2度目の夏
暑い熱い夏
今日もまた、委員会が長引いてしまった。
母にあれほど早く帰って来いといわれたのに。
でもまあ、仕方がない。
私は教室を出て、きょろきょろとあたりを見回した。
「どうかしたの?」
後ろから、ふいに声をかけられる。
後ろには、私の親友、佐野 ひまりがいた。
「…ひまりか。びっくりして損しちゃったじゃん。」
私はふふっ、と笑うとひまりから視線をそらす。
「だって、何してるか気になったんだもの。…あ、やっぱり彼氏待ちなの?」
ひまりはニヤニヤと笑うと教室からひょっこり顔を出す。
「か、彼氏って…そんなっ。私、彼氏なんていないし。」
取り繕うようにそういうと、ひまりのニヤニヤは更に増す。
「どうだかね!まあ…本人に聞くのが手っ取り早いわよね。」
ひまりは更にニヤリと笑って、私の肩をポンと叩いた。
私は、もう!と言ってから荷物をまとめる。
そろそろ、いいはずだ。
「じゃあ、私帰るね。また明日」
ひまりに手をひらひらと振る。
ひまりは面白くなさそうに私の顔をみつめてから、小さく「…また、明日ね」とつぶやいた。
廊下をとぼとぼと歩いていると、担任に出くわした。
軽く会釈して素通りしようとすると、運悪くひきとめられてしまった。
「瀬戸、委員会終わったのか?」
「はい。」
小さく返事をすると、担任は面白そうに私の顔をじろじろと眺め回した。
「…なんですか?」
「いやあ、最近成績が落ちてるよなあって話だよ。これじゃあ志望校、危ういかもしれんな。ははっ」
担任は笑い飛ばしてから、ぽん、と軽く私の肩をたたいて「がんばれよー」と言った。
「…何なのよ。」
小さく呟き、のろのろと玄関へ向かう。
気分は最悪だった。
玄関には、誰もいなかった。
外から、部活に励む声が小さくこだまして聞こえる。
ふう、と小さくため息をついて、のろのろと靴箱へ向かう。
あたりをきょろきょろと見回してから、できるだけ時間をかけて、靴を履き替える。
あたりをもう1度見回して、今度こそ大きなため息をつく。
玄関を後にし、グラウンドの脇を通り過ぎる。
サッカー部の練習は、とっくの間に終わっているみたいだった。
別にいいけれど。私には関係のないことなのだ。
割り切って、すたすたと校門を出ようとする。
そのときだった。
ぐん、と腕に力が加わり、ぐいっと引っぱられる。
急なことだったから、私は体勢を崩してしまい、よろよろと彼の胸に飛び込む形になったしまった。
私は顔をあげ、彼の顔を確認する。
彼は意地悪っぽく笑い、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでる。
「委員会、終わったのか?」
白い歯をのぞかせて、幸せそうに笑う彼。
「うん、終わったよ。雄介はどうなの?」
彼―…雄介は、グラウンドをちらりと見てから「たぶん終わった。」と言った。
「たぶんって何?終わってないことがあるなら、終わらせてきてもいいのに。私、待ってるからさ。」
雄介は、少し考えてから、私に申し訳なさそうに聞く。
「待ってるのが嫌じゃなかったら…おれ、行ってくるよ。」
私の返答を待ってるのか、ちらちらと雄介はこちらを見る。
私は仕方ないなぁ、と笑って言った。
「待ってるの、嫌じゃないよ。雄介のことを待ってる時間、嫌いじゃない。」
雄介は照れたのか、うつむきながら笑った。
「じゃあ、行ってくるよ。」
雄介はブンブンと手を振りながら走り出した。
私もブンブンと手を振りかえしながら、夕焼けの景色に消えてゆく彼の後姿を見て、なんだか心がざわつき、切なくなるのを感じた。
あんまりにもその景色が儚く、悲しいほど奇麗だったのだから。
2度目の夏