ふしぎなお坊さん

えつや


 山のほうからお坊さん。
 てくてくてくてく町にくる。

 町のいりぐちのたばこ屋さん。
 いつもの様にしかめつら。


「やあたばこ屋さん。たばこをくれないか」
「お坊さんお坊さん。あなたは仏さまに仕えるひとだ。たばこなんてすっていいのかい」
「たばこ屋さん、それはおかしな話だよ。じゃあおまえは仏がゆるさぬものを売るのか」

 いつものようにお坊さん。
 その場でたばこをぷかりぷかり。
 ぷかりぷかりと笑いながら、そのまま町をさんぽする。

 それをみていたおんなのこ。
 それにきづいたお坊さん。

「やあおじょうちゃん。なにかおもしろいものでもあったのかい?」
「いいえ…」

 そまつな服きたおんなのこ。
 お坊さんは ぷかりぷかり。

「ひまならわしとさんぽしよう。おいしいものをたべさせてあげよう」
「ほんとうに?」

 ぷかりぷかりとお坊さん。
 てくてくついてくおんなのこ。
 それを見ていた たばこ屋さん。

「やや、これはしんぱいだ。お坊さんはよくわからないひとだからな」



 ぷかりぷかりとお坊さん。
 足のみじかいちいさな子、きにせずどんどん先にゆく。
 すこしはなれて たばこ屋さん。
 みつからないようついてゆく。

「やあお肉屋さん。お肉をくれないか」
「お坊さん、いつもいつものことだけれど、あなたは仏につかえるおひとなのに、お肉をたべてもいいのかい?」
「仏はそんなこときにしないわい。さあ、はやくよこせ」
「まったくとんだ坊さんだ。なんのお肉がほしいんだい」
「きまってる。今日はしちめんちょう(・・・・・・・)の日だ。はやくそれをだしてくれ」
「お坊さん。けどあなたは」
「うるさいうるさい さっさとだせ」

 かんしゃくおこしたお坊さん。たまらずでてきたしちめんちょう(・・・・・・・)
 それをもってお坊さん、ぷかりぷかりとさんぽする。

 うしろをついてくたばこ屋さんに、お肉屋さんが、声かける。

「やあ、たばこ屋さん。なんでそんなところをこそこそと」
「お肉屋さん、わたしはあのおんなのこがしんぱいだ。かげからみていることにする」
「ううむ。わたしもしんぱいだ。それならわたしもいっしょにいこう」



 ぷかりぷかりとお坊さん。
 しろいおひげをなでながら、ようふく屋さんに声かける。

「やあようふく屋さん。ようふくをたくさんおくれ。ちいさなものからおおきなものまで かかえきれないほどおくれ」
「お坊さんお坊さん、わたしが口だすことではないかもしれませんが あなたはようふくを着るのですか?」
「うるさいおんなだ さっさとだせ」

 たまらずふるえるようふく屋さん、おくから色んなふくをだす。

「うむ。おかねはおてらにおいてある。払いはこんどにしておくれ」

 泣きそうなかおのようふく屋さん。
 たばこ屋さんが 声かける。

さいなん(・・・・)だったねようふく屋さん」
「たばこ屋さんとお肉屋さん、あなたたちはなにをしてるのですか」
「あのおんなのこがしんぱいなのだ」
「あのこは かみさまの家のこですね。わたしもいっしょにいきましょう」


 ぷかりぷかりとお坊さん。
 つぎにいったのはケーキ屋さん。

「やあケーキ屋さん。ケーキをおくれ。おおきなおおきなまるいやつだ。ふわふわしているしろいやつだ」
「お坊さん、かまわないけどきょうはとくべつな日だよ。あんたがケーキをどうするんだ」
「そんなことはきまっている。せいなる夜をいわうのだ」
「お坊さんあんたなんてことを!! あんたは仏さまをしんじてるんだろう」
「うるさいうるさい つまらぬことを。さっさとだすのだ はやくだせ」


