欲望の侵入

欲望の侵入

 
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※縦読み推薦です。
 
 

 

 うなだれるほどの暑さが続くある日の熱帯夜。電柱と寄り添うように身体を預けている僕には目もくれず、薄着のカップルが横を通り過ぎていく。コンビニ袋を手にぶらさげた女のショートパンツからスラリと伸びた小麦色の生足が、一瞬にして僕の視線を奪う。華奢な女が男に合わせて大股で歩くたび、日焼けをしていない真っ白な太ももの付け根が、ショートパンツの裾から恥ずかしげもなく覗いている。その日焼け痕を隣にいる男は飽きるほど見ているのだと思うと、なんとも羨ましい。僕はカップルが仲良く夜の闇に消えていく姿を、そっと電柱の影から見つめていた。
 僕は生涯、恋や愛とは無縁だ。きっとこのまま一人寂しく死んでいくのだろう。そう思っていた時、目の前にあるアパートの一室に灯りがついた。室内の熱気を逃がそうと窓を勢いよく開けたのは、可愛らしい若い女だった。女はそのまま窓を開けっぱなしに、部屋の奥へと消えていく。
 その瞬間、僕の欲求を満たすのは今しかないと思った。不用心な若い女がいらっしゃいとばかりに窓を開けっ放しにしている。これは今までにない絶好のチャンスだ。すぐ窓に駆け寄り、女の姿が近くにないことを確認し、僕は女の部屋へ侵入した。こんな大胆なことをして見つかってしまったらどうしようかと思ったが、この鼓動の高鳴りは恐怖でも緊張でもなく、今までにない好奇心だった。
 そして僕は出来るだけ身体を小さくし、物陰に隠れた。落ち着いて息を整えてから辺りを見回してみると、ピンクと花柄の家具で統一した若い女らしい部屋だった。僕がいるリビングの奥にあるのは寝室だろうか。今のうちに寝室のベッドに寝転がって若い女の匂いを嗅ぎたかったが、欲求を必死に抑えこみ、ひっそりと女が戻ってくるのを待つ。
 しばらくして、髪を濡らしたまま部屋に戻って来た女は、腰のゴムが今にも落ちてきそうなほど緩い薄ピンクのパンティーと、同じ色のキャミソール姿だった。開けっ放しの窓に気づいた女はカーテンを閉め、扇風機の前に「よっこいしょ」と呟きながらあぐらで座り込む。
「あぁ、暑い」と扇風機に向かって独り言をいう女は、遠目で見るより幼く見えた。部屋の幼稚さからしても、おそらくまだ十代だろう。僕は息を潜めながら目を見開き、女を隅から隅まで観察した。
 何より僕の目をひいたのは、白い肌でもなく、程よく肉付いた脚でもなく、むっちりとした尻でもなく、女のたわわな乳房だった。はちきれそうなほど膨らんだ風船のような二つの乳房は、生地の薄いキャミソールを限界まで押しのばしている。幼い顔とは似つかない恵体を前に、僕は興奮のあまり思わず息があがる。
 すると女は僕の隠れている方へとつぜん視線を向けた。慌てて息を止めると、女は何事もなかったように再び扇風機と見つめあう。こんなに最高な女の部屋に侵入できたのだから、見つかってしまっては勿体ない。僕は限界まで気配を消し、これからずっと女の行動を傍らで見続けることにした。
 それから、部屋に侵入して三日。僕は彼女の生活リズムが掴めてきた。朝八時に起きてバイトへ行き、夜七時には帰宅する。ほとんど料理はせずコンビニ弁当で済ませ、掃除洗濯は苦手だ。そのため洗濯カゴは宝の山になっており、僕は彼女が不在中その山に埋もれていた。この暑さのせいで汗をたっぷり含んだブラジャーはどれも湿っていて、我慢できずワイヤー部分に吸い付くと、塩気と彼女が使っているボディークリームの味がした。
 そしてパンティーのクロッチ部分は、カゴの下にあればあるほど強烈な臭いがした。僕が知っている臭いで似ているのは、クチナシが枯れる前の雌しべの臭いだろうか。もっと淡い臭いがすると思っていたため最初は驚いたものの、これがあの可愛い彼女から分泌された臭いだと思うと、やけに興奮した。
「今日こそ洗濯しなきゃ」
 いつもと同じ時間に帰ってきた彼女は脱衣所に直行し、要約あの山を一掃する気になったようだ。僕は少し残念に思いながらも、洗濯機を回した彼女がお風呂に入っている間、隠れる場所を寝室へと移す。寝室もリビングに負けずピンクと花柄で統一し、ぬいぐるみがベッドの枕上に所狭しと並んでいる。きっと彼女は猫好きなのだろう。猫のキャラクターのぬいぐるみばかりだ。
 僕はぬいぐるみたちの視線を無視し、枕に顔を埋めてみる。そして身体が破裂しそうなほど思いっきり息を吸い込んだ。枕カバーにしみこんだ彼女のシャンプーの香りは、バラの匂いがし、女の匂いに飢えていた僕の鼻腔をくすぐる。
 その時、浴室のドアが開く音がした。僕は体が跳ね上がるほど驚き、急いで物陰に隠れる。彼女は濡れた髪をタオルで拭き、下着姿のままで寝室へやって来る。白地に水色と黄色の花柄のパンティーと、豊満な乳房を隠すのには心細い薄手のキャミソール姿で歩いているのを見て、僕はここから飛び出して彼女の乳房を鷲掴みしたくなる。しかしそんなことをしては、この楽しい物陰生活が終わってしまう。一日でも長く彼女と一緒に居たいという気持ちのほうが勝り、僕は伸ばしそうになった手を更に奥へ引っ込めた。
 僕は彼女に恋をしている。この人生に縁もゆかりもなかった恋というものを、僕は今この物陰からしているのだ。
 彼女はテレビのリモコンと携帯を持つと、溜息をつきながらベッドへ倒れこんだ。すぐにテレビをつけたがバラエティー番組には目を向けず、次は携帯をイジり始めた。テレビ画面から笑い声が聞こえると視線をテレビへ移すが、内容を見ていなかった彼女は出演者たちがなぜ笑っているのか理解できないようで、つまらなそうな顔をして再び携帯を覗き始めた。
 洗濯機が軽快な音を鳴らして洗濯の終わりを知らせると、彼女は勢いよく起き上がって脱衣所へ向かう。カゴいっぱいの洗濯ものを両手で抱え、寝室からベランダへ出る。僕が驚いたのは、一階にも関わらず彼女が躊躇いもなく下着を干していることだ。防犯のつもりで下着の回りをタオルで囲ってはいるものの、彼女の顔ほどある大きなブラジャーの存在感は、全く隠しきれていない。これではご自由にお持ち帰りくださいと言っているのと同じだ。
 しかし、僕には注意する権限はない。せめて僕にできることは、一晩中かわいい彼女の下着が盗まれないようにベランダを見張っていることだけだった。

欲望の侵入

 
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欲望の侵入

若い女に恋をした男 その結末は、圧死

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
更新日
登録日
2015-04-14

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