独白

お題「そら」
短いです。

  
 取り壊し途中で放置されたビルの縁に座り、宙に投げ出した足を揺らす。八階建てのビルの屋上から見下ろした先には、コンクリートの建造物が立ち並ぶ街があった。人や車が忙しそうに行き来している。米粒とまではいかないが、それなりに小さな点に見える人の数にうんざりして、俺は空を仰いだ。
 見渡す限りの青。視界を遮る雲の姿はどこにもなかった。
 澄んだ冬と春の間の空気を吸い込めば、これから飛び降りようとしている事実がばからしく感じてくる。
 雨とか曇りとか、もっとじめじめした天気ならその所為にできたのにな。
 日向日和のポカポカ陽気に照らされて、俺は溜息をついた。
 どうしてこんな天気の日に飛び降りなんてしなきゃならないのか。
 嫌ならやめればいいと思うだろう。だが、そうもいかないのだこれが。
 誰に向かって言っているのかも分からない独り言を、俺は空に向かって吐き出した。
 原因や理由なんてどうだっていいんだ。そんなのは黙っておけば警察が勝手に考えてくれるのだから。大事なのは、これから俺は死ぬっていう事実だ。いいかい、これだけは覚えておいてくれよ。俺は死ぬんだ。このちっぽけで空っぽな街から抜け出すんだ。
 それだけは、覚えておいてくれよ。
 一面の青に向かって声を張り上げ、俺は空を飛んだ。

独白

独白

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-12

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