そら

暗い目をした女の子だった。俺にしか守ってあげられない存在だと思った。俺が助けてあげるんだと、使命感を覚えていた。だから彼女を俺のものにしたくて、焦がれて焦がれて、これが恋だと信じるほどには辛く胸が痛かった。そうして俺は自分の衝動のまま告白をして、彼女を「俺の彼女」にすることを許された。
「デートしようよ」
一回目のデートは図書館がいいと決めていた。それは何故かって俺は読書が好きではないのに対して彼女が読書を生活の一部のように大切な時間だと思っていること知っていたからだ。俺のことなんかどうだっていい、彼女を喜ばせられればそれでよかった。
しかしいざデートしてみると、彼女はいつだって俺以外の何か、しかも俺には想像できないような何かを考えているようで、俺と居る時もうわのそらだった。
「ねえ」
たまらない気持ちになって思わず声をかけた俺の顔はきっと必死の形相だっただろうと思う。でもそれほどまでに焦っていた。彼女を喜ばせるつもりでここに来たのに、どうして彼女はなんの反応も見せてくれないのだろう。
「なに?」
彼女が髪をかきあげ、本から顔を上げてこちらを見て、そして俺の目をまっすぐ見ながら首を傾げる。完璧な動作だった。
「……図書館、あんまり楽しくない?もっと別の場所に行きたかった?」
「別に。ここでいいよ」
そっけない返事。俺は返事をするのも辛くなって、読んでいた本を置いて図書館の外に出る。外に出ると涼やかな空気が肺に送り込まれてきて、なんだか頭がすっと冴えてゆく気がした。
うわのそらだった彼女を、少しでも喜ばせたくて来たはずなのに、どうしてこんな俺はいらいらしているのだろう。結局俺は自己満足で、自分の彼女が自分を構ってくれないことに拗ねていただけなのではないか。
慌てて走って彼女のもとに戻る。彼女はさっきの場所から少しも動かず、本を読みふけっていた。
「ごめん!」
俺が息を切らしながらそういうと、彼女は本から目を離すことなく聞く。
「なにが?」
「いや、俺の気持ちだけでここに連れてきたから……」
彼女がバッと顔を上げる。そして俺をにらみつけるようにして言う。
「ばかいってんじゃないわよ、私が一番楽しい場所、ここだって知ってて連れてきてくれたんでしょ」
俺は彼女に気持ちが伝わっていたことが嬉しくて、そしてうわのそらだった彼女が俺をちゃんと見てくれたことに嬉しくなって、とりあえず彼女に抱き付いておくことにした。

そら

そら

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-12

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