授業休み(不定期更新型連載
「話しかけられたのに、なぜわたしはいつも応えることができないのだろう……」
先程の授業でのことを思い出し、自らのコミュニケィション能力の乏しさを恨んでいると、わたしの対角線上にいる人が、こちらを凝視しているような気がしました。
こちらばかりを穴が空くほど見ている気がどうしてもしてしまい、「気味が悪いな」と思いながら、視線をより下に向けるようにしました。すると、先ほどはなかった人の気配が、わたくしの前から感じられたのです。
そう、それは先ほどからこちらを見ていた人、その人の気配だったのです。
なす術がなくなったわたしは、仕方なく「何か入り用ですか?先ほどからわたしのことを見つめているようですが」と、ロシア式とも思しき倒置法を駆使し、眼前にいる人に尋ねたのです。
然し人は一向に応えることをしません。なんだかとても不気味に思い前を見ると、そこにいたのは、「人」そのものでした。
性別はおろか、老いているのか子供であるのかもわからない。しかしそれは、確かに人そのものであったのです。
わたしはあまりのことに内心はとてもびっくりし、声を上げそうになりました。
しかし、ここで悲鳴を上げてしまっては、おそらくわたしの周りの人人は、この先の90分間はわたしに「変人」というレッテルを貼り、わたしのことを避けてしまうのが目に見えて明らかです。
できるだけそれは避けたい。
わたしは自らの体制のために、悲鳴を生贄とし、そのかわりとして、質問を彼にぶつけることとしました。
「あなたは何者ですか。こんなにも見ただけで情報が錯乱するような人をわたしは知りません」
わたしがそう言うと、人は、その重い口(?)をゆっくりと開き、わたしの問いに答えました。
「僕/わたし、ですか。 僕/わたしは何者でもありません。きみ/あなた の見ているそれですよ」
それは男にも女にも取れる、また老いているようにも青春の風を受けている若者のようにも聞こえる、タテにもヨコにも「中性的」な声でした。そしてその声が、またわたしの頭を混乱させたのです。
しかしここで恐れたり面倒になってやめてしまったら、先程固く飲んだ悲鳴との釣り合いが取れません。わたしは、自ら出した犠牲の為に、会話を続けることにしました。
「それで、その平均的なあなたがわたしに何の用ですか。あと五分で授業が始まり、先生がいらっしゃるのですが」
あとから思うと、混乱の中平静と努力をしてしまったからか、若干喧嘩腰であるかのような話し方をしていたように思います。
ですが彼/彼女はそんなことを気にも留めていないように、いやむしろ慣れているようなそぶりで
「そんな怖い顔をしないでくださいよ。とって食う/食べるわけではないですから」
と優しく、宥めるようにわたしに言い聞かせるようにしました。
「ただ、あなたの眼に 僕/わたしはどう映っているのかを聞きたいだけなのです」
と彼/彼女は続けました。
どう見えるか?何故それをわたしにそんなことを?
という顔をしていますと、彼/彼女はそんな疑問を汲み取ったのか、
「誰でも良かったんです。ただ、あなたが僕/わたしを一番最初に見て、どう思ったかを率直に、素直に教えて欲しいんです」
と、言いました。
授業休み(不定期更新型連載