鬼の目にも涙
人は死ねばまず地獄に逝く。そして己の罪を裁かれる。ならばー
電車の中でふとサトコは考えていた。
あの時どうしていたら私は助かっていただろうか。でも考えたって仕方がないとも理解している。だってもう私はー死んでしまったのだから。
「イシダ サトコさん、願い事は決まりましたか?」
見た目20代後半の男はやさしそうに笑いかけながら、私に尋ねる。
「・・・願い事といわれても、死んでしまってはもう何も望みなんてないわ。」
昔から何も考えないでただ親の作ったレールに乗って生きてきた私は自分のことになにも執着なんてない。ただ言われた通りに生きてきた。
頭の固い両親に育てられ、必死に勉強し、親の望む会社に勤め、そして親の決めた相手と結婚する。そう思っていたから自分がしたいことなんて考えたことがなかった。
「だから、私もう地獄に逝っていいわ。」
「それはだめなんですよ。さっきも説明したでしょう?地獄の裁きは大変つらい。なので、閻魔大魔王様が人が死んだら願いをひとつ叶えてあげると決めてしまったと。」
「閻魔様ってそんな慈悲があることに驚いたわ。」
「慈悲がありすぎて人を裁くことに対して罪悪感を感じて裁けなくなるほどですよ。だから、その罪悪感を減らすために考えたんでしょう。」
ため息をつきながら男は手帳を開く。
「願い事決まりましたか?何かしたいこととかないですか?」
ペンを手に持ちくるくる回し、男は早口で聞く。
「したいこと・・・」
考えていると女子高生が電車の中に入ってきた。もう、下校時刻なのだろう。楽しそうに友達と笑いながら、今からどこに遊びに行くか算段している。
私の高校時代は勉強だけで友達と遊んだ経験もない。
「いいな・・・」
女子高生達は私の通った高校と違いかわいい制服を身にまとい、薄くだが化粧もしている。おしゃれでとてもかわいい。
大人になって社会人となった私はおしゃれについてなにも勉強してこなかったから、化粧もほぼせず、髪も黒でただただ無駄に伸びた髪をゴムで1本に結んでいるだけ。
「高校時代、あの子達みたいにおしゃれしてみたかったなぁ。で、寄り道とかして遊びたかったなぁ。」
電車のガラスに映る自分の姿に飽き飽きする。
「それが、望みですか?了解しました。」
男は手帳にその望みを記入する。
「えっ待ってだから・・・・」
願いなんてないって言っているのにとそう言おうと男に向かい合ってサトコは驚いた。
電車の窓に映る自分が高校生の姿であることに。
「なんで、は??」
「願いを叶えますって言ったじゃないですか。高校時代に戻っておしゃれしてみたいんでしょ??さぁ、まずは美容院ですかねぇ?」
サトコには何も話させずに男は手を引きずんずん歩いていく。
「待って・・」
そう言おうとしてサトコは周りの人たちに見られていることに気づき、俯いた。
周りがなぜ注目しているか理解したからだ。
地獄からきたこの男無駄に美形なのだ。そのため、何でこんなさえない女といるのか、手をつないでいるのかと言いたいけど言えないでいるのだろう。
「・・・はいはいだ。」
サトコは自分がかわいくないことなど理解している。だからしょうがないことだとは頭では理解しているが、イラつかないことはできなかった。
「どうしました?」
男は何もわかっていない顔でサトコと顔を見る。
「何でもないです。」
サトコはツンと答えた。
「いらっしゃいませー」
おしゃれな美容院になど来たことがないサトコはきょどった。
こんな狭い空間に美男美女が多すぎる。
しかも鏡がたくさんあるために自分が場違いなのがすぐに理解できた。
「今日はどういった感じにします?」
場違いであることなどまったく気にせずにやさしくきれいな女性の店員さんが話しかけてくれる。
「最近の子みたいにおしゃれにしてくれます?あと、化粧もしてくれませんか?」
男が淡々という。
「はい、わかりました。」
