ウェルカムボード
古い振り子時計が鐘を鳴らす。
その音で夢の世界から帰ってきた店主が同じ体制のまま、手元にある小説をパラパラとめくる。
規則的に鳴っていた振り子時計の鐘がぴたりと止まった。
店主が一仕事終えた振り子時計の針に目をやると、短針が地を差し、長針は天を指していた。
午後六時、秋の装いを済ませた太陽は、月に仕事を任せ、さっさと地平線の彼方へ帰って行っていた。
店主は眠い目を擦りながら、手に届く範囲にあるランプに光を灯す。柔らかく、頼りない光が狭く、カビ臭い部屋に広がる。
店主の歩く道には、煤けた本が背を向け規則正しく並び、覆い被さるように天井まで列が出来ている。
店主が一つの本棚の前で立ち止まった。目の前の本棚には、白い背表紙の本が疎らに並んでいる。
店主は手に持った本を閉じ、本棚に大切そうにしまった。
その本も、表紙に何も書かれていない真っ白なファンタジー小説の本だった。
店主は満足したように頷き、来た道を後戻りした。
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