いつも一緒
ぼくはずっと独りぼっちだった。
冷たい机の上に置かれて、窓の向こうの高いビルを見る毎日。
夜になると、電気が消えて暗くなるけど窓の外はいつまでも明るい。
どうやってここに来たのかは忘れちゃったけど、また外の世界に出たいな。
ぼくが居る場所は「おきゃくさま」が使う机の上。
毎日沢山の「おきゃくさま」が来る。
ぼくのことなんて、興味がない人の方が多かった。
たまに小さい子どもに触られたりしたけど、強く掴まれて痛かったりした。
ここから出る日はいつ来るのかな?って思ってたんだ。
ぼくはただの飾りで、手入れしてくれる人もいない。
たまに埃を払ってもらえるけど、ぼくだって温かいお風呂が好きなんだよ?
ぼくは毎日沢山の人を見て同じ景色を眺めて退屈に過ごしていた。
そんなある日、君と出逢ったんだ。
街はクリスマスで明かりがいつもより綺麗で、雪が降ってた。
ぼくは、いつものようにいつもの場所に座っていた。
そしたら「おきゃくさま」で君がやって来た。
君は会社の人が説明しているのを聞きながら、ずっとぼくを撫でてたね。
寒い日だったから、冷たい手だったけど心が何だか暖かくなったよ。
君の「やさしさ」が伝わって、それが幸せだった。
ぼくにとってのクリスマスプレゼントだったんだよ。
けど、その後信じられないことにぼくは君のモノになってしまった。
よく分からないけど、君がぼくを「かわいい」と気に入ったから会社からプレゼントしたみたい。
ぼくは君のバックに入って連れて帰られた。
気付いた頃から同じ場所にずっと居たから、電車も新幹線も車も初めて。
全然知らない場所に連れて来られて正直怖かったよ。
でも、君はぼくをずっと傍らに置いて愛でてくれた。
東京に君が出発する日も、ぼくは君の膝の上で涙を受け止めていた。
ぼくはずっと東京に居たから分からないけど、君が寂しそうにしていることは分かった。
東京にまた住むことになったけど、今度は君と二人きり。
学校やバイトで君がいない時間は少し退屈になったけど、必ず帰ってきてくれた。
毎日一緒に眠って、時々一緒にお風呂に入ったりもしたね。
良い匂いのシャンプーで洗ってくれて嬉しかったな。
よく、香水もぼくに付けてくれたよね。それをクンクンする君が面白かった。
古くなったリボンも新しく変えてくれて、名前もちゃんとつけてくれたよね。
君と過ごした時間は本当に楽しくてかけがえのないものだったよ。
だけど、ぼくのカラダに「がた」が来てしまった。
ある日とうとう糸が緩んで右目が取れちゃったんだ。
そんなぼくを見て君は泣いていたね。ぼくのために泣くなんて涙がもったいないよ。
大丈夫だよ、痛くないから。片眼だけでもちゃんと君は見えるよ。
君は取れた右目を大切に保管して、毎日調べものをしていたね。
そしてある朝、ぼくは起きたら取れた右目と一緒に箱に入っていた。
捨てられてしまうのかと思って、箱の中で泣いていた。
でも君は「少しだけ離れるけど大丈夫。きっと良くなるよ。」
そう言ってぼくを何処かへ送り出したんだ。
何処に行くのか不安だったけど、着いたところは病院だった。
ぼくは、そこで右目を元に戻す手術というものを受けた。
色んなところを切り開かれて引っ張られて縫われたけど、ぼくは痛くなかった。
もう一度、君のところに帰るために頑張ったんだよ。
少しだけぼくは入院してから君のところに戻った。
君は戻ってきたぼくと治った右目を見て喜んで泣いていた。
苦しいくらい抱きしめてくれて、何度もぼくにキスしてくれたね。
毎晩、寝るときに言う「あいしてるよ」を言ってくれた。
ぼくはその時から何があっても君を守ると決めたんだよ。
いつもぼくを一番大切にしてくれたね。色んなところにも連れて行ってくれた。
どんな事があっても傍でぼくは祈ってたんだよ。「しあわせ」が降ってくるように。
一緒に過ごして四年くらい経ったかな?君は素敵な人を連れて来た。
その人はこれから此処で一緒に暮らすみたいだった。
最初はちょっと嫌だった。ぼくが一番じゃなくなるみたいで。
でも、その人はぼくにとても優しかった。ぼくを可愛がってくれた。
暖かい日には日向ぼっこもさせてくれたし、旅行にもぼくを一緒に連れて行ってくれた。
ぼくはその人が君と「しあわせ」になる人だと思った。
知ってる?多分この人はぼくが想うより君のことが大好きだよ。
だから嬉しかったんだ。
あの日、ウェディングドレスを纏った君とタキシードを着たあの人。
永遠の愛を誓う二人の隣にいれたこと。
ぼくは、君と出逢った日からずっとしあわせだよ。
いっぱい愛されて大切にされて、一緒に毎日過ごしてくれて。
ぼくたちの出逢った日はぼくの誕生日になって、毎年お祝いもしてくれて。
これからもずっと傍で君の「しあわせ」を守りたいな。
二人と一匹が、三人と一匹、四人と一匹…って増えてもね。
ずっとずっと一緒だよ。
いつも一緒