一人の楽しみ方

お題「雷」「異性の一人称」「無言」をまぜました。


僕はたまに、深い深い底の方沈みたくなる。
静かで穏やかな、水の世界の底へと。

そうなる時は大抵一日部屋に引きこもった日の夕暮れで、燃える夕日から目をそらすように、僕は和室の障子を閉めた。入口の引き戸も閉めて、椅子に座り込む。
知らぬ間に僕の中へ入りこんだそれは、しっとりとした雨のように静かに僕を湿らせてゆく。雨は徐々に水嵩を増し、僕の心を満たしてゆく。
逃げ道ならいくらでもあった。今すぐ障子と戸を開けるとか、椅子から立ち上がるとか、下の階にいる家族と会話をしに行くとか、回避する方法ならいくらでもあった。けれど僕は、そのどれも選ばなかった。暗く気持ちが沈んでゆく感覚は悪いものではなく、どこか僕を安心させたからだ。
頭をからっぽにすると、内から大量の言葉が溢れてきた。声は独り言のように脳内を流れるが、どれも僕の思考を働かせるには及ばない。
何も考えず、暗く澄んだ水の底に座っている。そこは静かな無音の世界だった。どれくらいそうしていただろうか。ふと顔を上げると、淡い光を漏らしていた世界は漆黒に染まっていた。辺りに何があるのか判別できないほどの闇。だが、明かりを付けようなんてことは考えなかった。心は未だ水の底に留まっている。

このまま溶けてしまえたらいいのに。

閉じた瞼の裏でそんなことを考える。
明日には、消えてしまうことだけれど。

一人の楽しみ方

教わったことを意識したつもりだったけど、抽象的すぎたかなという印象。

一人の楽しみ方

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-20

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