恋、しませんか

最近、無性に恋人が欲しいと思うようになった。
何故だか、誰かに隣にいて欲しい。
春の生温かい空気は私を余計寒く感じさせる。

私のいつも使っている電車のホームでは20時になると高校生の一組のカップルがホームの横並びの椅子に仲良く座り、時々彼女が彼氏にプリンを“あーん”としている。
彼女は帰る時間に近くなると彼氏を立たせ彼女は手を大きく広げた。
彼氏の方は恥ずかしいのだろうおろおろして一歩前に進み一歩下がる。
彼女はそれでも彼氏が抱きしめてくれるのを手をの広げて待っている。
観念したのか、勇気を振り絞って彼氏は彼女を小さく抱きしめた。
彼女は安心した笑みで彼氏の首もとに顔をうずめた。
恋人達の抱擁は長く続いた。

 私もあのカップルを見慣れてきた頃だった。
いつものように抱擁を終え彼氏が電車に乗る時だった、彼女は彼氏の腕を引き彼女の方を振り返った彼氏の唇にキスをした。
それは一瞬の事だった。
彼氏が“あっ”と電車に引き戻された時にプシューと音をたて電車のドアが閉まった。
閉まったドア越しに、はにかみながらホームにいる彼女に手をふっている。
彼女が見えなくなってから彼氏はシートに座り、顔を赤く染め、さっきのキスの感触を確かめるように唇に手をあてていた。

私は思わず顔が熱くなり、何とも言えない感情が全身を駆けめぐる。
顔を隠すように伏せた。
しかし、すぐに生温かい風が私を吹き貫いた。

恋、しませんか

恋、しませんか

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-21

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