雨とあまぁい女の子
お題小説
『雷』
「ケーキ屋さんのショーケースって、どうして宝石箱みたいに見えるんだろうね」
目の前の優里奈が小首を傾げて聞いてきた。どうやら本人の中では、結論が出ているらしい。笑窪がくっきりと表れている。
本当にあざとい。
「んー。ガキがおもちゃ屋の前で、おもちゃが手に入ることを期待してワクワクするように、おいしいケーキが食べられることを期待してワクワクするからじゃないか」
一口大のケーキを口に運ぶ。フォークの冷たい感触が舌先に触れると、柔らかなビターチョコガナッシュが舌ともつれ合うように溶けだした。やがて口腔は、コーヒークリームの香りで満たされる。やっぱりここのケーキは絶品だ。
「そっか!じゃあまだまだあるから、もっとワクワクしながら食べちゃおっと」
嬉々として伸びた白い手を、ペチンと叩いた。
「あんた、ダイエット中じゃなかったの?」
「うぅ。きーちゃんのいじわるぅ」
じっと、こちらを見つめる二つの黒曜石は、今にも涙が流れそうなほどに潤んでいる。最近行ったうさぎカフェの子ウサギを思い出した。
本当にあざとい。でも悔しいが純粋にかわいい。今なら男の気持ちがわかる。こんな女の子なら、いくらでも奢ってあげたくなるのも頷ける。
窓の外が光った。光の方を見ていると、間をあけないうちに轟音が響き渡る。
「結構近いな」と言おうとして正面を向いたとき、目の端を何かが光の速さですり抜けた。
もしや、と思い自分の皿を確認すると、案の定真っ白だった。
深いため息をつく。やられた。
前言撤回。目の前にいるミルクティーカラーのロングヘアゆる巻き娘は、可愛さこそ子ウサギでありながら、ただのあざとさの塊で、まだまだ食い気の方が旺盛だった。
ほら、その証拠に、右の口角にエクレアのクリームが付いてるだろ。な?
雨とあまぁい女の子
名前つけた意味がない気もしなくはない。
ちなみにきーちゃんの本名は菊菜。べ、別に、きーちゃん呼びの元ネタがにょた黄瀬なんかじゃないんだからねっ!
きーちゃんが食べていたケーキはオペラのつもり。
エクレアは仏語で、「雷・稲妻」の意味(カロリーは200~230)