石蹴りワンダーランド
お題小説。
『そら』
学校が終わった。僕は正門まで走る。
ランドセルがガタガタ喚いているけれど、そんなことには構ってやれないや。
正門の左右に置かれた花壇。そこに放置された雑草の中に手を伸ばして草をかき分け、指先に当たる冷たい感触を探した。
――あった!
三角でもなければ、四角でもない。
楕円でもなければ、丸でもない。
登校時に削られて柔和になった、今日の主役の大きめの石。
誰にも取られていなくて、僕は安心した。
西の太陽がまぶしいや。かざした手をなかなか下ろせない。そうだ。下を向いてみよう。
足元に石を置いて、蹴ってみる。
一回目。
振りかぶり過ぎて、靴の裏が石をこする。これじゃあダメだ。
二回目。
ちろっとつま先が石に当たって、コロンコロンと二回転。うん。なかなかいいかも。
三回目。
アスファルトに靴の裏を滑らせながら、石のお尻を確実につかんだ。
高い半円を描いて、石はカツンとアスファルトに触れた。
また少し飛び上がって、着地音はしなかった。
慌てて石の後を追ったんだ。だってさ、今日は同じ石で往復できる気がしたんだもん。
建物の脇、
止めてある自転車の下、
ガードレールの外のL字溝、
何処を探しても無くて、涙が出そうで俯いた。
――これは、あの石だ。
足元の水たまりに石が浸かっていた。
取り出そうとしてしゃがみこむと、幼い僕の顔が浮かんでいた。その後ろに現れたのは薄い月。
顔は疲れているのに、目は元気な僕と、真っ赤な太陽がそこにあるのに、水たまりに浮かんいる月。
似ているようで似ていない。
水たまりのカラの中で繰り広げられるイタチごっこ。
その時ふと思い出したんだ。アニメの歌詞にあったイタリア語を。
そう。確か月はルナで、太陽は……イルソーラ。
空の中にルナがいて、空の中にイルソーラ……って、オヤジギャグみたいで面白い。 僕は一人で笑った。
毎日の日常の中に、ひょっこりと顔をのぞかせた二つの世界。まるですれ違いの位置のように、ずっと交わることはない。
この奇跡を、誰か見つけてくれるだろうか。
だから僕は、石を残した。二つを結ぶ鍵の石を。
スッキプしながら家に帰った。
今日の発見に胸を高揚させながら、CDプレイヤーの電源を入れる。流れてくるのはアニメの曲。月は、ルナ。太陽は……
――オヤジギャグにはならなかった――
石蹴りワンダーランド
散文詩のつもりです。
自分の小学6年生の頃の体験をもとにしました。
ちなみに太陽は、イル ソーレ(Il sole)
アニメの曲……「白旗」でピーンときた方は握手しましょ。