RPG
お題「冴えないヒロイン」
書いてる間は非常に楽しかったです。
勇者一族の末裔である少年は、王の命を受け魔王に捕らわれた姫を救う旅にでる。
それが、少年に与えられた使命だった。
「もう行くのやだよー!」
旅始めの村の宿屋で、少年勇者は共に旅する王家の爺に叩き起こされた。まだ日が昇ったかも怪しいくらいの時間である。爺は新たに始まる冒険に浮き足立っているようだった。
「ほら、行きますぞ勇者さま!」
明らかにおかしい。こんな時間じゃよろず屋も武器屋も空いていないし、朝食にだってありつけない。それに、夜の闇に生きるモンスターたちと戦うには昼間が最適なのだ。それをなんだってこんな時間に......。
「一刻も早く姫様を救い出してくだされ。この爺、姫様のことが心配で心配で、まともに眠れもしないのです...」
しょんぼりと肩を下ろしてそう言われてしまうと邪険にもできない。だがしかし、一つだけ言わせてくれ。この国の姫はイマイチぱっとしないのだ!
冴えない主人公が勇気を振り絞って魔王に立ち向かうのならまだ分かる。だが、冴えないヒロインってなんだ?そんなの主人公のモチベーションだだ下がりじゃないか! 救い出した暁には王様は姫との婚約を結ばせるだろうし、救い出せなかったら自分の命が無くなるのだ。このシナリオのどこに惹かれて魔王退治などしようと思うだろうか。
早朝で覚醒しきっていない頭をフル回転させてつらづらと愚痴をこぼす。爺は自分が歩く際に使用していた杖をスタッフのように扱い、出発する気満々である。
「......分かったよ」
こういう白黒はっきりしない性格が災難を呼んだのかもしれないなと少年はひとりごちた。
道中の敵は驚くほど弱かった。爺のスタッフ一撃でほとんどのモンスターは伸びてしまう。
「これ、僕いらないじゃん」
勇者のぼやきも気にせず、爺はどんどん先へ進もうとする。
こうして村から数時間歩いたところに魔王城はあった。近すぎると思うだろう。なんせ魔王城は王城と幅の広い川を挟んで隣にあるからだ。ただ、少年勇者にも爺にも川を渡るためのスペックが備わっていないため、迂回せざるを得なかっただけなのだ。
辿り着いた魔王城は、雰囲気こそ不気味であったが、門番のガーゴイルさえ居なかった。中からは何やら楽しげな声が聞こえる。
「も、もしや姫様が食われてしまうのでは...」
明らかに人のものではない笑い声に、爺は真っ青になる。いくらパッとしない姫であっても、命が危ない人を見捨てるほど少年は廃れてはいなかった。一族に伝わる伝説の剣を引き抜き、声の聞こえる方に向かって走る。
内部は敵城とは思えないほど綺麗に磨かれ、整理されていた。侵入者を予測していないのか、開けたところにある階段を登ればすぐに王間に辿り着いた。
「やあやあ、随分と急いで来たようだね」
息を切らした勇者を見て、魔王は親しげな笑みを浮かべる。その隣には丁寧にナプキンまでつけて食事をする姫の姿があった。
「ご無事ですか、姫!」
咄嗟に様子を伺うが、姫は不思議そうに首を傾げるばかり。その顔は可愛らしいとも言い難く、やはりぱっとしないな、と思ってしまった。
「......どちら様?」
一応姫様らしく口元をナプキンで拭い、こちらを見つめる。というか、自分を攫った魔王を前にしてくつろぎすぎじゃないだろうか。
「姫様、こちらは王家から姫様を救いに来た勇者さまですよ」
魔王もにこやかな笑みを浮かべたまま姫に告げる。
「救いに?」
姫はなんのことか分からないという顔をする。どうやら顔だけではなく頭も冴えないらしい。
「とにかく、お城へ帰りましょう!王様が心配しておられます」
一人だけ決められた台詞を言っているのが段々馬鹿らしく感じてきた。魔王は敵意を一切見せないし、肝心の姫は自分の置かれている状況さえ把握できていない。このまま魔王城に置いて帰っても問題なさそうだった。
「台詞は言い終わったか?」
すっかりやる気を無くした勇者を見て、魔王は言う。どっしりと腰を上げたその姿は、やはり魔物の王らしく立派なものだった。
「選べ、勇者よ。このままこの冴えない姫と共に城に帰り婚約を交わすか、このまま姫共々冴えない姿で我の仲間になるか」
「冴えない姿...?」
「輪郭も無くした亡霊よ。さあ選べ」
勇者は気づいてしまった。この選択肢の中に魔王との戦闘という選択肢が無いことに。
「くっ......」
「ふはははは、やっとこれで勇者家に復讐ができる!これこそ究極の選択よ、ははははは」
勇者は項垂れた。これでおしまいかーーそう思った時、どこからともなく木の棒が飛んできた。くるくると回転しながら宙を舞うそれは、魔王の脳天にクリティカルヒットする。
「この爺が、姫様を連れ帰りますぞ!」
魔王が呻いている間に爺は姫様を抱え、一目散に魔王城を後にした。
残った勇者と魔王に沈黙が生まれる。
「......飯でも食おうか」
こうして世界は平和になりましたとさ。
END
RPG
某RPGをディスっているわけではないので悪しからず。