背徳の蜜 第8話

背徳の蜜 第8話

ブルートパーズ

ガルヴァニーナブルーの瓶を置き
視線を上げると
白いレースのカーテンの向こうでは
ベランダのブルーエンジェルが
朝の日差しの無垢な光を浴びていた。
テーブルに置いたスマートフォンの画面は
月のない夜のよう冷たく黒いまま。

私はシンクにもたれて
熱を持ち疼きはじめた部分を
指でそっと確かめた。
ぬるりとした感触。
私は彼との行為を思い出しながら
彼がしてくれたように
下着の中でゆっくりと指を動かした。
思考は彼と過ごした時間をさまよう。


彼との夜は束の間。
私たちは過ぎる時間に抗うように体を重ねた。
部屋に入ると、いきなり始めることもあった。
性急に求める彼の胸をやんわりと押し返すと
私の髪を耳にかけ顔を近づけて言った。

「手の位置……違うだろ」

薔薇の雫という名のピアスに彼の息がかかる。
首筋をつたい下りるくちびるが
淑女のふりをする私を笑う。
形だけの抵抗を試みていた両手は
彼のシャツのボタンを
ひとつひとつ外していく。
私は、はだけたシャツの内側へ
その手を滑り込ませた。
背中に回した手のひらで感じる
体温と筋肉の厚み。

「おまえの手は…いつも冷たいな…」

こういう時の彼の声は労るようにやさしい。
私は手の中のぬくもりを引き寄せ
彼の香りに身をうずめた。
かすかな煙草の匂いと、ほんのりと香る香水。
そして彼自身が発する体の匂い。
私はそれらが合わさった
彼の体臭に抱かれるのが好きだった。
彼の匂いは私の理性の膜を溶かし
甘い蜜に変える。
蜜を求めてうごめく彼の指は
着衣を乱し私を煽る。

「ねぇ……ベッドで…」

「……ベッドで?」

言葉につまる私に彼の指が問いかける。
肌を撫で粘膜を押し開き
私を知り尽くした指が
的確に蜜の場所を探し当てると
彼の胸の中で咲いた青い薔薇は
ふるふると花びらを震わせる。

「答えて」

「……ねぇ………おねがい……」

そこから先は言葉にならない。
ふいに指の動きが止まる。

「答えになってないよ」

私をのみ込もうとしていた大きな波は
砕け激しく渦を巻く。
私は渦の中で助けを求め
彼の体にすがりついた。

「よくわからないな……やめるの…?
続けるの…?」

「…………続けて」

「ベッドで?ここで?」

「ここで…このまま……はやく……」


私は泣いていたのかもしれない。

彼の指が再び動きだすと
花はさらに激しく震え
葉脈を流れる水はやがてふつふつと泡立ち
全身をかける。

体が熱い……
耳元のブルートパーズが揺れる。

「ベッド……行こうか?」

もうその問いに答えられるはずは無く
私はきつく目を閉じ
ただ小さく首を横に振り
彼の背中にしがみついて
その時を迎える。



彼はどんな顔をして
崩れ落ちる私を見届けていたのだろう。

溶けだした意識の中
うっすらと目を開けると
私から引き抜かれた二本の指は
溢れだした体液にまみれ
彼はその指でジーンズのベルトを外した。

背徳の蜜 第8話

背徳の蜜 第8話

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-04-14

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