店員さんが頷き、私の髪を切り始めた。店員さんの手もマニキュアがすごくきれいでボーっと見つめていてしまい置いてけぼりとなっていたけど。
まって、私がおしゃれとかしてもどうにかなるレベルじゃないし、逆にがんばってますねーって鼻で笑われるのが落ちに決まっている。
そういいだしたいけど、もういまさらそんなこと恥ずかしくて言えるはずもない。もう、できるだけましに普通ぐらいになれるよう願うしかない。
そう思いサトコは目を閉じて現実逃避をすることにした。
「終わりましたよー、でも最後につけまつげしたいので目開けてもらってもいいですか??」
そういって店員さんの顔がアップで近づいてくる。
店員さんは近くでも完璧なほどきれいだとか考えているうちにあっという間に目のほうの化粧も終わってしまった。
そうして店員さんが目の前からいなくなり鏡に」映る自分をみて驚いた。
髪もくるくると巻かれており、さっきみた女子高生たちのようにおしゃれな女子高生に自分が見える。
「さすが、プロ・・・・」
そういってふと自分の指を見たら、かわいい桜をモチーフにした付け爪が着けられていた。
「かわいい」
「それ、あのお兄さんが付け爪してあげてくださいって言われたんですよ。わたしの見てたからって。素敵な彼氏さんですね。」
小声で店員さんが教えてくれた。
サトコは俯きながら男のほうへ向かう。
「かわいくなりましたねー。さて、では、寄り道はどこがいいですか?カラオケ?カフェ?」
男の人に言われなれてない言葉を言われサトコは自分の顔が熱くなっていくことを感じた。
「あーでも、せっかくかわいくなったのにその制服がかわいくないですよね?服買いに行きましょう。」
どんどんと男は話を進めていく。確かに私の高校時代着続けたこの制服は地味でぜんぜんかわいくない。
「せっかくかわいくなったんだし、かわいい服着ましょ。」
そう言って男はまたサトコの手をつかみずんずん進んでいく。
「まって、お金は?」
「払いましたよ?」
「え?どう・・・・?」
「あなたの財布で。」
「いつのまに?」
「地獄にお金は持ち込めませんから、使ったほうがいいですよ?」
「・・・・あははっはっはははは」
サトコはしばらく笑い続けそして「確かに」っとつぶやいた。
そして、服屋さんに着いてさっきから思っていた疑問を男にぶつけてみる。
「ねぇ。あなた、会った時鬼だって言ってたわよね?何でこんなに現世に詳しいの?」
「・・・・地獄で現世の勉強をするんですよ。」
ぐにゃりと男は変な顔で笑った。
「現世のおしゃれも?」
「はい。あっこのワンピースよくないですか?爪とおそろいの桜ですよ。」
そういってサトコに差出しぐいぐいと試着室に押し込んだ。
「えっちょっと・・・」
強引・・・そう思いながらサトコはいそいそと着替え始める。そしてふと思い出す。
この男に会った数時間前を。
その日もいつもどおりの朝だった。
いつもどおり起きて、いつもどおり会社に向かい、その後営業周りのため会社を出て電車を乗った時だった。
前々から不動脈やめまいがすることがあったけど気のせいだと無視してきた罰だろう。私は電車の中で立ちくらみがしてそのまま倒れた。
脳梗塞でもう一瞬で死んでしまったらしい。
若いのにと泣く両親が見え、寝ている私の姿も見えた。死後の世界って本当にあるんだなぁとかのんきに考えていたときにいきなり目の前の視界がゆれ私が倒れた電車の中に私は戻っていた。
「・・・夢だったの?」
わけもわからずに私がぼそりとつぶやくと
「いいえ。現実です。イシダ サトコさん35歳。4月9日15時33分脳梗塞で死亡。予定通りに。あなたは等活地獄逝きですね。」
「は?あなただれ?」
「私は鬼です。死者を地獄に連れて行く、ただの鬼ですよ。」
ニコニコと愛想よく男は答えてくれた。
「鬼?等活地獄?」
「はい、あなたの人生を見てあなたの落ちる地獄は等活地獄かと。」
