悪魔と亀

もう、春ですね。

 東京のはずれの、小さな町に古びたアパートがありました。そのアパートの一室に悪魔が住んでいました。悪魔は毎朝だいたい七時ぐらいに起きて、朝ご飯を食べて新聞を読みながらウンコをして、洗濯や掃除を終えると飼っている亀にエサを与える事を日課にしていました。今日もいつもの様に亀にエサをやろうと思ったところ、エサが残り少ない事に気づきました。悪魔は財布をポケットに入れて、部屋を出て自転車に乗り近くのペットショップに亀のエサを買いに向かいました。交差点で信号待ちをしていると、横から凄いスピードで自転車に乗った若い男が悪魔の乗った自転車にぶつかってきました。自転車ごと倒れた悪魔に目もくれず、若い男は走り去ろうとしたので、悪魔は「力」(パワー)を使ってその男の首をへし折ってやりました。折れた首が右に曲がっていた為、走っている自転車も右に曲がって進んで行き電柱に激突して止まりました。
 悪魔は自転車でペットショップに着くと亀のエサを買い、そのまま近くの公園まで走っていきました。公園の桜の木はまだ三分咲きぐらいでしたが、悪魔は充分に景色を楽しみました。
「そうだ、ここまで来たついでにあのラーメン屋に行ってみよう」
 悪魔は自転車を公園の駐輪場に停め、前から気になっていた行列の出来るという噂のラーメン屋に寄ってみる事にしました。
 歩いてラーメン屋まで行くと、やはり店の前には行列が出来ていました。悪魔が行列に並んでいると、三人のおばちゃん達が悪魔の前に割り込んできました。悪魔は三十分程行列に並んで待ち、やっと入店するとおばちゃん達は美味しそうにラーメンを食べていました。悪魔は「力」でそのおばちゃん達のラーメンのドンブリの中に百匹ずつゴキブリをトッピングしてやりました。店内は大騒ぎになってしまったので仕方無く悪魔はラーメンをあきらめて店を出ました。
 悪魔は帰る途中でコンビニに寄って弁当を買う事にしました。コンビニの駐車場に自転車を停めたところ、一人の酔っ払ったオヤジが悪魔にからんできました。悪魔は「力」でオヤジの肝臓を体内から引きずり出して地面に叩きつけてやりました。オヤジは白目を剥いて血の海の中に倒れ込んでいきました。
 悪魔がアパートに帰ってきた時にはもう辺りは暗くなっていました。部屋に入ると、水槽の中で亀が仰向けになって死んでいました。
 悲しみのあまり、悪魔は声を上げて泣きました。一晩中泣いても、亀は生き返りませんでした。次の日、悪魔は自転車で公園まで行くと、桜の木の根元に小さな穴を掘り亀を埋めてやりました。

 なぜか、桜は満開になっていました。 (終)

悪魔と亀

サザンオールスターズの「葡萄」を聴いていたら、なぜかこの話を思いつきました。桑田さん、ごめんなさい。

悪魔と亀

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-06

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