Happy Birthday
Happy Birthday
「HappyBirthday toyou HappyBirthday toyouHappyBirthday dearーーーー」
そうか、もうそんな時期になったのか。
甲高いチャイムの音と同時に目覚めた少女はそんなことを考えていた。
そもそも誕生日って祝わ無いといけないものなのだろうか?いや、そんなことは無いはずだ。きっとそうだ。だって誕生日なのにプレゼントをもらわない人だって居るだろう、だから私もそれの一種なんだと思おう。
「じゃないと体が持たなくなるわ」
今は五月、初夏真っ盛りのグラウンドで少女はアイスを食べていた。
「やっぱり夏はアイスに限るわ」
ソーダ味のアイスを頬張りながら少女はこれからの将来を考えている、少女はもう高校3年生で大学受験がすぐそこだ、そして唐突ながら少女には「友達」がいない。全くの皆無である、しかし少女はそんなことを気にも泊めない。なぜなら
「私がーーーーーーだからでしょう」
決まっている運命には逆らう事は出来ないのだと幼少期どこぞの修道士様とやらに教えられた気がするが、そんな記憶が曖昧なことを今更思い起こせるほど少女の脳味噌は柔らかくはない。
今思えば、あの時の出会いは必然で偶然だった様に思う。
9月20日の日の事だった。少女は何時もの様に何時ものベンチに座って何時ものアイスを食べていたとき「ソレ」は来た。
「す、、すみません、、貴女のお名前を教えて頂けませんか、、?」
足元で転がりながら少年が話しかけてきた、
「私に話しかけるなんて、貴方も変わり者ね」
「僕貴女の事良く知らないから、、皆が何で貴女を恐がるのかも憎むのかも」
照れながら笑う少年を少女は些か冷たく見下ろす。
「嗚呼、貴方は知らないのね、私がーーーーーだってこと」
「えっ、貴女はーーーーだったんですか!?」
初めて知った人間は大抵そんな間抜けな顔をする。噂という名の真実は尾ひれをびらびらつけながら私の周りを泳ぎ出したそんな頃にも慣れたのは何時だったか、
ならばいっそ貴方にも
「嫌われてもらおうかしら?」
「え?何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
やっぱり夏はソーダのアイスが口に良く合う。
夏を過ぎて秋になり、貴方は懲りずに私のそばに居続けた。
「もう秋なのに暑いですね~」
「そうね」
会いも変わらず私達はそんな冷たい会話を交わしていた。
「貴女の誕生日は何時なんですか?」
嗚呼、止めて、お願いだからその話だけは
「たん、じょうびなんて」
「貴女にも有るんでしょう?誕生日っ!」
祝わせてください!だなんてそんな事、「私」には無理な事だから
「無いわ」
「・・・?」
こてん、と首を傾げて少年がもう一度聞いた
「誕生日は何時ですか!?」
「だからー「ありますよね!!」
ったく、これだから味噌のない奴は
「だから、誕生日なんて無いの私には」
あんなもの、祝われたくも無い。うっとうしいわ あんな
「羨ましい・・・」
「えっ!えっ?今なんてっ?」
・・・口に出たのね私の馬鹿。貴方の後ろから尻尾と耳が見えるわ、、
「いえ、何でもないわ」
「今羨ましいっておっしゃいましたよね!」
何でもないわ、と言っている筈なのだけれど
「さすが犬ね・・」
「ぼ、僕は犬じゃないですよ!」
聞こえていたのね、何と耳の良いことかしら、、
「とにかく、私の誕生日なんて祝わなくて良いから、気にしないで」
「っ、でもっ」
良いの、と手を少年の前へ出す。なにかまだ言いたげであったがあえて無視をした私を許してほしい。
「じゃあ僕は帰りますね、それじゃあまた明日」
「えぇ、じゃあまた」
去っていく貴方の背中はとても寂しく見えた。
「・・ごめんなさい・・ごめんなさい」
自然と懺悔の声が出るのは私が罪悪感を抱いているから、貴方だけじゃないの
「私は、沢山の人を」
傷付けた。私の存在が、
「私が生まれたせいで」
9月30日
貴方は学校に来なくなった。来なくなって
「もう5日」
私があんなことを言ったからだろうか?何時ものベンチでソーダ味のアイスを食べながら私は少々焦っていた。謝らなければ為らない、謝らなければ、
「でもどうやって」
私は貴方の住所も、名前だって知らない。
ぽろ、ぽろぽろぽろ 宝石の様に涙が次から頬を伝った。
「あ、嗚呼、、私はこんなにも貴方の事を」
大切に想っていたなんて
私は何時も何時も気づくのが遅すぎる。
ごめんなさい・・ごめんなさい
気付いたら日が暮れていた、
「まだ私ベンチに座って居たのね」
「もう、こんな時間に寝てたら風邪をひきますよ~?」
まだ私は貴方の幻聴を聞いているのかしら、
ゆっくりと、顔をあげる。
「何ですか?僕の顔に何か付いていますか?」
えぇ、えぇ、付いていますとも
「貴方が、何で居るの?」
「僕がなんで居るか、ですか?それは、」
私の顔をその大きな目で見つめる貴方は
「貴方が大好きだからです!」
これまで生きてきた私が見たことの無い笑顔でそう言った。
だから、貴方にもだけは
「私の、誕生日は」
勇気を出して、言ってみようか?
「ーーーーーーーーー」
言ってやったわ、私の誕生日。見てみなさいあの嬉しそうな顔
「っっ!!」
ぎゅっ、と抱きしめられて分かる人の温もりに私は初めて人からの「愛情」を感じた。
「僕、長い間休んでいてごめんなさい」
「何で、休んでいたの?」
「これを、渡すためにですね、あの~その~えっとぉ~」
後味悪く少年が手元をもそもそと動かして出して来たものは、、
「これです」
その手には、
「ネックレス?」
はいっ!っと言って私の首につけたネックレスがきらきらと輝く。
「何でこんなものを、私に?」
私はプレゼントを貰う様なことを貴方にした憶えは無い筈だけれど。
「なんでって、誕生日を祝おうと、、したから?あっ、でも僕貴女のお誕生日知らないやっ!どうしようどうしよう」
焦っている所なんて愛らしい生き物なの貴方
「ありがとう。プレゼントなんて言われて貰った物って無かったから、嬉しいわ」
「もうっ!これから僕が毎年といわず毎日あげますからっっ!」
そう大声で言った貴方が私は面白かったらしく、らしくもなく泣くまで笑いっぱなしだった。
暫くの心地好い沈黙が二人の間を通り抜ける
「お誕生日、おめでとうございます、僕 貴女の事が大好きです!」
「・・・私も好きよ、貴方の事」
あ、そうだった。
「貴方、私の名前は何だって聞いてきたわよね?」
「?はい」
「良いわ、特別に貴方にだけ教えてあげる」
私、本当の私の名は、、
「私の名前は黒曜」
「黒曜さんっ!これから宜しくお願いします!」
暖かい風が通り抜ける10月の事だった。
Happy Birthday
HappyBirthdayネタにしようとしたらこの有様です。
自分の表現力を恨みますね、