いぬとはりねずみ

p.1はじめまして

絶対に結ばれない運命というものを信じてしまう。
気づいたら俯いて、寒空に輝く月もみえなくなる。
二人が好きだと言った月はいまもおなじく夜空にあるのに。


……………


諏訪野悠里17歳。
一般高校をドロップアウトして飲食店従事者である。
店長の薦めで通信制高校に再入学して早1ヶ月。頼ることは弱さなのだから友達なんていらないという典型的ぼっちである。…誰がぼっちだ。

月に4回ある登校日には屋上で一人昼飯をとるのが恒例。今日もいい天気だ。誰もいなくて気分が安らぐ。
「悠里!俺も食う!」
出た。同期入学で同い年の加藤。妙になつかれてしまった。こいつは一言で面倒くさいと表現できる人間だ。
空気読んでくれ。ほんとお願い。黒豆あげるから。

とりあえず無視を決め込んだ俺を余所に加藤は隣に座りコンビニ袋からおにぎりを出した。
「あ!柿田さんもいたんじゃん!」
加藤が向く方を見るとそこには黄色いカーディガンを羽織った華奢というか病的な痩せかたに近い女の子がいた。長い黒髪が風に揺られようやく顔を見ることができた。
可愛いと素直に思う容姿だった。が、それ以前に存在感の無さに驚いていた。
どんだけ薄いんだよ。いや加藤が気づくんだ。俺がまわりをシャットアウトしすぎてたのか?

「加藤くんだ!こんにちはー」
加藤に丁寧に挨拶をしているその子は人に好かれる笑顔をした。が、俺はその笑顔を可愛いと思えなかった。
張り付いてる、そう思ったんだ。

「誰?」
つい、話しかけてしまった。失敗したと思った。
ぶっきらぼうの俺の質問に加藤はそのままの調子で答えてくれた。
「え?!同じクラスだよ!同じクラスの柿田実紗さん。俺らと同い年で地元が一緒なんだよ」
「クラスなんてないようなもんだろ。HR出ないし」
通信制にもクラスというものはあるがHRは自由参加で授業は個人の前籍高での取得単位などによるため顔を合わせない人がほとんどなのだ。
つーか中学生はないにしても中卒上がりの2コ下だと思った。
「こいつは諏訪野悠里。同い年だよ」
「そうなんですかー。よろしくお願いします。」
加藤が流れで俺の紹介もしたのに合わせて柿田さんとやらはぺこっと挨拶をしてくれた。
明らかに無視はできない状況なので
「よろしく…」
目も合わせず俺はお辞儀を返した。
「なんかお見合いみたいだね」
加藤がふざけたが全然面白くない。むしろいらっとするから黙ってて。
「柿田さんもお昼?」
「このあと友達と遊びに行くから待ってるんだー」
「へー」
加藤が話を振ったがそれきり続かず無言になってしまった。
気まずい。早く食って戻ろう。
つーか、誰もHR出ないんだな。
なんとなく、そのとき食べた卵焼きはいつもより甘かった。

……………

諏訪野悠里と柿田実紗、18歳春のこと。
まるでお互いに興味はなく、もう話すこともないと思っていた。

いぬとはりねずみ

いぬとはりねずみ

自・他称わんこの諏訪野悠里と同じく自・他称はりねずみの柿田実紗。いろんなものを抱えてなんとか生きてる二人はいつしかお互いを意識するが。 生きることの苦しさと報われない恋愛のもどかしさを綴った物語。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-16

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