儚い女の子が友達に元気づけられ、成長し、
恋に発展する悲しくも温かい物語です

ある春の日

私は、悲観した。

高校二年生の一学期、

始業式も終わり、

クラス替えがあったにも関わらず

仲が良さそうな振りをする

クラスメイト達。

騙された振りをして、

元気が良くて大変なクラスだと

呆れる教師。

こんな中で私はやっていけるのか、

と不安になった。

私は、友達がいない。

臆病な私は他人と深く関わって、

傷つけてしまうのが

怖くて仕方なく、

他人を拒絶してきたからだ。

そんな恐怖心の塊でしかない私には

針澤 琳夢(はりざわ りんむ)という名前がある。

拒絶し過ぎたせいか、

「冷血針」という仇名をつけられ、

時々嫌がらせをされている。

臆病な私は心が折れていく。

それでも、

他人に迷惑をかけていない事に

安堵し、この生活に満足していた。

すぐに崩壊することなど

全く予想もせずに。

会話

今日も無視をされ続ける。

嫌がらせがないだけ、

嬉しかった。

そして、いつも通り

授業始めのチャイムが鳴る。

そこで、教科書を忘れた事に気付く。

先生に言うタイミングを逃し、

俯く事しか出来なかった。

こんな時、皆ならば、

隣の席の子に見せてもらうのだろうか。

そんな思考に辿り着き、

隣を一瞥する。

隣の席の子は確か、

鳴滝 蓮(なるたき れん)、という名前で

いつも周りに人がいる。

誰からも好かれる人だ。

「教科書忘れたの?」

彼は私に声を掛けた。

突然の事で、慌てながら頷く。

それが、彼との初めての会話だった。

友達


鳴滝君に教科書を見せて貰う。

誰かに頼るのは久しぶりの事で、

私は少々戸惑った。

それと同時に嬉しくて、

胸が高鳴る。

私に嘗て友達がいた頃のように。

様々な感情を巡らせることを止める

終わりのチャイムが鳴った。

「あの、鳴滝君。」

私は勇気を出して声を掛ける。

「何?」

鳴滝君は訝しげに聞き返す。

「ありがとう…ございました…。」

やっとの思いで声を絞り出して、

立ち去ろうとすると

「どういたしまして。」

彼は爽やかな笑顔で言い、

私の記憶を塗り直した。

変化

結局、それから六時間目を過ぎても

彼とは話せない。

放課後、職員室に用があった私は

早々と用事を済ませると

教室に鞄を取りに行く。

すると扉の向こうから声が聞こえる。

「冷血針って性格悪いよね。」

一人の女子がそう言い、

複数の女子が笑った。

悪口合戦は続いていく。

「蓮と今日話してなかった?」

「何それ、気持ち悪い。」

話しただけで気持ち悪いのか、

と私は内心笑った。

扉の前で立ち止まるのも

惨めになって逃げようと思った。

「おい。」

先程聞いた声が教室に響くまでは。

小雨


真っ白になった頭の中に、

鳴滝君の声が届く。

「針澤は良い人だよ。

それに俺と話してて

何が悪いの?」

柔らかい言葉で、

だけど

悪口を言っていた女子を

突き放すような口調で

私を守ってくれた。

それだけで充分だ、

と思いで深呼吸をして

教室へ入った。

「冷血針!?」

複数の女の子達は声を揃えて言った。

鳴滝君や、他の男子も

目を見開いている。

「気にしてない…ですから。

私の悪口を言って嬉しいなら

それで大丈夫です…。」

私は早口で言うと、

素早く鞄を取って

学校から出る。

後から追ってくるような気配がして

雨の中を傘もささずに走った。

本当は傷ついていることを

皆に隠しておきたくて。

未定。

未定。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-12

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  1. ある春の日
  2. 会話
  3. 友達
  4. 変化
  5. 小雨