「・・・どうして?わたし罰せられることなんてなにもしてない・・・」
「虫を殺したことないですか?」
「それが罪?」
「はい。命は平等なので。安心してください。地獄に逝かない人はいませんから。」
なにを安心しろというのか意味がわからない。
「そう。地獄にはどうやって逝くの?」
「騒がないんですか?たいがい騒ぐんですけどここで。」
「無駄なことはしないの。」
「困りました。大抵ここで騒いで話が進むんですが・・・まあいいです。サトコさん望みはありますか?」
そう言って男は長々と説明しだした。
地獄での裁きはとても辛くそれを裁く閻魔様の慈悲により死んだ人間の願いを1つ叶えると。
「サトコさんどうですか?」
そう言って男は試着室をノックする。
「・・・これにします・・・」
サトコはそういいながら俯いた。
「思った通り似合っています。」
にこにこと男は笑う。
こうしてみると鬼とは思えない。普通の人なのに。
「ありがとうございます。」
「さて、どこいきますか?」
「・・・・・・・カラオケ・・・・・・・」
「了解です。」
またまた男はサトコの手をぐいぐいと引っ張っていく。
「まって、お金・・・」
「はらいましたよ?」
「だから、いつの間に私のカバンからお財布を抜いてるんですか?」
「鬼にできないことはありませんから。」
にやりと男は笑う。
「意味がわかりません。」
私もついつられて笑ってしまった。
カラオケに行く友達も機会もなかったためサトコの心臓はどくどく言っていた。また、倒れるんじゃないかと思うぐらい。まぁ、冗談で言う言葉でもないけれど。
「すごい。」
テレビが一台にマイクが2本あと曲をいれる機械しかないけやだけどサトコはすごいの言葉しか出なかった。
「サトコさんなに歌います?」
慣れた手つきで男が曲を探している。
「なんで慣れてるの?」
「勉強してますから。」
胡散臭い笑顔で男は言う。
歌は聴くけど人前で歌ったことはない。恥ずかしすぎる。ぐだぐだと考えていて何も曲が入らず、テレビだけがずっと話している時間が20分ぐらい経った時だった。男が無言で何かをいれる。
そして、曲を聴いてサトコは笑ってしまった。
「その顔で演歌?」
「好きなんですよ。」
そういいながらいい声で演歌を歌う姿が面白くてサトコは肩を震わせ笑い続けた。
そしてまた、テレビだけが話し続ける時間ができる。
「カラオケなんて、好きな曲入れて歌えばいいんですよ。ほかの人とか気にしないで。」
男はそういいながら何かをいれる。また演歌かなぁとわくわくしていたらサトコにマイクが渡された。そして知った曲が流れてくる。
「何で?」
「あなたの情報はこの手帳に書かれています。何の曲が好きかなんて朝飯前です。さあ、はいどうぞ。」
サトコは緊張しながら歌を歌う。自分の声が聞こえてきて恥ずかしくて真っ赤になりながら必死に歌う。
「終わった。」
すごい汗をかいたと思いながらサトコが休もうとしたら、また自分の好きな曲が流れてくる。
「待って、休ませて・・・・」
「カラオケは時間の戦いです。1時間しかないんですから。はい、がんばってー。」
どんどん曲が入っていく。自分の知った曲ばかり。
だんだんと羞恥心も減っていき楽しさが勝っていく。
男が盛り上げ方が上手だったというせいでもあるだろうけど。
「楽しかったですか?」
サトコに水を渡しながら男は尋ねる。
「・・・初めてだったけど楽しかった。もっと、死ぬ前に来て見たかったなぁ。」
「そうですか、よかった。では次はカフェですかね?」
「はい。でもその前にお金は・・・もう払ってるんですよね?」
「もちろんです。」
にやりと笑いまたまたサトコの手をぐいぐいひっぱていく。
「すいません。」
カフェに行く途中にいきなり知らない人に話しかけられサトコは驚く。
「いま、おしゃれカップルを探して写真撮ってるんですよ。よかったら撮らせてもらえませんか?」
「いや、」
