背徳の蜜 第5話

背徳の蜜 第5話

ブルーローズ

ここから先はきっと底のない沼。
とろりとまとわりつく蜜に溺れ
私は何を失うことになるのだろう。
今ならまだ 引き返せると繭の中から声がする。
今なら……まだ……


バスローブの内側を探る手が止まる。

「……迷ってる?」

彼の手は敏感に心の揺れを感じ取る。

「怖い…の…かな…」

……あなたに堕ちていくのが。

「怖い…か…」

彼の手がまた私を求めて動きだす。

「それは期待…だと思っていいのかな」

「……勝手に変換しないで」

でもたぶん、それが正解。
目の前の若く美しい野生に抱かれる
甘美な世界。
怖れながらも憧れ
痛みを伴うことは分かっていても
どうしようもなく惹かれ
体はもうずっと前から
この時を待ち焦がれていた。

彼は指先でそっと私を確かめ

「期待にはお応えするよ」

そう耳元でささやく。
誘う指先。惑わせる声。
私は答える代わりに
彼のやわらかな髪に指を絡ませた。

「ねぇ…灯りを…」

「…ん?」

「もう少し…暗く…」

「いやだ」

「……でも…恥ずかしい…から」

……いつもあなたが抱く若い子とは違う。

「大丈夫さ。心配はいらない。
すぐに恥ずかしいなんて
言っていられなくなる」

彼は自信に満ちた笑みを浮かべ
私のくちびるをふさぐ。

彼の指は、私の体と対話するように動き
私の体もまた、彼の動きに呼応する。
彼の指が動くたびに
少しずつ理性が失われていくのがわかる。

恥じらいは重ねたくちびるから漏れる
吐息とともに消え
私は思考を手放し彼に身を委ねた。

彼の愛しかたはとても丁寧で
互いの舌の感触をたっぷりと楽しんだ後
くちびるは名残惜しそうに離れ
そこからくちづけは全身に及ぶ。

頬から耳のうしろ。
首筋をたどり鎖骨から肩へ。
熱を帯びた私の体を、さらに深く開いていく。

やさしく手をとり手の甲、そして指先。
手のひらをペロリと舐めたのがくすぐったくて
思わず手を引くと
いたずらっ子みたいな顔で
その手を掴んで自由を奪い
胸の稜線をたどり始める。

彼は私の小さな反応を見逃さず
その反応を楽しむように舌先で遊び
私が堪らず声をあげると
しばらくまたそれを楽しむ。
丹念に探り、問いかけ、拓(ひら)いていく。

目覚めた肌は、もう触れられるだけで
どうにかなってしまいそうで
彼の舌の動きに合わせて
静かな部屋に私の声が切なく響く。

彼は乱れていく私を冷静に観察し
次の場所を探し求める。

私の体中に張り巡らされた葉脈に水は流れ
葉は潤い、花は溢れんばかりの
甘い蜜を湛える。
彼はその蜜をそっと指先ですくい
その隣でまだ咲ききらぬ
つぼみの開化を促す。

背徳の蜜 第5話

背徳の蜜 第5話

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-04-08

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