ひとりぼっちの夜に

お題「信号」

 雨に濡れたアスファルトに、信号の灯りがぼんやりと反射している。
 赤が止まれなんて誰が決めたんだろう。
 ぼっ、ぼっ、とナイロン製の傘に雨粒が落ちる音を聞きながら、そんなことを思った。深夜の交差点には、歩行者はおろか自動車の姿さえ見られない。運送トラックくらい走っていてもよさそうなのに、その道には私以外の何ものも存在していなかった。まるで世界に自分一人しか存在していないかのようだ。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、青になった信号が点滅し、また赤になる。
 仮にこの世界から人間がいなくなったとしても、この信号は点滅を繰り返すのだろう。赤が黄になり、青となる。誰もその規則を守る人はいないのに、信号機はただひとり規則正しく明かりを灯し続ける。そんな世界を考えると、なんとなくもの悲しく、寂しい気持ちになった。春にしては冷たい雨が体の芯までも冷やしてゆくようだった。
 信号が何度目かの赤を灯し、アスファルトを染める。私は根が生えてしまったかのように、そこから動くことが出来なかった。
 信号に感情があったら、私を引き留めたりするだろうか。ひとりぼっちの夜にたまたま通りすがった私に、一緒にいてなんて言うだろうか。
  いや、と私は首を振る。彼らはひとりであることを気に留めもしないだろう。信号に感情があるわけが無いし、あったとしても分からないけれど、なんとなくそう思った。
  いつだって寂しいと感じるのは人間だけなのだ。
  「ばいばい」
  もう何度見過ごしたか分からない青信号を待って、私はひとり歩き出した。

ひとりぼっちの夜に

ひとりぼっちの夜に

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-15

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