 お坊さんはぷかりぷかり。
 そうざい屋さんにパン屋さん、くだもの屋さんに、おもちゃ屋さん、さんぽのとちゅうでよっていく。

「払いはこんどだ。ううむ もうもちきれん。うしろでこそこそしているやつらにわたしておくれ」



 お坊さんはぷかりぷかり。
 いっぱいにもつをもたされたのは、うしろで見ているお店屋さん。

「……なんでおれがおもちゃの剣なんてもたなくてはいけないんだ」
「ついでにこのこーと(コート)も着てください。もうわたしはもちきれないわ」


 ぷかりぷかりとお坊さん。
 うしろについてくお店屋さん。
 もう ぎょうれつになっている。

 いちばん先ゆくおんなのこ。
 とちゅうでそこからうごかない。

「おじょうちゃん。どうしたのだ。おいしいものがたべたくないのか」
「みんなにも たべさせたいの」

 ……そこはおおきなおおきなじゅうじか(・・・・・)のおうち。こどもたちがさむいなかで、そまつな服きてあそんでる。

「おまえはここの子か。いいだろういいだろう。みんなを呼んであげなさい」

 それをみていたお店屋さんたち ほっとむねをなでおろす。

「……こういうことだったのか」
「いいところがあるじゃないか」
「わたしはしんじていましたよ。だってお坊さんですもの」

 中からでてくる色んなこ。はなみずたらしてよってくる。

「ええい、よるなよるな。わしに はなみずつけたらしょうちせんぞ」
「おいしいものたべさせてくれる?」
「おもちゃくれる?」
ひーろーしょー(ヒーローショー)がみたい!」

「はなれろはなれろ きたないやつらだ。ごはんをめぐんでやるだけだ。ほしいものはじぶんでかえ」


 それをみていたお店屋さん。
 どんどん ふあんになってゆく。


 ぷかりぷかりとお坊さん。
 町のはずれにあるいてく。
 辺りはなんだか うす暗い。
 どんどんさむくなってゆく。
 肩をだきながらおんなのこ、お坊さんにはなしかける。

「ねえしんぷさま」
「なんだいおじょうちゃん」

 それをきいてたケーキ屋さん。

「あいつはなんててきとうなやつなんだ。しんぷさまではないだろうに」



「かみさまは どこにいるのですか」
「うむ。わしもみたことないのだ」

「それなのにしんじられるのですか」
「そういうものではないのだよ」

「わたしには、おとうさんもおかあさんもいません。それなのに かみさまはなにもしてくれません」
「うむ。わしもなにもしてもらったことがない」

「じゃあ かみさまはいなくてもいいんじゃないですか」
「いや、いないとこまるのだ」

「なんでこまるのですか」



 ぷかりぷかりとお坊さん。
 さみしい道をあるいてゆく。

「おとうさんとおかあさんがいないのは なんでなのだ?」
「わかりません」
「わからないのか。じつはな おじょうちゃん。みんなそうなのだ」
「なにがですか」

「よのなかのかなしみには りゆうがないものがおおいのだ。じぶんはわるくないのにおそってくる、そんなふこう(・・・)がいっぱいあるのだ。それを、ひとはかみさまのせいにしていいのだ」

