止まり木

僕は君が傷ついた理由にさえ興味がない

久々に彼女から会いたいという内容のメールがきた。
彼女が僕に会いたいと言う時は大抵理由が決まっている。

「旦那との喧嘩…もしくは旦那の浮気癖がまた再開したのだろうか…。」

などと考えながら彼女にいつものカフェで20時に待つ様メールを返し、
オフィスに自分だけの事を確認して静かに息を吐き出した。

僕と彼女は元部下と上司の関係だった。
僕が部下で彼女が上司。
下っ端だった僕に彼女は初めての部下だったからか誰よりも親身になってくれた。
そんな彼女にただの若造だった僕が惹かれるのに時間は掛からなかった。
彼女はすぐにはいい返事をくれなかったが、
半年アピールし続けてようやく折れてくれた。
会社には秘密にし、
お互い会社内ではあくまで部下と上司の立場を崩さなかった。
それでも幸せだった。
彼女を愛していたから。
でも、彼女は違っていたらしい。
交際4年目、彼女は寿退社した。
相手は彼女の同期の中で一番の出世頭だった。
彼女との交際は8年。
…僕は二股を掛けられていたらしい。
我ながら笑える。
4年も付き合っていて何も疑っていなかったんだから。
彼女は最後の夜に言った。
「君の事は大好きだけれど、一緒になるような相手では無かったよ。」
結構重い言葉を残して彼女は僕の前から消えた。
僕と彼女の関係を知っていた一番信頼している同期は僕の代わりに怒り、
彼女の婚約者に暴露しようとしたが、僕が止めた。

「今でも彼女を愛しているからやめてくれ」…と。

同期はビールを一気飲みしてから口を開いた。

「お前は人が良すぎる。
いつかまたあの女に利用されるぞ!!」と…。

本当に、この同期の言う事は当たりすぎて怖い。
現に今も彼女の慰め役をやっているのだから…。

―PM8時 カフェ―

仕事を済ませ、急いで彼女の待つカフェに急いだ。
人が疎らな店内に彼女は居た。
昔と変わらない笑顔で僕を迎えてくれた。

「久しぶり~元気?」

「久しぶり。そこそこ元気だよ。
そっちこそ最近どう?」

「うーん…ちょっとね…」

「何かあったの?」

「綾人…ううん、旦那がね…浮気してるみたいなんだ…」

…当たった…。

「また?これで何回目だよあの旦那。」

「本当にね…。最低の旦那だよ…。」

「今回の相手とかわかってんの?」

「うん…。」

「どんな娘?」

「今年の新入社員さんみたい…。探偵さんが言ってた…。」

「へー…別れる気はないの?」

「無いよ…できない…。」

「そっか…。」

『新入社員…最近あのおっさんと仕事する機会の多いあの派手目女史かな…。』
などと考えていると彼女は泣きだした。
いつものこと。
彼女は自分の事を棚に上げて旦那だけを責めている。
ここにあの同期が居たら彼女を張り倒しているだろう。
もちろん僕の事も。
僕はいつものように彼女を見ながらあの言葉を吐き出す。

「とりあえず、今日はどうする?」

僕の言葉に彼女は肩をピクリと動かしてから何かを期待するような目で僕を見た。
昔と変わらない。
彼女は僕を利用したがってる。
旦那の浮気という現実を忘れるために、心の寂しさを埋めるために。

「旦那にはお友達と泊まるって言ってある…。」

―やっぱりね―。

「ならよかった。そろそろ店を出よう?
僕のうちでもいいかな?」

僕は席を立ちながら言った。
彼女はうなずくと同じく席を立つとすぐに僕の腕に抱き着いてきた。

「ありがとうね…」

「別にいいよ、慣れてる。」

彼女のか細い感謝に答えた。
僕は感謝の言葉なんていらない。
僕は心のどかで早くあの男との結婚生活なんか破綻してしまえと、
早くあの男を捨てて僕の元に来いと、
彼女にとっての不幸を願って止まない、
彼女の旦那と同等に酷い男なんだから。

止まり木

久々に書いたらやっぱり暗くなってしまいました・・・。
読んでいただきありがとうございます。
お気に召せば幸いです。

止まり木

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更新日
登録日
2015-04-12

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