光
お題「喋る◯◯」
いくら喋っても、言葉は通じない。
僕と彼女はいつだって一緒だった。
遊ぶのも眠るのも、ご飯を食べるのも、すべて一緒だった。
このままずっと彼女のそばにいられたらいいのに、何度そう思ったか分からない。
「ねぇリヒト、聞いてくれる?」
彼女は僕をリヒトと呼んだ。光だって、僕ははたしてそんな偉大なものになれていただろうか。
「今日ね、告白してきたのよ」
出逢った頃は小学生だった彼女は、気づけば高校生になっていた。昔僕に向けた笑みを、彼女は今、人間の男の子に向けている。見てるこちらが幸せになるような、暖かい笑みだった。
「なんて返ってきたと思う?」
きらきらと光る目を僕に向けて、彼女は楽しげに言う。
「"僕も好きでした"だって」
くすくすと笑う彼女を見て、僕は感じたんだ。
ああ、僕の役目は終わったんだって。
これからは、僕なんかよりももっと相応しい子が彼女を守ってくれるんだって。
にゃー、と彼女には伝わらない言葉で僕は言う。
"おめでとう"
彼女がどう感じ取ったのかは分からないけれど、にゃー、にゃー、と鳴く僕を彼女は抱きかかえてくれた。細いけれど、暖かなそこにいると視界がぼやけた。くわっとあくびをすると途端に眠気が襲ってくる。
おしまいなんだ。
命が尽きようとしている。そうわかっても、不思議と悲しくは無かった。
「眠たいの?」
いつものように彼女が顎の下を擽る。僕が昼寝をするのだと思ったらしい。
昼寝じゃないよ、これで終わりなんだよ。
声を上げるのも億劫になって、彼女の目を見つめる。
どれだけ彼女を思って話しても、僕の言葉は君には通じない。分かりきっていることなのに、なぜだか今は、それがとても悲しく思えた。
瞼が降ってくる。逆らおうにも、そんな力はもう残っていなかった。
伝わればいいのに。
最後の力を振り絞って僕は口を開く。
"大好きだよ"
けれど出たのは、ふーっという情けない音だけだった。
くたりと眠るように息を引き取ったリヒトを見て、少女は堪えるようにゆっくりと瞬きをした。
「大好きだったよ、リヒト」
言葉は通じないけれど、想いが伝わることはあるようだ。
光