「じゃあ かみさまがわるいんですか?」
「それでいい。かみでもほとけでもいいのだ。みんなかれらがわるいのだ」



 それをきいてたケーキ屋さん。
 かっかとさせておこりだす。

「あいつはなんてやつなんだ!! こどもになんてことを!!」
「まあまあ、もうちょっとみていよう」


 おんなのこはだまって歩く。
 とことことことこ歩いてく。

「おじょうちゃん。おかあさんとおとうさんは、いついなくなったのだ?」
「わたしがもっと小さなころに…」
「おぼえていることはないのか?」

 ぽつりぽつりとおんなのこ。

「おかあさんは いつもないてました」
「そうか」
「おとうさんは いつもつかれてました」
「そうか」

「おかねがないからです。こどもがいるとおかねがかかるから、だから、きっとわたしが、」

 ぷかりぷかりとお坊さん。
 おんなのこのあたまにおおきな手。

「ちがう。 かみさまが ほとけさまがわるいのだ」


 それをみていたお店屋さん。
 だまってずらずらあるいてく。




 町はずれのおおきな木。
 お坊さんのさんぽはおしまい。
 こどもたちはおおさわぎ。
 お坊さんはそらをみる。

「……うむ。もうすこしじゃな」



「はやく!はやくおいしいものをたべさせて!」
「まあまあまてまて。きたないやつらだ。はなみずつけたらしょうちせんぞ」

くりすますぷれぜんと(クリスマスプレゼント)は? くれるんじゃないの?」
「そんなことをだれがいったのだ」

ひーろーしょー(ヒーローショー)は? ねえ どこでやってるの?」
「なにをいってるんだ。おまえさんは」


「はやくたべさせて!!」






 お坊さんは空を見上げる。

「まて…。まだ、機が熟していないのだ」



 子供達は大騒ぎ。お坊さんは怒鳴り出す

「まったく五月蝿い奴らだ!! もう少し待てというのがわからんか!!」
「ヒーローショーは? ヒーローショー見たいよ見たいよ!!」

「黙らんかッッ!!!!!!」

 その一喝に子供達は震え上がった。
 いや、震える事さえ出来ていないのだ。子供達は体を硬直させて目を見開いた。

「……なあ〜にがヒーローショーじゃ。そんなもんはおりゃせんわ。神も仏もいない世の中で、ヒーローなんかいてたまるか」
「いるよ!! レツガイガーはあくのそしきと戦ってるんだ!!」
「そんなもんはいねえ〜んじゃよ。くかかかかかか……。なんでわしがお前らみたいな薄汚いガキ共をこんな所に集めたと思う」

 既に陽は落ちた。
 辺りには漆黒の闇が渦巻いている。
 星空を背景に大木はそびえたつ。禍々しい鋭角的なその影の前に、闇の僧侶は正体を現した。

「……ヒーローはいない。が、悪の組織は実在する。わしこそ闇の大僧正じゃ……。一年の決められた日、決められた場所でもって祝福された子供達を生贄に捧げれば、闇の大神は復活する……!!」

 その言葉を聞いた少女は、呟く様に問い掛けた。

「しゅくふくされた……、子ども?」

「そ〜うじゃあああ……。なんだ貴様らは知らんのか?お前らこそが祝福された子供達、未来を担う希望の種じゃ。
 ……貴様らは成長すれば強くなる。幸せに導かれる運命の星の下に生まれた。そんな貴様らを捧げてしまえば、この世界は我らの手の中よ。……くかかかかかかっっ!!」

「なにを言ってるの。わたしたちが、そんなはず…」

「信じたくなければ信じなければいい!! だがな、わしには見える……その未来に待つ光が。どんな困難も退ける力がその身に宿るのが!! その前に貴様らをこの場で……」



「……待てッッ!!!!」



 闇を切り裂く声がした。
 少女達が振り返ると、いつの間にかそこには男が立っていた。
 真っ白のコートを羽織り、厳しい目付きで闇の大僧正を睨み付ける男が右手に握っているものを見て、子供達が叫びをあげた。

「……レツソードだッッ!!」

 闇の中で伝説の剣が輝いている。
 眩い七色の光を明滅させるそれを見て、闇の大僧正は目を見開いた。

「そ、その剣は……き、貴様!! なんで貴様がここにッッ!!」

「ふん。お前の考える事はお見通しだ。この町でケーキ屋さんとして働いていたのさ」
「私もいるわよ」

「お前は洋服屋!! …お前もかアアア!!」
「光の子供達をここで死なせる訳にはいかない。あなたの野望はここで私達が砕く……! ねえ、そうねみんな!!」

 女が振り返り仲間たちに声をかけると、一瞬その体をみんな震わせた。

「そ、そうだ。お前の野望はここまでだ!!」
「そうだった……いま思い出した。そういえば俺は光の組織の一員だった!!」

 使命を思い出した勇者達が、子供達を庇う様に前に出た。勇者達が身につけた伝説の武器や防具はその姿を変えている。この星で活動しやすいように、な・なんと、普通のエプロンやおたまなどに見えたりするのだ。

「さあ闇の大僧正!! お前の野望もここまでだ!!」



 ……辺りは静けさに満ちていた。
 子供達は固唾を飲み込み光と闇の決戦を見つめていた。すると、そこに闇の大僧正の低い笑い声が響いた。

「くくくくく……」

「なにがおかしい!!」

「甘っちょろい有象無象共がアアア……。貴様らなど、このわしの一撃で……!!」

 凄まじい力の奔流が場に吹き荒ぶ。
 形の見えない闇、不可視の魔力が大僧正の周りで鳴動する……!!