困ります。私死んでますしと思いながら断ろうとしたときだった。
「いいですよー」普通に軽く男が私の横で返事した。
「大丈夫なの?」
私はあわてて男に小声で聞く。死んだ人間や鬼が写真で残っていいものかと。
「だれも今のあなたがサトコさんだとは思いませんよ。私も知り合いいませんし大丈夫です。」
「そんな適当でいいの?」
こっちのが心配になるぐらい適当すぎてびっくりする。
「人は非現実な物事にたいして無駄に言い訳考えてくれるから楽ですよ。自分が信じないと決めたものは絶対に信じずにあーだこーだ言ってますからねぇ。もっと気軽に生きればいいのに。」
「たしかに。」
そんな話をヒソヒソ話しているとあっという間に写真撮影は終わっていた。
「よかったら記念にどうぞー。この写真来月のこの雑誌に載るのでよかったらみてくださいね。」
にこにことカメラマンは写真と雑誌を渡してさっさと離れていく。
サトコはおしゃれといわれたことがうれしくて笑いそうになるのをぐっと我慢して写真を受け取った。
「よかったですねーでは、カフェに行きましょうか?」
男はサトコに手を差し出した。
サトコは写真を男に差し出す。
「違いますよ?」
そう言って男はまたサトコに手を差し出し、サトコも男の手を次は間違えずに握った。
「いきましょうか?」
「はい。」
サトコは本当のカップルみたいだと思いすごく恥ずかしくなって緊張したためかなかなか男と歩幅が合わせられなくなった。
それに気づいたのか男は歩幅を緩める。さっきとは違いゆっくり歩いているため男がいろいろな人に見られていることにサトコは気づいた。
さすが美形。関心と同時に死んで最後にこんな優越感が味わえるとはとサトコは笑う。数時間前はさえないブスがこんないい思いできるとはと。
「どうかしました?」
「いいえ?」
サトコは平静を装う。
「何にしますか?」
メニューは全部おしゃれな名前でよくわからない。
「サトコさん?」
「なんでもいいです。」
こんなおしゃれなカフェにこれただけでもいい思い出だから。もうこのお店のものなら何でもいいとサトコは思い男に丸投げする。
「わかりました。」
そう言って男はカウンターで何かを頼みサトコの元へと戻ってくる。
「これは?」
「マンゴーフラペチーノとチョコチップマフィンです。好きでしょう二つとも。」
「フラペチーノ?」
「簡単に言えば、マンゴーと氷をミキサーにかけたものですよ。」
「その手帳はほんとになんでも載っているんですね。」
サトコはおいしそうにマンゴーフラペチーノを飲みながら言う。
「はい。なんでも。」
にこにこと男が笑った。
「なんでも?・・・体重も?」
「はい。体重に。初恋体験談とかも。」
勢いよくサトコは手帳を男から奪おうとした。
「やめてくださいよ。仕事道具ですよ?」
「プライバシーの侵害でしょ?それ!!」
「鬼には関係ないはなしです。いいじゃないですか、私人ではないですから。」
「そういう問題では・・・・」
そういったときだった視界がいきなり変わりサトコは病院の一室にいた。
周りにはサトコの両親にサトコ自身も見える。
「ここは・・・・」
「地獄に逝く時間になったみたいです。サトコさん願いは叶えられましたか?」
「・・・はい。ありがとうございました。・・・鬼さん。」
「こちらこそ。」
男は笑う。極上の笑顔で。
「では逝きましょうか。」
そう言った時だった。
「なんだこれ?」
父親の動揺した声が聞こえる。
「どうして?」
さっき撮った写真をなぜか父親が持っている。
ちらっと男を見たら男もわからないと首を振った。
「これサトコか?」
父親は信じられないのか口が開いたままだ。
「あの子もやっぱりこういったおしゃれしたかったのね。私たちはこの子を縛りすぎたのでしょうね。だから、この子はこんな若くに命を落としたのでしょうね。私たちのせいで。もっと自由に育てていれば・・・」
母はぼろぼろと涙を流しだした。
