遺言屋4
帰還
「あ、お嬢様!いいところに…!
こちら、新しくここで働く如月君です!」
「…………っ」
「お兄ちゃん?」
言葉が、出ない。
これほどまでに美しい人を、
僕は見たことがな…
……?
あれ、……違う…、見たことが、ある?
僕はこの子に、会ったことがー……
「如月君!!!」
はっとする。
「す…すみませんっ!如月莉旺です。
よろしくおねがいします!」
間。
「…もしかして…如月君、惚れましたね?」
ミケさんがニヤリとする。
「な…っそんなんじゃなくて……!」
「この方はご当主様のたった一人のお嬢様、
誓様です。惚れちゃダメですよ…?」
「ちか…お嬢様…」
誓はじっとこちらを見つめていた。
「東郷、誓。よろしく…。」
「こ、こちらこそ…!」
慌てて礼をする。
「きさらぎみおです。ちかおじょうさま、
よろしくおねがいしますっ」
澪もぺこっと頭を下げた。
お嬢様は依然として無表情だ。
……勿体無いな、と思う。
笑ったらきっとー…もっと綺麗なのに…
「誓様、今日はとっても嬉しそうですね…!
何かいいことありました??」
嬉しそう…?!どこをどう見たら!
「今日は…紫貴兄さんが帰ってくる…」
「まあ、紫貴が!それなら今日はご馳走ですね!
この三毛、腕をふるわせていただきます!」
「え、ご飯もミケさんがつくるんですか?!」
「もっちろん!アタシにできることはなんでもしますよ!」
な…なんてハイスペック…
瞬間
頭の奥が、痺れる。
空気が張り詰めるー…
「ー帰ってきた!!」
数秒後。
「やあ、二人とも。元気だったか?」
背の高い、眼鏡をかけた男の人が入ってきた。
あ、また…目の下に刺青…?
でもミケさんとは逆の、右目の下だ。
「おかえりっ紫貴兄…!!」
誓が男に飛びついた。
予想よりお嬢様はアクティブなようだ。
「紫貴、おかえんなさい。今回は長かったねぇ?」
「いやーなかなか手ごわくて、ね。
で…そちらは…?」
紫貴と呼ばれた青年がこちらを見る。
凍てつくような鋭く、冷たい目。
剥き出しの警戒心。
「っあ…新しくここで働くことになりました!!
如月莉旺と言います。
よろっ…よろしくお願いします…!」
かみかみ。最悪。
「っふ…」
……笑ってる?
「ごめんな、怖がらせて…君に邪気がないことは
今分かった。滅多に入ってはこないけど
いないわけじゃないからな。」
「入ってこないって…」
「まあ…人に化けた鬼とかね。
東郷家は大量の恨みを買ってるから…」
苦笑する紫貴を前に
どうしよう僕は今とても帰りたいです。
「だーいじょーぶ!ここには優秀な陰陽師が
たくさんいますから!」
そこでまた、澪がぽつんと呟く。
「あなたも…ちがう…人とちがう。」
「澪……?」
なんだか、ぞくっとした。
「…君は?」
紫貴が問いかける。
優しげだけど、どう見ても警戒している。
「この子は如月澪。僕の妹です。
すみません急に…」
「ううん、いいんだよ…すごいね、澪ちゃん。
君、とってもすごいもの抱えてる。
よく俺が人じゃないってわかったね。」
「なんとなくです。よろしくおねがいします、
しきさん。」
ニコッと笑う澪は、もういつもの澪で、
なんだかほっとした。
さっきの澪は、まるで別人だったから…
ていうか、人じゃないって…なんだろう…?
僕にはサッパリ分からない。
「で、如月君。君は視える人?」
「え…はい。澪も僕も一応…」
「てことは…ミケさん、やっぱりアルバイト募集に使ったのはあの紙?」
「当然!アタシたちが募集してたのは、ただの使用人じゃないもの!一般人が来ても困るわ。」
……ん?
いま重要かつ初耳の
びっくりニュースが聞こえたような…?
「あれ?あっ、言い忘れてました如月君!
今回募集してたのは
誓様の妖怪退治のお手伝いですよ!」
「え…えぇーーーっ!!?
無理無理、無理です!!僕ちょっと視えるだけで
一般人ですって!」
「大丈夫ですよぅ!仕事の間、澪ちゃんは
このお屋敷でしっかり見ておきますから!ネ!」
澪はなんかよくわかってなさそうだけど
にこにこしながら頷いてた。
「……いや、でもやっぱり…僕には…」
「ダメですか…?じゃあ仕方ないですね…
折角お給料弾む素敵なお仕事なのに…」
ピクッ
給料……
「まあ…ざっと一時間で
学問のすゝめ書いた人10人くらいかしら…?」
「なっ…10万円……っ?!!」
「どうします…?」
ミケさんがニヤニヤする。
「やります…やらせてください……」
背に腹は変えられないよネ。
ミケさんはよろしい!と満足げに頷いた。
「さあ、そろそろご当主に挨拶に行きますかね!」
遺言屋4