くりかえ死
お題小説
『信号』
目覚めると、俺は交差点の真ん中に立っていた。自分の服装を確認してみると、学ランだ。そうだ。まだ俺は下校途中じゃねぇか。
それにしても頭が痛い気がする。第一、なんで俺はこんなとこで突っ立ってんだ?
「危ない危ない」と呟きながら一歩踏み出した途端、背後から轟音が地面を震わせて近づいてきた。本能で分かる。これは危険なものだ。後ろが気になって振り返ろうとした。
(首が曲がらない!?)
まるでコンクリートで固められたかのように首の筋肉が動かない。無理に動かそうとすると激痛が走り、反対側へと引っ張られていく。
だが、その間にも轟音は背後から迫ってきている。動け動け動け。俺は全身の筋肉に信号を送った。筋の一本でもいい。肉の一片でもいい。動いてくれ。
すると、右足が一歩前に出た。次いで左足がアスファルトのゼブラ線を蹴る。今度は、そのまま左足が前に出る。右足でアスファルトのゼブラ線を蹴る。そうして繰り返されて生まれた〈走る〉の動きは、俺を窮地から救う一条の光だと思った。
しかし、走れども走れどもゼブラ線に終わりは来ない。両脇に続く三色灯火を高く掲げた十字架は、棺桶への道しるべのように思われた。
息絶え絶えになりながら、頭の片隅で弱音を吐いた。
(もうこれ以上は走れない。)
その隙が体の緊張を崩したのかもしれない。
左足が着地のバランスを崩したために右足がそこに引っかかり、つんのめる形で俺は転んだ
その瞬間、やっと後方を見ることができた。目の前にあるのはオレンジがかったライトだった。
そうして派手な衝突音と共に俺の身体は高く飛び、地面にたたきつけられた。タイヤはそんな俺の腹の上を何事もないかのように駆け抜けていく。肋骨が二、三本折れる音がした。
赤く染まる視界と全身にはしる痛みによって俺は悟った。
また死んだんだ、と。
――堀口保樹 享年二十二歳 悪霊化まで、あと九十四回
くりかえ死
二日遅れスンマセン。