喋るシャベル喋らないシャベル喋れないシャベル

シャベルは別に出てきません

森がある。空がある。山がある。川がある。岩がある。樹がある。
魚がいる。獣がいる。蟲がいる。鳥がいる。
空気がある。光が照らす。

そこにあるのは喋らないものでしかなくて、喋るものは私しかいなくて、どうやったってそこにあるのは孤独で静寂で。
風光明媚に照らされる情景もそれはただの静画でしかなくて、動くものはいてもそれも風景の一部でしかなくて、意志はどこにも見当たらなくて。
空はどこまでも青く、森はどこまでも青々しく、生き物は生命力に溢れる。
太陽は赤く輝き、川は透明に照り返し、岩は頑なにそこにある。
自然、天然、そこにあるものは人の手の及んでいないもので、人の手の及ばないもので。
人の、人工のものは私がつけた足跡しかなくて。
それはとっても安穏とした空間で、木漏れ日に照らされて、兎は飛び跳ねて。
私だけが混ざり切れなくて、不純物で、純粋さを損ねていて、きっとそれが人間ということで。
つまり、何が言いたいかというと、このしじまにうかぶ無声のおしゃべりは、私には聴こえないんだろうなということで。
喋れるから喋れるのではなくて、喋れなくても喋っているのであって、喋るものにそれは捉えられなくて、でも彼らにはどちらも捉えられて。

ただ彼らは私を見ている。

喋るシャベル喋らないシャベル喋れないシャベル

喋るシャベル喋らないシャベル喋れないシャベル

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-13

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