大発生!

 小柳が住む街でも、カラス対策として生ゴミの夜間回収が実施されることとなった。生ゴミを出す時間が変わったといっても、その仕事はもちろん亭主たる小柳の役目である。
 その日もギュウギュウに詰め込んで一袋に収め、角の電柱の下に持って行った。ゴミ袋を置いて引き返そうとした時、背後でビリビリとゴミ袋が破れる音が聞こえた。
 驚いて小柳が振り返ると、街灯に照らされてやや黄色っぽくなった、白と黒のツートンカラーの動物が見えた。
(何だろう。ゴミをあさっているようだが、野良ネコにしてはやけにでかいな。最近、めったに見ないが、野良イヌだろうか)
 その時、人の気配に気付いたらしく、そいつがこちらを見た。白い丸顔で、目の周りだけ黒い。
「パ、パン、パンダ、パンダだあーっ」
 小柳の叫び声に驚いたパンダは、一目散に逃げて行った。
 小柳は一瞬呆然としていたが、すぐに家にとって返した。
 小柳の声が聞こえたのか、妻が玄関口に立って待っていた。
「あなた、どうしたの?」
「で、で、出た」
「え、何が」
「パ、パ、パパ」
「どこのパパさんなの」
「パン、パン」
「あら、パン屋さんのパパさん?」
「違う!パンダ」
「違うパン屋さん?」
「ああ、もう、いいっ!警察に電話する!」
 驚いている妻を尻目に、小柳は110番した。
「はい、こちら中央署。どうしました」
「パ、パパ、パン」
「ああ、お宅もパンダを見たんですか」
「えっ、お宅もって、どういうことだ」
「今日はもう何十件も通報が入っています。街中にパンダがあふれているんです」

 翌日のニュース番組によると、ある動物ブローカーが秘かにパンダのクローンを密造していたが、交通事故で入院してしまい、その間に飼育場から何十匹も逃げ出したものらしい。
 パンダは絶滅危惧種であるため手荒な方法がとれず、地道に一匹ずつ捕獲するしかない。だが、何しろ図体が大きいので、保健所もおいそれとは捕まえられなかった。そのため、ますます野良パンダが横行し、大問題になった。
 パンダの主食はもちろん竹や笹だが、本来雑食性だから、腹が減れば何でも食べる。あちこちで農作物に深刻な被害が続出し、やがて、市街地の食料品店や、一般家庭にも出没するようになった。
 デマも飛び交い、パンダが大挙して量販店で家電を買い漁っていたとか、観光地で傍若無人にふるまっていたとか、様々なウワサが流れた。
 対応に苦慮した政府は、こうなったら原産地に返すしかないと考え、隣の大国に相談した。
 だが、即座にこう言って断られた。
「海賊版の量産品は、もうこれ以上いらない」
(おわり)

大発生!

大発生!

小柳が住む街でも、カラス対策として生ゴミの夜間回収が実施されることとなった。生ゴミを出す時間が変わったといっても、その仕事はもちろん亭主たる小柳の役目である。その日もギュウギュウに詰め込んで一袋に収め、角の電柱の下に持って行った…

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-22

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