ひとりぼっちの夜に
お題「信号」
雨に濡れたアスファルトに、信号の灯りがぼんやりと反射している。
赤が止まれなんて誰が決めたんだろう。
ぼっ、ぼっ、とナイロン製の傘に雨粒が落ちる音を聞きながら、そんなことを思った。深夜の交差点には、歩行者はおろか自動車の姿さえ見られない。運送トラックくらい走っていてもよさそうなのに、その道には私以外の何ものも存在していなかった。まるで世界に自分一人しか存在していないかのようだ。
ぼんやりとそんなことを考えていると、青になった信号が点滅し、また赤になる。
仮にこの世界から人間がいなくなったとしても、この信号は点滅を繰り返すのだろう。赤が黄になり、青となる。誰もその規則を守る人はいないのに、信号機はただひとり規則正しく明かりを灯し続ける。そんな世界を考えると、なんとなくもの悲しく、寂しい気持ちになった。春にしては冷たい雨が体の芯までも冷やしてゆくようだった。
信号が何度目かの赤を灯し、アスファルトを染める。私は根が生えてしまったかのように、そこから動くことが出来なかった。
信号に感情があったら、私を引き留めたりするだろうか。ひとりぼっちの夜にたまたま通りすがった私に、一緒にいてなんて言うだろうか。
いや、と私は首を振る。彼らはひとりであることを気に留めもしないだろう。信号に感情があるわけが無いし、あったとしても分からないけれど、なんとなくそう思った。
いつだって寂しいと感じるのは人間だけなのだ。
「ばいばい」
もう何度見過ごしたか分からない青信号を待って、私はひとり歩き出した。
ひとりぼっちの夜に