「くらえっっ!! 破ァーーーーーー!!」
「う、ぐあああああああ!?」

 その一撃で、光の戦士達は全員崩れ落ちた。

「くくくくくくく……む?」

 大僧正は、光の子供達を見る。
 全力で放った一撃だったのだ。しかし、そこに平然と子供達は立っている。

「この力が通じないとは……やはり。やはり貴様らがア……約束された祝福の子供達かッッ!!」

 大僧正は空を見上げ、愉悦の叫びを木霊させた。

「機は熟した……生贄に捧げる時よ……!!」



 震える子供達の耳に、弱々しい声が届く。

「そこの君……君だ」

 粗末な服を着た少女は周りを見渡した。自分ではないと思った。しかし、光の戦士は自分に話しかけている。

「この剣で……奴を」
「むり、むりです。わたしには……」
「出来る……必ず出来る!! それこそが、祝福されし君が持つ力なのだ……!!」

 少女は震える手で伝説の剣を掴む。
 そして、闇の大僧正の前に立った。



「……ほう? 貴様が真っ先に死にたいのかあ? 痛いぞ? 苦しいぞおおお……」

「……えいっっ!!」

 伝説の剣が光を放つ。すると、突然闇の大僧正は苦しみだした。

「な……うぐおおおおお!?
 き、貴様! もう覚醒を!!」

「えいっっ!!」

「ぎゃああああああああああ!!」

 大僧正はたたらをふみ大木に体を預け、苦しそうな声で呟いた。

「き、きさまあああああっ!! やはり、やはり貴様らが希望の子供達か……!! 成長すれば必ず幸せになってしまう!! 口惜しいぞおおおおッッ!!」

「えいっっ!!」

「ぎゃああああああ!!!!」

 そして、闇の大僧正は大木の後ろに倒れこんだ。






 ……しゅくふくされたこどもたち。
 なかのひとりがおおきなおおきな木のうしろ そーっとそーっとのぞきこむ。

「……いない」



「すごい……すごいよ!! ちきゅうをまもった!!」
「うわああああ!! ありがとう!! ありがとううううっ!!」

 そまつなふくきたおんなのこ。
 みんなにかこまれ こまってる。

「……やあ。きみたちのおかげでちきゅうのへいわがまもられた。そのこだけじゃない。みんなのちからがなければむりだった」

 はなしかけるのはケーキ屋さん。
 その手にはおおきなおおきなまあるいケーキ。

「さあ、おいわいだ。みんなでこれをたべよう」
「すごいすごい!! おおきなケーキだ!!」

「ほらほら、ほかにもいっぱいあるんだよ」

 お肉屋さんのてにはおおきなおおきなしちめんちょう(・・・・・・・)。そのほかにもいろいろなおかしやパン、きれいなおようふくやおもちゃ、プレゼントもいっぱい いっぱい。


 こどもたちはみんなおおさわぎ。
 それをききつけた町のひとたち、どんどんどんどんやってくる。
 町のはずれはいつのまにか ぱーてぃー(パーティー)かいじょうになっている。



 ……わるいお坊さん消えたあと、おおきなおおきな木のまわり ふわふわとゆきがふっている。



「かみさまがしゅくふくしてくださってるんだよ」

 それをきいたおんなのこ

「いいえ きっとほとけさまです」



 ようふくやさんはこういった。

「どちらでもいいらしいわよ」




 町のはずれはたのしそう。
 お店をあけるわけにはいかないくすり屋さん。ひとりでさみしくおるすばん。

「おいくすり屋さん」
「またあんたかい。お坊さん。こんどはなにをやらかした」

「うるさいさっさとしっぷをだせ
 たまらんたまらん こしがいたい」


 おしまい

ふしぎなお坊さん

ふしぎなお坊さん

クリスマスの寸劇。 この世界には、神さまと仏さまと、大人と子供がいます。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日

CC BY-NC
原著作者の表示・非営利の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC