろっと当然のように告げる少女に不信感が募って行く。
「君には自分が自分たり得たモノを探してほしいんだよ。」
また訳の分からない事を言い出す。
「ふふ、では肩書きだけ教えるよ。私は神様なんだ。」
「か、みさ…ま?」
唐突なカミングアウト。
「そう、神様。ただ名前は教えないと言ったはずだ。」
不敵な笑みを湛えながら、こちらを見据える双眸。
「ど、どういうことだよ?自分が自分たり得たモノってなんだよ?」
いきなり変なことばかり言われてしまってはこちらとしては困る。
「単純さ、人間。自分の名前を知れば全部悪い夢さ。こんな世界からも出られるし、また何時ものように生活できるさ。」
「つまり自分の名前を思い出せたら生き返れる…てか?」
敵意を全面に押し出し、訊き返す。
「まあつまりそういうことだよね。
そして名前を知る方法は」
軽くセリフを区切り、また嘲笑するかのように。
「周りの人間から”ポイント”を奪え。それだけで君は生き返れるさ」
突発
「ポ…イント?」
言い渡された方法の一番重要なところを復唱する。
「ポイントって、えっと?待ってくれ、奪う?」
ポイントを得るではなく奪うと言った。
つまりそれは相手から自分へと無理矢理なにかを得るということだ。
「ん、奪うんだ。」
当たり前のように告げる自称神様に、思わず何も言えなくなってしまう。
言葉を返さなかったからか首を傾げ、説明を補足してやろうとコホン、と喉を鳴らす。
「今君たちには10ポイントずつ振り分けられているはずなんだが、ああ。
そうだ、君にはまだユーザー登録をしてなかったか。」
ゲームの様な説明、ユーザー登録という言葉。
思考を張り巡らせ一つだけ質問する。
「まっ、待ってくれ!今俺はどこにいるんだ!電脳世界ってとこなのか!?」
とりあえず今この場所の設定だけでも知りたい。
「まぁ、そんなところだな。君たちの魂を電子的に改竄して再構築した。
人智を超えたことだと思うだろう。事実人の手によって起こったことではないさ。」
そう口にする。
あたかも本当に自分は人間ではないように。
「お前は…本当に神様って奴なのか?」
何度も言い聞かされてきたことをもう一度問う。
「ああ。何度も言っただろ?」
そう言ってくる視線は軽蔑の意を持っていた。
「特定の人間をこうしてこの世界に存在させて、生き返りを賭け戦ってもらう。
この世界で巻き起こる人の感情は我々の力の源となる。
そしてさらに生き返れば、その家族は神様という奇跡の存在を少なからず信仰する。
ただ、我々としてもやたらめったら生き返らせると”天界” ”魔界” ”人間界” よく聞くだろ?この三つ巴の関係は即座に崩壊してしまう。
」
まるで一つのゲームのストーリーの様に長々と語られた。
一つ息をつき、また説明を続けた。
「よって、その中から数名の人間を適当に選び、生き返らせるわけだ。
まあ、中には確実に死んでしまってから生き返ってしまう。
そんな人間は神格化されてしまう。有名どころのキリストなんてな。
ただ大体は死んで間も無くここに来る。選ばれた霊体の身体は瀕死の状態で現実に居続ける。まあつまり、君は今本当に死んでいるわけではない。」
ここで一つ希望がもてた。思わずそのまま思ったことを口に出す。
「て、てことは死んでない!だったら今から生き返れるんじゃないか!てか死んでないじゃん!だったら戦わ—」
戦わずに生き返れるんじゃ、という言葉を言い切る前に話を再開される。
「馬鹿いうな、運命を無理やり捻じ曲げて君は今ここにいるんだ。
故にこの世界から脱落したら」
非現実的な現実を突きつけられる。
「お前は”生き返れない”んだぞ。」
解釈
自分が死ぬかもしれない、いやもう死んでいると自覚した途端に頭の中の空白がどんどんと自分の記憶や意識を覆っていくような気がした。
「じゃ、じゃあどうやってポイント奪えばいいんだよ…?」
震える声で質問をする。
ただ薄々と感づいていた。大体こういった設定のゲームは決まって…
「他の連中を殺せばいいのさ。」
そう神様が告げる。いや、わかっていたのだ。
それ以外にこんな世界で起こせることなんてない。
「だ…よな」
崩れ落ちそうになる膝を必死に固定する。
「で、でもよ、何したらいいんだかわかんねぇよ。人なんか殺したことねぇし。」
声の震えは止まらない。目の前に神様だといえど少女がいる前で情けないとは思う。
しかし、今こんな状況で人を殺せなんて急すぎる。
そんなこと出来るわけがない。
負の感情に一気に包まれ、あの時あのままそっと死んじまったほうが楽だっただろうと
いう思いを募らせていく。
「何をすればいいか、か。たかだか人間が血みどろになりながら殺し合いをさせるような演目を見たいとは思わないさ。」
呆れるような表情を浮かべる神様。
「安心しろ。」
どこか優しさを含んだ声とそのまま抱きつきたくなるような暖かい笑みをこちらに向けると
「誰かを殺すなんて言っても単にHPゲージが無くなるだけだ。
痛みも生まない。」
HPゲージ…
やはりこの世界はゲームのようなものなのだろうか。
「やっぱりこの世界は電子ゲームみたいだな。」
つい口からボソッと声が出てしまう。
「ああ、自分の体がプレイしていくキャラクターってだけさ。」
なぜかほっとしてしまう。
分かっているのだ。
それはつまり誰かの生き残りのチャンスを奪い、結果としては殺すことと何も変わらないのだ。
「ただ…」
思考が完全に聴覚を遮っていたのか。
「えっと、今なんて言った?」
聞き逃した言葉を訊く。
「いや、聞こえなかったならそれでいい。」
そういって俯く神様はどこか悲しげな表情を顔に貼り付けていた。
並行世界