「違う。母さん!!私二人に育てられて何も不満なかった。自分が健康を無視した生活をしたせいなの。私のせいであって二人のせいじゃない!!!!!」
「・・・・すみません。声聞こえないと思います。もうサトコさんは死んでますから。」
男は申し訳なさそうにサトコに謝る。
「・・・・・鬼さん、無理だと思いますがお願いがあるんです。」
「なんですか?」
「さっきまでの出来事全部なかったことにしてください。」
「・・・・・・いいんですか?」
「はい。確かにおしゃれしてみたかったです。でも、おしゃれした私はきっと両親にとって私ではないと思うんです。この姿で地獄には逝きたくない。両親に愛された元の姿で私は地獄で罰を受けます。いろいろしてくれたのにすみません。」
「・・・・いいえ。わかりました。わたしも仕事を早く終わらせようと無理やりそのお願いにしてすみませんでした。あの時間に戻りましょう。あなたと初めて会った時間に。」
そう言ってサトコの願いを書いた手帳のページを男は破く。
そうしたとたんにサトコの視界はグラっと揺れた。
「・・・・夢?」
「いいえ現実です・・・・イシダ サトコさんあなたの願いは何ですか?」
「・・・願い・・・・私の願いは・・・・・」
4月9日15時30分サトコは両親と病室にいた。
「・・・・・母さん、父さん今まで私が間違わないように育ててくれてありがとう。わたし・・・二人の子で幸せだった・・・・・・・・ごめんね・・・・」
「サトコ何言っているの?大丈夫よ・・・・目を開けて??」
母は震える手でサトコの手を握る。父も肩を震わしては母に寄り添っていた。
「鬼さん、私の願いは最後に両親と話させてほしい、です。」
男にサトコは頭を下げる。
男は新しいサトコの願いを手帳に書き始まる。そしてー
「さあ着きましたよ。ここが地獄です。」
「はい、いろいろありがとうございました。」
サトコの視界には毒々しい地獄がみえる。怖くないはずもなく、震える。でも、サトコはぎゅっと手を握り締めてその地獄へと足を進ませる。
それを見ずに男はすっとどこかへ消えていった。
「やあ、残業嫌いの君が今日は遅かったね。」
閻魔大王様が気軽にあの鬼へと話しかける。
「珍しいね。クロハ。あの子のために反省文なんてねぇ。」
「うるさいですよ。閻魔大王様。」
そういいながら反省文をせっせと書く。
願いを2回も聞いてあげるのはルール違反だとわかっていた。
「昔人間だったころを思い出して親近感でもわいちゃった?」
「うるさいですよ。閻魔大王様。」
同じ言葉をさっきよりも冷たく言い放ちクロハは反省文を閻魔大王様に差し出す。
「はや。さすが優秀だね。」
「・・・・・閻魔大王様では、お疲れ様でした。」
頭を深々と下げクロハは自室へと消える。
「あの、閻魔大魔王さま、クロハに甘すぎませんか?」
クロハの反省文を読みながら、髪の青色の鬼が言う。
「私はみんなに優しいと思うけどねえ」
「たしかにそうですが・・・・・・やはり、もと人間を・・・・」
「セイラン。」
閻魔様はやさしくセイランの言おうとした事をとめる。
元人間であるクロハをよく思っていない鬼たちは多い。
それもわかっているが、クロハをどう対処していいかわからないのだ。
クロハは多くの者にいたぶられ最後に自分で自害した人間だ。そのため怨みが強く地獄に来たとき鬼へと変化していた。
こんなこと初めてでどうしていいかわからず、閻魔大魔王はクロハに仕事を与えここに住まわしている。
そして、このように怨みを地獄まで持ってこないように、これ以上クロハのような鬼を作らないためにできたのがクロハがしている仕事である。
でも、この事実を知るものは少ない。
「次はぜったい残業しない。」クロハはそう心の中で誓って眠りについた。
そして、今日会ったあの人ができる限り軽めの罰でありますようにと願う。ほかの鬼が聞いたら甘いといわれるのだろうけれど。
鬼の目にも涙